アトピー性皮膚炎は、痒みや炎症などの症状から多くの方々に悩みをもたらす慢性疾患です。
従来の標準治療は、ステロイド外用薬が主な治療薬ですが、皮膚の萎縮や毛細血管拡張といった副作用が懸念されています。
そのような背景から最新の研究が進められ、現在では新たな治療法が登場。
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)は、その中でも注目されている治療薬の一つで、効果および安全性が国際学会誌などでも高く評価されています。
この記事ではコレクチム軟膏について詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)の有効成分と効果、作用機序
有効成分
コレクチム軟膏に含まれる主要な有効成分はデルゴシチニブです。0.5%デルゴシチニブ配合と0.25%デルゴシチニブ配合の2タイプが現在販売されています。
デルゴシチニブは近年の研究でアトピー性皮膚炎の治療において有効であることが確認されており、アトピー性皮膚炎に特有の炎症反応を抑える働きが1)。
作用機序
アトピー性皮膚炎は皮膚の炎症が原因で起こる疾患で、いくつかのシグナル伝達経路の異常により引き起こされます。
デルゴシチニブはこれらのシグナル伝達経路のうち、特定の酵素の活性を阻害することで炎症の発生を抑えることが可能です2)。
以下のような働きによって、アトピー性皮膚炎の症状を引き起こす炎症反応を効果的に抑制します3)。
- JAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素の活性を阻害する。
- 炎症のシグナル伝達経路の異常を修正する。
- 炎症物質の産生を抑える。
効果
デルゴシチニブを有効成分とするコレクチム軟膏は、アトピー性皮膚炎の症状を改善する下記のような効果が期待されます。
- 炎症の抑制: 皮膚の赤み、腫れ、熱感を和らげる。
- 痒みの緩和: アトピー性皮膚炎の主な症状の一つである痒みを緩和。
- 皮膚のバリア機能の向上: 皮膚の乾燥やひび割れを防ぐための皮膚の防御機能を高める。
またコレクチム軟膏の最大のメリットとして、安全に長期間使用できるという点が。
アトピー性皮膚炎の治療によく使用されるステロイド外用薬は、長期使用によって皮膚の萎縮(薄くなること)や毛細血管拡張といった不可逆性の副作用が起こる可能性があります。
副作用は特に顔や首といった部位で起こりやすく、長期で使用しにくいというデメリットがありました。
非ステロイドの免疫抑制外用薬には、以前よりタクロリムス軟膏(プロトピック)がありますが、使用時に灼熱感や痒みなどの刺激を認めるケースがよくあります。
コレクチム軟膏は刺激などの副作用も認めにくく、使いやすい外用薬であることが特徴です。
参考文献
1) Nakagawa H, et al. Delgocitinib ointment, a topical Janus kinase inhibitor, in adult patients with moderate to severe atopic dermatitis: A phase 3, randomized, double-blind, vehicle-controlled study and an open-label, long-term extension study. J Am Acad Dermatol.2020; 82(4):823-831.
2) William D, et al. JAK inhibitors in dermatology: The promise of a new drug class. J Am Acad Dermatol.2017;76(4):736-744.
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)の使用方法と注意点
コレクチム軟膏は、適切な使用方法を守ることで、治療効果を最大限に得ることができます。
- 適切な量を使用する:過度に多い量を使用しても効果が上がるわけではありません。成人の場合、1回の塗布量の上限は5gとされています。
小児の場合は体格によって上限の量が考慮されるので、医師や薬剤師から指示された適切な量を、指の先を使ってやさしく塗布してください。 - 清潔な皮膚に塗布する:治療効果を最大限に引き出すためには皮膚が清潔で乾燥していることが大切です。塗布する前に優しく洗浄し、十分に水分を拭き取ってから軟膏を塗布してください。
- 1日の塗布回数を守る:指示された回数以上に塗布することは推奨されておらず、通常、1日2回の塗布です。医師の指示に従ってください。
注意点
コレクチム軟膏を使用する際には、以下の点に注意してください。
- 軟膏を経口摂取しないよう注意し、子供の手の届かない場所で保管。
- 傷や裂け目がある部分、または感染している部分には使用しない(皮膚のバリアが損傷している部分での使用は、効果や安全性が異なる可能性)。
- 万が一、薬が眼に入った場合はただちに水で洗い流す。
コレクチム軟膏の使用に関する疑問や不安がある場合は医師や薬剤師にご相談ください。適切なアドバイスを受けることで、より安全で効果的な治療が可能となります。
適応対象となる患者さん
コレクチム軟膏は、多くのアトピー性皮膚炎の患者さんに有効性が認められていますが、すべての患者さんに適しているわけではありません。ここでは、適応対象になる患者さんについてご説明します。
- 症状の重度:これまでの報告で、コレクチム軟膏は中等度以上のアトピー性皮膚炎の患者さんに対する効果が認められています3)。
Strongクラスのステロイドと効果は同等と考えられており、炎症所見がかなり強いケースでは炎症を早く抑えるために最初にステロイド外用薬を処方されることがあります。
顔や首など部分的に使用されたり、ステロイド外用薬によって症状の改善を認めた後、寛解導入目的に選択される場合が多いです。 - 年齢:多くの臨床試験では成人を対象として効果が確認されていますが、一部の試験では小児や高齢者に対する安全性や効果も確認されています4)。
通常の0.5%デルゴシチニブ配合のコレクチム軟膏に加え、2021年には6ヶ月以上のアトピー性皮膚炎の患者さんに使用できる0.25%のコレクチム軟膏が発売開始されました。 - 既往歴:過去に他の治療法や薬物療法で十分な効果を得られなかった患者さんや、他の治療法に対して適応外、または適応困難な患者さんに対しても、使用が考慮されます。
- 他の疾患や合併症の有無:免疫を抑制する作用があるため、アトピー性皮膚炎の症状がある部位に感染症や他の皮膚疾患が合併している場合の使用は推奨されません。
また、一部の内科的疾患や全身的な疾患を有する場合も使用に際して注意が必要となるケースがあります。 - アトピー性皮膚炎の治療歴:他の治療法や薬物療法を受けている患者さんの場合、併用時の安全性や効果に関して、医師と十分な相談を行う必要があります。
コレクチム軟膏の使用を考慮している患者さんは、自身の症状や体調、既往歴などを医師に詳しく伝えることが大切です。
参考文献
3) Nakagawa H, et al. Efficacy and safety of topical JTE-052, a Janus kinase inhibitor, in Japanese adult patients with moderate-to-severe atopic dermatitis: a phase II, multicentre, randomized, vehicle-controlled clinical study. Br J Dermatol. 2018; 178(2):424-432.
4) Nakagawa H, et al. Delgocitinib ointment in pediatric patients with atopic dermatitis: A phase 3, randomized, double-blind, vehicle-controlled study and a subsequent open-label, long-term study. J Am Acad Dermatol. 2021;85(4):854-862.
お子さま、ご高齢の方への使用に関して
コレクチム軟膏はお子さまやご高齢の方への使用には注意が必要です。年齢によって皮膚の特性や代謝が異なるため、使用方法や注意点が変わってきます。
お子さまの場合
コレクチム軟膏0.25%は、6ヶ月以上のお子さまから使用可能です。ただ、小児の皮膚は大人と比べて薄くてデリケートであるため、薬の吸収率が高くなる可能性が考えられます。
特に乳幼児や小児の場合、コレクチム軟膏の安全性や効果については限定的なデータしかないため、十分な注意が必要です。医師の指示のもと、適切な量を正しく塗布してください。
また、お子さまの場合、皮膚のバリア機能が完全に発達していないため、皮膚の乾燥や刺激による炎症を引き起こしやすいので、コレクチム軟膏を使用する際は、併せて保湿ケアも行うことが推奨されています。
ご高齢の方の場合
ご高齢の方の皮膚は、年齢とともに薄くなり、弾力が失われる傾向にあります。これにより、皮膚の微細な傷や摩擦によるダメージが生じやすくなります。
そのため、コレクチム軟膏を使用する際は、優しく塗布するようにしてください。
また、ご高齢の方は、体の代謝や薬物の排泄速度が低下しているため、薬物が体内に留まる時間が長くなることも考えられます。
そのため、過剰な使用や連続的な使用は避け、医師の指示に従って適切な使用を心掛けることが大切です。
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)の治療期間
アトピー性皮膚炎は症状が良くなったり、悪くなったりを繰り返します。コレクチム軟膏を適切に使用することで効果を最大化するだけでなく、再発を予防することも可能です。
ここでは、一般的なアトピー性皮膚炎におけるコレクチム軟膏の投与期間について解説します。
増悪時の使用
コレクチム軟膏にはステロイド外用薬と同様炎症を抑える効果があり、Strongクラスと同等の強さと言われていますが、効き目はややマイルドです。
アトピー性皮膚炎に限らず、ステロイド外用薬は炎症の程度や部位、年齢などを考慮し、強さを決めていきます。
そのため急性増悪の際、炎症所見が顕著な場合は強いステロイド外用薬が選択されることが多いです。
寛解維持期の使用
コレクチム軟膏はステロイド外用薬のような長期間使用時における副作用の懸念がありません。そのため、通常症状が改善し炎症の程度が軽度になったタイミングでコレクチム軟膏への切り替えを図ります。
保湿剤との併用
アトピー性皮膚炎では「プロアクティブ療法」と言って、症状が改善しても保湿剤をうまく使いながら薬を継続的に塗布するやり方が、再発予防の観点からも重要です。
コレクチム軟膏をプロアクティブ療法にうまく取り入れながら、再発を予防していくことでトータルの薬の量を減らすことも可能になります。
注意点
- コレクチム軟膏は、医師の指示通りの期間だけ使用。
- 使用を中止する際や使用期間を延長する際は、必ず医師と相談。
- 副作用や効果の変化を感じた場合、ただちに医師に連絡。
- 他の薬との併用については、医師や薬剤師と相談。
コレクチム軟膏の副作用やデメリット
コレクチム軟膏はアトピー性皮膚炎の治療に有効であるとされていますが、その一方で副作用やデメリットもあります。以下は主な副作用をまとめた表です。
副作用 | 注意点 |
---|---|
肌の赤み | 適切な保湿を行うことで緩和可能 |
毛包炎 | 他の薬との併用が必要な場合も |
ざ瘡(ニキビ) | 毛包虫(ニキビダニ)が関与している可能性 |
刺激感 | タクロリムス(プロトピック)と比較するとかなりまれ |
デメリット
- 使用制限: コレクチム軟膏は使用量に上限があります。そのため、広範囲に症状を認める場合は他の薬との併用が必要。
妊娠中または妊娠の可能性がある方や授乳中の方は、使用するメリットがデメリットを上回ると判断した場合にのみ使用。 - 効果の遅れ: 炎症の程度によっては、効果が出現するまでに時間がかかる可能性。
- コスト: 他の治療法と比較して、コレクチム軟膏は高価。
コレクチム軟膏に効果がなかった場合の代替治療薬
コレクチム軟膏は多くの患者さんに効果を示すアトピー性皮膚炎の治療薬ですが、全ての患者さんに効果を認めるわけではありません。
もし、この薬で効果を示さない場合や、副作用で使用を中止した場合には、以下の代替治療薬が考慮されます。
コレクチム軟膏の主な代替治療薬
代替治療薬 | 特徴 | 使用時の注意点 |
---|---|---|
タクロリムス軟膏(プロトピック) | 免疫反応を抑制し、炎症を軽減5) | 灼熱感などの刺激を感じることも |
ステロイド外用薬 | 強力な抗炎症作用 | 長期使用により皮膚が薄くなるなどのリスク |
ウパダシチニブ(リンヴォック) | JAK阻害薬の内服薬で、顔の紅斑に特に効果 | 感染症などのリスク |
デュピクセント | 生物学的製剤で、重症のアトピー性皮膚炎に | 注射による治療で比較的高額 |
その他、コレクチム軟膏の外用に加えて以下の治療を併用することもあります。
- 光線療法: 特定の波長の光を皮膚に照射し、炎症を抑制。
- 免疫抑制内服薬(シクロスポリン、商品名ネオーラル):コレクチム軟膏はシクロスポリンとの併用も可能。
また、皮膚の乾燥はアトピー性皮膚炎の症状を悪化させるため、日常的に保湿クリームやローションを使用することに加え、ストレスの軽減、アレルゲンを避けるなどの生活習慣の見直しも症状の改善に重要です。
参考文献
5) Umar BU, et al. Management of Atopic Dermatitis: The Role of Tacrolimus. Cureus. 2022; 14(8): e28130.
他の治療薬との併用
コレクチム軟膏と患者さんが用いる他の薬や治療法には、併用に際して注意が必要なものもありますが、併用が禁忌であるものはありません。
以下の注意点を踏まえ、主治医と他の治療薬との併用について十分に相談されることをおすすめします。
併用時の一般的な注意点
- 複数の薬を併用する場合、各薬の効果や副作用が相互に影響することが考えらる。
- 外用薬を併用する場合は同一部位に塗り重ねるよりも、部位によって塗り分けるやり方が望ましい6)。
- 併用禁忌とされていない薬でも、個人の体質や状態により副作用が出ることも。
併用することで治療効果を高めたいと考える方もいらっしゃると思いますが、薬の相互作用や重複した副作用のリスクを適切に管理することが大切です。
参考文献
6) 日本皮膚科学会ガイドライン デルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏0.5%)安全使用マニュアルより
保険適用について
コレクチム軟膏はアトピー性皮膚炎にのみ保険適用があります。他の疾患においてコレクチム軟膏を使用する際は、保険適用外となることにご留意ください。
薬価は、コレクチム軟膏0.5%は1g139.70円となっています。1本につき5gなので、1本あたり約700円で、3割負担で209円/本となり、他のステロイド外用薬などと比べると高額です。
それ以外に初診料または再診料、処置料などが追加されます。
具体的な治療の内容や費用については、お問い合わせください。