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アポハイドローション|原発性手掌多汗症治療剤

アポハイドローション

アポハイドローションとは、原発性手掌多汗症(手汗)の治療に使用される薬です。

多汗症は過剰な発汗によって、社会生活や日常生活に大きな影響を与えることがあります。

アポハイドローションは手汗で悩む多くの患者さんにとって、日常生活の質を向上させる治療剤です。

この記事では、アポハイドローション(原発性手掌多汗症治療剤)について詳しく解説していきます。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

アポハイドローションの有効成分と効果、作用機序

原発性手掌多汗症は多くの方々が悩む症状で、手汗によって書類が濡れたり、勉強に集中ができなかったりと、日常生活に支障をきたすことがあります。

その治療方法として、これまで塗り薬では、汗腺の出口を一時的に塞ぐことで制汗作用を発揮する塩化アルミニウム(保険適用外)が使用されていましたが、2023年よりアポハイドローションが原発性手掌多汗症に対して保険適用となりました。

有効成分

アポハイドローションの主要な有効成分は「オキシブチニン塩酸塩」です。アポハイドローションにはオキシブチニン塩酸塩が20%配合されています。

作用機序

手の汗はエクリン汗腺から分泌されますが、交感神経の支配下にあり、神経伝達物質であるアセチルコリンが放出されることで汗の分泌が促進。

アポハイドローションの有効成分であるオキシブチニン塩酸塩は、アセチルコリンの放出を阻害する抗コリン作用を持ち、この機能によって汗の分泌を減少させます。

効果

引用元:https://www.intramed.net/contenidover.asp?contenidoid=95438&pagina=2

アポハイドローションの制汗作用により、以下のような効果が期待されます。

  • 手のべたつきによる勉学・仕事に対する支障の改善
  • 社会生活や日常生活における不便の軽減
  • 汗による対人関係の不安の軽減

アポハイドローションの使用方法と注意点

使用方法

アポハイドローションは1日1回、就寝前に適量を両方の手のひら全体に塗布します。1回の塗布量の目安は、ポンプ5プッシュ分です。

使用時の注意点

  • 傷や湿疹・皮膚炎などがある部位には使用を避ける。
  • 起床後、手を洗うまでの間に他の部位に触れない。
  • 製品が目に入らないように注意し、万が一目に入ってしまったら直ちに水で洗い流す。
  • 塗布した場所をラップや手袋などで覆って密封しない。
  • お子さまが誤って触れないように管理。

適応対象となる患者さん

アポハイドローションは、重度の原発性手掌多汗症に対してのみ保険が適用されます。腋窩など、他の部位には使用できません。

重症度は、HDSS(Hyperhidrosis disease severity scale、多汗症疾患重症度評価度)というスコアがあり、自覚症状により4段階に分類されます。

引用元:https://ecclock.jp/product/clinical/efficacy-evaluation/

このうち、アポハイドローションが適応となるのはHDSSスコアが3、もしくは4の患者さんです。日常生活において汗が我慢できないことが一つの適応の指標となります。

症状説明
過剰な手汗手のひらの過剰な発汗が我慢できない
社会的・職業的影響手汗が日常生活や仕事に影響を与えている
心理的ストレス発汗による恥ずかしさや不安感がある

これらの症状を持つ患者さんは、アポハイドローションの適応があります。

アポハイドローションの使用を避けるべき患者さん

アポハイドローションは、使用することができない方もいます。

前立腺肥大症がある方

前立腺肥大症があり、かつ排尿障害がある方は使用できません。排尿障害がない場合でも、使用することで抗コリン作用(排尿時に膀胱が収縮しなくなる)により尿が出なくなる可能性があります。

使用前に必ず医師にご相談ください。

閉塞隅角緑内障がある方

緑内障の中でも閉塞隅角緑内障の方は、使用できません。抗コリン作用によって眼圧が上昇し、緑内障の症状を悪化させる恐れがあります。

使用前に必ず医師にご相談ください。

塗布部位に傷や湿疹、皮膚炎等がみられる方

傷や湿疹、皮膚炎等がある部位への使用はできません。これらの部位では、薬剤が体内に吸収されやすくなり、抗コリン作用による副作用が現れるリスクが高まることがあります。

特定の背景を有する方への使用

お子さんへの使用

12歳未満の小児等を対象とした臨床試験は行われていません。12歳未満の方に使用する際は、保護者の指導のもと使用します。

詳しくは主治医にご相談ください。

妊娠中や授乳中の方への使用

妊娠中または妊娠している可能性のある方に対して、使用は禁忌ではありませんが避けることが望ましいとされています。

また、授乳中の方への使用は、治療と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳を続けるか中止するかを判断したうえで処方することもあります。

該当される方は、事前に主治医と相談してください。

アポハイドローションの治療期間

アポハイドローションの治療に定められた期間はなく、早いと数日〜2週間程度で症状の改善を認め、平均では6週間前後で効果を実感する方が多いです。

治療効果が認められれば継続して使用することができ、国内で行われた長期投与試験では52週の時点でも有効性が認められています。

引用元:https://www.researchgate.net/figure/Visual-scale-for-the-quantification-of-palmar-hyperhidrosis

アポハイドローションの副作用やデメリット

アポハイドローションは原発性手掌多汗症に有効な薬ですが、その一方で副作用やデメリットもあります。

アポハイドローションの一般的な副作用

アポハイドローションの主な副作用

副作用説明
皮膚症状アポハイドローションの成分で接触皮膚炎を認めたり、赤みや痒みなどの刺激症状を引き起こす可能性
抗コリン症状眩しく見えたり霞んで見えたりする症状(霧視)や、ドライアイ、排尿困難、頻尿、口の渇きといった抗コリン作用が出ることが
代償性発汗長期使用の場合、他の部位の発汗が増加する可能性

アポハイドローション使用のデメリット

アポハイドローションの使用には、いくつかのデメリットがあります。。

  • 限定的な効果範囲: 塗布された部位にのみ効果を発揮し、適応は手のひら(手掌)のみで、脇や全身性の多汗症には使用できない。
  • 継続的な使用の必要性: 効果を維持するためには定期的な塗布が必要。
  • 日常生活への影響: 塗布後の乾燥時間が必要なため、日常生活の一部の活動に影響を与える可能性。

アポハイドローションで効果がなかった場合

アポハイドローションは、すべての方に効果があるわけではありません。効果が不十分だったり、副作用で使用できない場合は他の治療オプションを検討することに。

原発性手掌多汗症の治療には、薬物療法(外用、内服及び注射薬)、手術療法などがあります。

アポハイドローションはこのうち外用薬物療法にあたり、他に塩化アルミニウム製剤も手の多汗症に有効です。表皮の汗管を閉塞することで制汗作用を発揮します。アポハイドローションとの併用も可能です。

また、イオントフォレーシス療法という、電流を液体中で通電することで発汗を抑制する治療法も手の多汗症では保険適用で、ガイドラインにおいても推奨度B(行うよう推められる)となっています。

これら外用薬の効果が見られない重度の原発性手掌多汗症に対してはボツリヌス毒素製剤の局所注射や抗コリン薬の内服を検討。また、治療の補足として心理療法が行われることもあります。

外科的な治療法として、保存的な治療に効果なく、さらに患者さん本人の希望が強いことを条件に、交感神経遮断術が適応となるケースも。

ただし、遮断術に伴う副作用もありますので、専門医としっかり話し合ったうえで治療方針を決めていくことが大切です。

他の治療薬との併用禁忌

アポハイドローションと併用禁忌となる薬はありません。

保険適用について

アポハイドローション20%は、重度の原発性手掌多汗症に対して保険が適用されます。

薬価は、1gあたり545.8円で、1本の価格は2358円です。

タイプ薬価に基づく薬の価格
アポハイドローション20%2358円/本(3割負担で約707円)

保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。

詳しくはお問い合わせください。

参考文献

添付文書 医療用医薬品:アポハイド

日本皮膚科学会ガイドライン 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023改訂版

坂東歩美. 原発性手掌多汗症治療剤 オキシブチニン塩酸塩ローション (アポハイドローション 20%). 日本病院薬剤師会雑誌= Journal of Japanese Society of Hospital Pharmacists, 2023, 59.10: 1195-1197.

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ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

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