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がんの症状と早期発見全身に共通する警告症状

がんは、早期に発見し対応を開始することが、治療の選択肢を広げ、治癒の可能性を高める上で非常に重要です。

多くのがんは、発生した臓器特有の症状(例えば、胃がんなら胃の不快感、肺がんなら咳や血痰)を示しますが、中には特定の部位に関わらず、全身に共通して現れる「警告症状」があります。

これらのサインは、がん細胞が体内の栄養を消費したり、免疫系に影響を与えたりすることで生じます。

この記事では、がんの早期発見の手がかりとなる可能性のある、全身に共通する症状について詳しく解説します。

体重減少・食欲不振

がんの警告症状として比較的よく知られているのが、説明のつかない体重減少や続く食欲不振です。これらは、がん細胞が体のエネルギー代謝に影響を及ぼす結果として現れることがあります。

特に、食事制限や運動量の増加といった明確な理由がないにもかかわらず体重が減り続ける場合は、注意が必要です。

説明のつかない体重減少とは

「説明のつかない体重減少」とは、意図的なダイエットなどを行っていないのに、体重が著しく減る状態を指します。

がん患者の場合、がん細胞が正常な細胞から栄養を奪ったり、体の代謝を変化させたりすることで、エネルギー消費が亢進(こうしん)することがあります。

体重減少の目安

一般的に、過去6ヶ月から12ヶ月の間に、特に理由なく体重が4.5kg以上、あるいは体重の5%以上減少した場合は、医学的な精査を必要とするサインと考えます。

この減少が急激であるほど、体に何らかの異変が起きている可能性を示唆します。

体重減少を引き起こす理由

がんによる体重減少は、単に食べる量が減るからだけではありません。

がん細胞が放出する物質(サイトカインなど)が、体内の脂肪やタンパク質の分解を促進し、安静時のエネルギー消費量を増加させることが一因です。

この状態は「がん悪液質(あくえきしつ)」と呼ばれることもあり、体重減少と筋力低下を特徴とします。

食欲不振とその影響

体重減少と密接に関連するのが食欲不振です。

食べ物に対する関心が薄れたり、以前のように食べられなくなったりする状態が続く場合、栄養摂取量が不足し、体重減少に拍車をかけることになります。

がんと食欲不振の関係

がんそのものが食欲をコントロールする脳の中枢に影響を与えたり、消化器系のがん(胃がんや膵臓がんなど)が直接的に消化・吸収を妨げたりすることで、食欲不振が生じます。

また、がんによる痛みや倦怠感が、食べる意欲を低下させることもあります。

栄養状態の悪化がもたらす問題

食欲不振による栄養不足は、体力や免疫力の低下を招きます。

これは、感染症にかかりやすくなるだけでなく、将来的にがん治療(手術、化学療法、放射線治療など)が必要になった際、その負担に耐える力を弱めてしまう可能性があります。

注意すべき体重減少と食欲不振のサイン

症状具体的な目安考えられる背景
体重減少半年で体重の5%以上減少(意図せず)がん細胞による栄養消費、代謝の変化
食欲不振以前好きだったものが食べたくない状態が続くがんによる食欲中枢への影響、消化機能の低下
早期満腹感少し食べただけですぐにお腹がいっぱいになる胃の圧迫や消化管の運動低下

「がん悪液質(カヘキシア)」とは?

がんによる体重減少の背景には、しばしば「悪液質(あくえきしつ)」と呼ばれる状態があります。

これは、がん細胞が出す物質によって体の代謝が変わり、筋肉や脂肪が勝手に分解されてしまう現象です。

重要なのは、この体重減少は「無理に食べても回復しにくい」という点です。

「もっと食べなきゃ治らない」とご自身や家族を追い詰めるのではなく、医療スタッフに相談して、栄養療法や適切なケアを受けることが大切です。

持続する疲労感

誰でも日常生活で疲れを感じることはありますが、がんに関連する疲労感は、その質や程度が異なります。

十分な休息をとっても回復しない、または日常生活に支障をきたすほどの強いだるさが続く場合は、体の異常を知らせるサインかもしれません。

がん関連疲労(CRF)とは

「がん関連疲労(Cancer-Related Fatigue, CRF)」は、がんそのもの、あるいはがん治療に関連して生じる、持続的かつ主観的な疲労感を指します。

これは単なる眠気や一時的な疲れとは区別されます。

通常の疲労との違い

通常の疲労は、特定の活動の後に生じ、休息によって改善するのが一般的です。

しかし、がん関連疲労は、活動量に見合わないほどの強い疲労感として現れ、一晩眠ってもすっきりと取れないことが多いのが特徴です。

  • 休息しても回復しにくい
  • 日常の活動に比べて不釣り合いに強い
  • 明確な原因がないまま持続する

疲労感が続く理由

がん細胞が体内で増殖する過程で、体は防御反応として様々な物質を放出します。これらの物質が炎症を引き起こし、脳や筋肉に作用して疲労感を生じさせると考えられています。

また、がんによる貧血、栄養不足、痛み、精神的ストレスなども疲労感を増強させる要因となります。

疲労感が生活に及ぼす影響

持続する強い疲労感は、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させます。単に「だるい」だけでなく、様々な側面に影響が及びます。

日常活動の制限

これまで普通にできていた仕事、家事、趣味などが、疲労感のために困難になることがあります。集中力や記憶力の低下を伴うこともあり、社会生活にも支障をきたす場合があります。

精神的な負担

体が思うように動かないことへの焦りや、周囲に理解されにくいことから、不安感や抑うつ気分を引き起こすことも少なくありません。疲労感が強いと、気力も湧きにくくなります。

通常の疲労とがん関連疲労の比較

項目通常の疲労がん関連疲労(CRF)
原因過労、睡眠不足、ストレスなど明確がん自体、貧血、代謝異常など複合的
回復十分な休息や睡眠で改善する休息をとっても十分に回復しない
程度行った活動に見合ったレベル活動量に見合わないほどの強い疲労感

発熱・寝汗

風邪や感染症にかかっていないのに、原因不明の微熱が続いたり、夜間にびっしょりと汗をかいて目が覚めたりする症状も、がんの全身症状として現れることがあります。

これらは、体の免疫系ががん細胞に反応しているサインである可能性があります。

原因不明の発熱(不明熱)

がんによる発熱は「腫瘍熱(しゅようねつ)」と呼ばれることがあります。

特に血液系のがん(白血病やリンパ腫など)でよく見られますが、固形がん(内臓などのがん)でも、がんが大きくなるにつれて現れることがあります。

がんと発熱の関係

がん細胞そのものが発熱物質を産生したり、がん組織が壊死(えし)すること、あるいはがんに対する免疫反応として炎症を引き起こす物質が放出されることなどが、発熱の原因と考えられています。

特に注意が必要な発熱のパターン

感染症による発熱は、通常、高熱が出ても数日でおさまるか、原因がはっきりしています。

一方、がんに関連する発熱は、38度以下の微熱がダラダラと続くことが多い、あるいは高熱が周期的に現れるなど、典型的でないパターンを示すことがあります。

大量にかく寝汗(盗汗)

寝汗は、室温が高い、厚着をしているなどの理由がなくても、パジャマやシーツが濡れるほど大量にかく汗を指し、「盗汗(とうかん)」とも呼ばれます。

寝汗の特徴

がんに関連する寝汗は、特に夜間に集中し、目覚めたときにびっしょりと濡れているのが特徴です。発熱を伴うことも多く、特にリンパ腫などの患者によく見られる症状として知られています。

発熱と寝汗が同時に現れる場合

原因不明の発熱と寝汗、そして体重減少が同時に現れる場合、特に注意が必要です。

これらは、体が何らかの異常事態に陥っていることを強く示唆するサインであり、速やかな医療機関の受診が重要です。

注意すべき発熱と寝汗の症状

症状特徴確認すべき点
持続する発熱感染症の兆候がないのに微熱が続く解熱剤を飲んでも一時的にしか下がらないか
大量の寝汗夜間、着替えが必要なほど汗をかく室温や寝具は適切か
発熱と寝汗の併発両方の症状が同時に、または交互に現れる体重減少や疲労感も伴っていないか

痛みの変化

痛みは非常にありふれた症状ですが、がんのサインとしての痛みにはいくつかの特徴があります。

新たに出現した痛み、特にそれが持続する場合や、これまでに経験したことのない性質の痛みである場合は、慎重な観察が必要です。

持続する痛み

がんによる痛みは、初期段階では現れにくいこともありますが、がんが進行して周囲の神経や骨、他の臓器を圧迫したり、浸潤(しんじゅん:染み込むように広がること)したりすると、痛みとして感じられるようになります。

痛みが発生する理由

痛みは、がん組織が大きくなることで物理的に神経を圧迫するために生じます。また、がん細胞が骨に転移すると、骨がもろくなって痛みが出たり、骨折(病的骨折)を引き起こしたりします。

さらに、がん細胞が放出する化学物質が、痛みを感じる神経を刺激することもあります。

痛みの場所とがんの種類

例えば、持続する腰痛や背中の痛みは、膵臓がんや腎臓がん、あるいは他のがんからの骨転移の可能性があります。

しつこい頭痛は脳腫瘍や脳転移のサインかもしれません。痛みの場所が、がんの存在場所を示唆することもあります。

痛みの性質の変化

単に痛いというだけでなく、その「痛みの質」に注目することも大切です。

これまでの痛みとの違い

「ズキズキする」「重苦しい」「締め付けられるよう」「電気が走るよう」など、痛みの表現は様々です。

これまでに経験した肩こりや腰痛とは明らかに違うと感じる、あるいは安静にしていても痛みが和らがない場合は、注意が必要です。

鎮痛剤が効きにくい痛み

市販の鎮痛剤を飲んでも一時的にしか効かない、あるいは全く効果が見られない痛みも、がんを含む重大な病気の可能性があります。痛みが徐々に強くなっている場合も同様です。

がんの可能性を考慮する痛みの特徴

痛みの種類特徴考えられる部位の例
持続する痛み安静時や夜間にも痛みが続く骨転移、神経への浸潤
性質の変化これまでの痛みと質が異なる、徐々に悪化腫瘍の増大による圧迫
特定の部位の痛み持続する頭痛、背部痛、腰痛など脳腫瘍、膵臓がん、骨転移など

がんの早期発見に関するよくある質問

ここで挙げられた症状(体重減少、疲労感、発熱、痛み)があれば、必ずがんでしょうか?

いいえ、そうとは限りません。これらの症状は、がん以外の多くの病気(例えば、感染症、甲状腺機能亢進症、リウマチなどの自己免疫疾患、うつ病など)でも現れることがあります。

大切なのは、これらの症状が「説明がつかない」まま「持続する」場合です。他の病気の可能性も含めて、原因を特定するために医療機関を受診することが重要です。

どの症状が一番危険、あるいは緊急性が高いですか?

症状の危険度に単純な優劣をつけることは困難です。症状の強さや現れ方は、がんの種類や進行度、個人の体質によって様々だからです。

注目すべきは、単一の症状よりも、複数の症状(例:体重減少と持続する疲労感、発熱と寝汗)が同時に現れている場合や、症状が急速に悪化している場合です。

これらは体が発する強い警告信号と考え、早急に医師に相談してください。

これらの症状に気づいたら、何科を受診すればよいですか?

どの症状が最も気になるかによりますが、特定の部位(例えば、激しい頭痛なら脳神経外科)が明確でない場合は、まずはかかりつけ医、あるいは総合内科や一般内科を受診することをお勧めします。

医師が全身の状態を問診し、必要な検査(血液検査、画像検査など)を行い、疑われる原因に応じて適切な専門診療科を紹介します。

早期発見の最大のメリットは何ですか?

がんを早期に発見する最大のメリットは、治癒(ちゆ)できる可能性が格段に高まることです。

早期がんであれば、手術で取り切れる可能性が高いほか、内視鏡治療や放射線治療など、体への負担が少ない治療法を選択できる場合も多くなります。

治療期間が短くなれば、それだけ早く元の生活に戻ることも期待できます。

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