がん遺伝子検査の費用とメリット|「陽性」の意味と家族への影響

遺伝子検査が解き明かすがんリスクと備え

「がん」という病気は、今や日本人の二人に一人が経験すると言われています。この解説記事では、がんの早期発見やリスク管理の新たな選択肢として注目される「遺伝子検査」に焦点を当てます。

遺伝子検査がどのようなもので、従来のがん検診とどう違うのか。

また、検査を受ける際のメリット、デメリット、費用や保険適用、そして検査結果をどう活かすべきかについて、がん患者さんやご家族が抱える疑問や不安に寄り添いながら、わかりやすく解説します。

目次

なぜ「がんの早期発見」が重要視されるのか

がんと診断されたとき、多くの人がまず「もっと早く見つけられなかったのか」と考えます。早期発見は、がん治療において最も重要な要素の一つです。

この考え方がなぜこれほどまでに重要視されるのか、その理由を具体的に掘り下げます。

生存率への影響

がん治療の成果を測る指標の一つに「5年相対生存率」があります。これは、がんと診断された人が5年後に生存している割合を、同じ性別や年齢の日本人全体の生存率と比較したものです。

多くのがんにおいて、早期である「ステージI」で発見された場合の5年生存率は90%を超えることが多いのに対し、遠隔転移がある「ステージIV」で発見されると、その数値は大幅に低下します。

この事実は、がんが進行する前に発見し、治療を開始することが、生命予後を大きく改善することを示しています。

治療選択肢の拡大

がんを早期に発見すると、治療の選択肢が広がります。初期のがんであれば、手術による切除範囲を最小限に抑えたり、内視鏡治療や放射線治療など、身体への負担が少ない治療(低侵襲治療)を選べる可能性が高くなります。

一方、がんが進行すると、手術が困難になったり、広範囲の切除が必要になったりするほか、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療を組み合わせた、より集学的な治療が必要となります。

早期発見は、治療法の選択において患者さん自身の希望を反映させやすくなるというメリットも持ちます。

身体的・経済的負担の軽減

治療が局所的で済む場合、身体的な負担や副作用、後遺症も少なくなる傾向があります。

手術の傷が小さい、入院期間が短い、早期に社会復帰できるなど、QOL(生活の質)を維持したまま治療を進められる可能性が高まります。

また、経済的な負担も無視できません。治療が複雑化・長期化すれば、それだけ医療費も高額になります。早期発見による低侵襲治療は、トータルでの治療費用を抑えることにもつながります。

進行度別のがん治療費用の目安

がんの種類(例)早期(ステージI)進行(ステージIII/IV)
胃がん内視鏡治療(約20-30万円)手術+化学療法(約100-150万円以上)
大腸がん内視鏡治療(約15-25万円)手術+化学療法(約100-200万円以上)
乳がん手術(温存術)(約50-80万円)手術+化学療法+放射線(約100-200万円以上)

(注)上記はあくまで目安であり、治療法や入院期間、高額療養費制度の適用により自己負担額は変動します。

従来のがん検診と遺伝子検査 – その役割の違い

がんの早期発見を目指す方法として、市区町村や職場で受ける「がん検診」と、医療機関や検査キットで行う「遺伝子検査」があります。

これらは目的が似ているように見えますが、その役割には明確な違いがあります。

従来のがん検診の目的(スクリーニング)

一般的に「がん検診」と呼ばれるものは、症状がない人を対象に、特定のがんにかかっている可能性が高い人を選別する「スクリーニング検査」です。その目的は、集団全体のがんによる死亡率を下げることです。

検診で「要精密検査」となった場合、それは「がんの疑いがある」ということであり、「がんの確定診断」ではありません。

その後、病院でさらに詳しい検査(精密検査)を受け、がんであれば確定診断となります。これらは主に、現在すでにあるがんを発見するための検査です。

主ながん検診の種類と特徴

検査対象がん主な検査方法目的
胃がんバリウム検査、内視鏡検査現在のがんやポリープの発見
大腸がん便潜血検査消化管からの出血(がんやポリープの兆候)の発見
肺がん胸部X線検査、喀痰細胞診肺の影(がんの疑い)の発見
乳がんマンモグラフィ乳房のしこりや石灰化(がんの疑い)の発見

遺伝子検査の目的(リスク評価と早期発見)

一方、遺伝子検査は、その人が生まれ持った遺伝子の情報(生殖細胞系列変異)や、後天的にがん細胞に生じた遺伝子の変化(体細胞変異)を調べる検査です。

特に、がんの文脈で「遺伝子検査」という場合、主に二つの側面があります。一つは、生まれつき特定のがんになりやすい「遺伝性」の体質(がんリスク)を持っているかを調べるものです。

もう一つは、リキッドバイオプシーのように、血液中のがん細胞由来のDNAを調べ、画像診断では見つけられない超早期のがんの存在を探るものです。

両者の補完関係

従来のがん検診は「今あるがん」を見つけることに長けており、遺伝子検査は「将来のがんリスク」や「超早期のがんの兆候」を知ることに役立ちます。

例えば、遺伝子検査で特定のがんリスクが高いとわかった場合、そのがんに対する検診を、通常より若いうちから、あるいはより頻繁に受けることで、万が一発症しても早期発見につなげやすくなります。

このように、両者は対立するものではなく、互いの弱点を補い合う関係にあると言えます。

遺伝子検査とは何か – 仕組みをわかりやすく解説

「遺伝子検査」という言葉はよく耳にしますが、具体的に何を調べているのでしょうか。ここでは、遺伝子検査の基本的な考え方と、検査の種類や方法について解説します。

遺伝子とDNAの基本

私たちの体は約37兆個の細胞からできており、その一つ一つの細胞核の中に「DNA」という設計図が収められています。

遺伝子とは、このDNAの中で、体の機能に必要なタンパク質を作るための情報が書かれた部分を指します。

この設計図(遺伝子)に、生まれつき、あるいは生活習慣や加齢によって「変異(傷や書き間違い)」が生じると、細胞の増殖がコントロールできなくなり、がん化につながることがあります。

がん関連遺伝子とは

遺伝子の中には、がんの発生に深く関わるものがいくつか知られています。これらを「がん関連遺伝子」と呼びます。

  • がん抑制遺伝子 – 細胞ががん化するのを防ぐブレーキ役(例 BRCA1/2, TP53)
  • がん遺伝子 – 細胞の増殖を促すアクセル役(例 KRAS, EGFR)

遺伝子検査では、これらの遺伝子に変異がないかを調べます。ブレーキ役の遺伝子が壊れていたり、アクセル役の遺伝子が暴走したりすると、がんが発生しやすくなります。

検査の主な種類

がんに関連する遺伝子検査は、調べる対象によって大きく分けられます。

検査の対象による分類

検査の種類調べる対象主な目的
生殖細胞系列遺伝子検査生まれ持った遺伝子(血液、唾液など)遺伝性のがんリスク評価(予防、家族歴の確認)
体細胞遺伝子検査がん細胞そのものの遺伝子(手術組織、血液など)がんの診断補助、治療方針の決定(分子標的薬の選択など)

がんの「早期発見」や「リスク評価」という文脈では、主に「生殖細胞系列遺伝子検査」や、体細胞遺伝子検査の中でも「リキッドバイオプシー(血液によるがん遺伝子検査)」が該当します。

検査の方法 – 血液検査や唾液キット

検査は、採取するサンプルによって異なります。生殖細胞系列の検査(遺伝性リスクを調べる検査)は、血液や唾液からDNAを抽出して行います。

最近では、自宅で唾液を採取して郵送する「検査キット」も登場していますが、医療機関(病院)で受ける検査とは、調べる遺伝子の数や検査の精度、費用、そして何より検査前後のフォローアップ体制(カウンセリングなど)が異なります。

一方、リキッドバイオプシーのように超早期のがんの存在を調べる検査は、血液中にごく微量に漏れ出したがん細胞のDNA断片(ctDNA)を検出するため、特殊な技術を用いた血液検査が必要です。

遺伝子情報が「がんリスク」をどのように示すのか

遺伝子検査の結果は、「がんリスクが高い」や「低い」といった形で示されることがあります。遺伝子の情報が、どのようにして将来のがんの発生しやすさ、すなわち「リスク」につながるのかを見ていきましょう。

遺伝子の「変異」と「がん化」

先に述べたように、がん関連遺伝子に「変異」が起こると、がんの発生につながります。特に「生殖細胞系列変異」は、親から受け継がれ、体のすべての細胞が生まれつき持っている変異です。

例えば、がんを抑えるブレーキ役の遺伝子(がん抑制遺伝子)が、生まれつき片方壊れていたとします。

通常、ブレーキは二重(両親から一つずつ)になっていますが、片方が機能しない状態だと、残りの一つが後天的な要因(加齢や生活習慣など)で壊れたときに、がん化のブレーキが効かなくなってしまいます。

このため、生殖細胞系列変異を持つ人は、持たない人と比べて、特定のがんを発症するリスクが高くなるのです。

遺伝性腫瘍とは

このような、生まれつきの遺伝子変異が原因で発症するがんを「遺伝性腫瘍」と呼びます。がん全体の約5〜10%が、この遺伝性腫瘍であると考えられています。

家族歴(血縁者に特定のがん患者が多い)が明らかな場合、この遺伝性腫瘍の可能性が疑われ、遺伝子検査や専門的な遺伝カウンセリングが推奨されることがあります。

遺伝性腫瘍の例 (乳がんなど)

代表的な遺伝性腫瘍に「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」があります。

これは、BRCA1(ビーアールシーエーワン)またはBRCA2という遺伝子の変異が原因で、乳がんや卵巣がん、その他のがん(膵がん、前立腺がんなど)のリスクが著しく高くなる状態を指します。

BRCA1/2遺伝子に変異があると、生涯のうちに乳がんを発症するリスクが非常に高くなることが知られています。

遺伝子変異と発がんリスクの比較

対象生涯の乳がん発症リスク生涯の卵巣がん発症リスク
日本人女性(一般)約9%(11人に1人)約1.6%(63人に1人)
BRCA1変異保持者46-87%39-63%
BRCA2変異保持者43-84%16.5-27%

(注)データには複数の報告があり、数値は目安です。

リスク評価の精度と限界

遺伝子検査は、特定のがんリスクを高い精度で評価できます。しかし、「リスクが高い」という結果は、「将来必ずがんになる」ことを意味しません。

あくまで「なりやすい体質である」ことを示すものです。

また、がんの発生には、遺伝的要因だけでなく、喫煙、飲酒、食事、運動不足といった生活習慣や環境要因が複雑に関与します。

遺伝子検査は、これらすべての要因を評価するものではないという限界も理解しておく必要があります。

遺伝子検査で早期発見が期待されるがんの種類

遺伝子検査によってリスクを把握し、早期発見につなげる取り組みが進んでいる代表的な遺伝性腫瘍がいくつかあります。

ここでは、特に知られている疾患と、関連するがんの種類について解説します。

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)

先にも触れましたが、HBOCはBRCA1またはBRCA2遺伝子の変異によって起こります。これらの遺伝子は、傷ついたDNAを修復する重要な役割(がん抑制遺伝子)を担っています。

BRCA1/2遺伝子と乳がんリスク

BRCA変異を持つ女性は、持たない女性に比べて、非常に若いうちから乳がんを発症しやすい傾向があります。

また、両方の乳房にがんができたり(両側性)、一度治療した後に別の乳がん(対側乳がん)を発症したりするリスクも高いです。

このため、変異が確認された場合、一般的な乳がん検診(マンモグラフィなど)に加えて、造影MRI検査などを組み合わせ、より若いうちから(例 25歳から)検診を開始することが推奨されます。

【事例】アンジェリーナ・ジョリーさんの決断

2013年、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、がんを発症していないにもかかわらず、予防的に両方の乳房を切除したニュースは世界中に衝撃を与えました。

彼女は遺伝子検査で「BRCA1」に変異があり、将来乳がんになるリスクが87%と判明していました。

母親をがんで亡くしていた彼女は、「子供たちのために生きる」という選択として、リスク低減手術を選びました。

このニュースにより、遺伝性腫瘍と予防的切除の認知度が飛躍的に高まりました。

リンチ症候群

リンチ症候群は、DNAの修復に関わる別の遺伝子群(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2など)の変異によって起こる遺伝性腫瘍です。

関連するがんの種類 (大腸がん、子宮体がんなど)

リンチ症候群の人は、特に大腸がんのリスクが非常に高く、生涯で最大70〜80%に達するとも言われます。また、一般的な大腸がんが60代以降に多いのに対し、30代や40代といった若年で発症する特徴があります。

女性の場合は、子宮体がんのリスクも著しく高くなります。その他、卵巣がん、胃がん、小腸がん、膵がんなどのリスクも上昇します。

リスクが高いとわかった場合、大腸がんに対しては1〜2年ごとの内視鏡検査(通常は50歳から)を20代から開始するなど、通常とは異なる検診計画(サーベイランス)が必要です。

その他のがん

上記以外にも、遺伝子変異と特定のがんリスクとの関連が知られているものがあります。

遺伝子検査が関連するその他のがん

遺伝性腫瘍名原因遺伝子(例)リスクが高まるがん(例)
家族性大腸腺腫症(FAP)APC大腸がん(ほぼ100%)、胃がん、十二指腸がん
Li-Fraumeni症候群TP53乳がん、脳腫瘍、肉腫など(多種多様ながん)
遺伝性びまん性胃がんCDH1胃がん(スキルス胃がん)、乳がん(小葉がん)

検査結果の「陽性」と「陰性」- その本当の意味

遺伝子検査を受けると、「陽性(Positive)」または「陰性(Negative)」という結果が返ってきます。

これらの言葉は、通常のがん検診とは少し異なる意味合いを持つため、正しく理解することが極めて重要です。

「陽性」が意味すること – 高いリスク

遺伝子検査における「陽性」は、調べた遺伝子に「病的な変異(がんのリスクを高めることが明らかな変異)」が見つかったことを意味します。

陽性=がん発症ではない

最も重要な点は、「陽性」イコール「現在がんである」または「将来必ずがんになる」ではない、ということです。これはあくまで「がんになりやすい体質(遺伝的要因)を持っている」ことを示しています。

陽性の結果は、不安を感じさせるものかもしれませんが、むしろ「リスクを具体的に把握できた」と捉えることが大切です。

これにより、そのリスクに合わせた適切な予防行動や、早期発見のための検診計画を立てるスタートラインに立ったことになります。

「陰性」が意味すること – 平均的リスク

「陰性」は、調べた遺伝子に「病的な変異が見つからなかった」ことを意味します。

陰性=がんにならないではない

「陰性」という結果は、「あなたには遺伝性のがんリスクはありません」あるいは「将来がんになりません」ということを保証するものではありません。

がんの大部分は、遺伝的要因ではなく、加齢や生活習慣などの後天的な要因で発生する「散発性がん」です。

したがって、検査結果が陰性であっても、一般の人々と同じがんリスクは持っており、推奨される通常のがん検診を定期的に受ける必要性は変わりません。

VUS(意義不明の変異)とは

検査結果の中には、「VUS (Variant of Uncertain Significance)」と呼ばれるものがあります。

これは、遺伝子に変異は見つかったものの、その変異ががんのリスクを高めるもの(病的変異)なのか、あるいは影響のないもの(良性変異)なのか、現時点の科学的知見では判断できない状態を指します。

VUSと判定された場合、基本的には「陰性」と同様の対応(通常のがん検診の継続)となりますが、将来的に研究が進むことで、その変異の意味合いが明らかになる可能性もあります。

検査を受ける前に知っておくべき「限界」と「注意点」

遺伝子検査は多くの有益な情報をもたらしますが、万能ではありません。

検査を受けることを決める前に、その技術的な限界や、結果がもたらす可能性のある影響(デメリット)について十分に理解しておく必要があります。

検査の技術的な限界と精度

現在の遺伝子解析技術の精度は非常に高いですが、100%ではありません。検査方法や調べる遺伝子の範囲によっては、存在する変異を見逃す(偽陰性)可能性もゼロではありません。

また、検査は「未知の変異」を見つけるものではありません。あくまで、これまでの研究でがんとの関連が知られている特定の遺伝子変異を対象に調べます。

遺伝子検査のデメリットと精神的負担

検査の最大のデメリットは、結果がもたらす精神的な負担(心理社会的影響)です。もし「陽性」と判定された場合、本人や家族が将来のがん発症に対して過度な不安を抱える可能性があります。

また、遺伝情報は血縁者とも共有されるため、検査結果を家族(親子や兄弟姉妹)にどのように伝えるか、家族も検査を受けるべきか、といった新たな悩みを生む可能性もあります。

費用と保険適用の現状

遺伝子検査の費用は、検査の種類や調べる遺伝子の数によって大きく異なります。

保険適用となるケース

特定の条件を満たす場合、遺伝子検査(生殖細胞系列検査)やそれに伴う遺伝カウンセリングが保険適用となります。

遺伝子検査(HBOCなど)の保険適用条件例

条件の種類具体的な条件(例)
発症者の条件45歳以下の乳がん発症者
発症者の条件60歳以下のトリプルネガティブ乳がん発症者
家族歴の条件血縁者に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる
その他の条件男性乳がん発症者、卵巣がん・膵がん発症者 など

(注)条件は複雑であり、改定されることもあるため、必ず主治医や専門の病院にご相談ください。

自由診療での費用相場

保険適用外の場合、検査は自由診療となり、費用は全額自己負担です。遺伝カウンセリング料を含め、数万円から数十万円(多遺伝子パネル検査など)と、検査内容によって幅があります。

遺伝情報の取り扱いとプライバシー

遺伝情報は「究極の個人情報」です。

検査結果が本人の同意なく就職や保険加入などで不利益な扱いに使われないよう、法的な整備(「ゲノム医療推進法」など)が進められていますが、社会的な理解も含めてまだ課題が残る領域です。

医療機関では、遺伝情報が厳格に管理されますが、民間の検査キットなどを利用する際は、その企業の個人情報保護の方針をよく確認することも重要です。

検査結果をどう活かすか – 医師との向き合い方

遺伝子検査は、受けて終わりではありません。検査で得られた情報を、将来の健康管理、特にがんの予防や早期発見にどう活かしていくかが最も重要です。

検査前後の遺伝カウンセリングの重要性

遺伝子検査を受けるにあたり、特に重要なのが「遺伝カウンセリング」です。

これは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなどの専門家が、検査の意義、メリット、デメリット、検査結果の意味合い、そして結果がもたらす医学的・心理的・社会的な影響について、ご本人やご家族が深く理解し、主体的に判断できるよう支援する対話の場です。

特に保険診療で検査を受ける場合、病院での検査前後の遺伝カウンセリングは必須の要件となっています。

カウンセリングで話すべきこと

検査前には、なぜ検査を受けたいのか、家族歴(誰がいつ、どのがんになったか)、検査結果を知った場合の不安などを率直に相談します。

検査後には、結果の正確な意味を理解し、今後どのような対策(検診や予防)を取るべきか、血縁者への伝え方などを具体的に相談します。

検査結果(陽性)と予防的アプローチ

リスクが高い(陽性)とわかった場合、二つのアプローチがあります。

サーベイランス(定期検査)の強化

特定のがんリスクが高いことがわかったため、そのがんの早期発見を目的とした検診(サーベイランス)を、通常よりも早期から、頻繁に、または精度の高い方法(例 MRIや内視鏡)で行います。

これにより、万が一がんが発生しても初期段階で発見できる可能性を高めます。

リスク低減手術という選択肢

HBOCの例では、乳がんや卵巣がんの発症リスクを大幅に下げるために、がんを発症する前に乳房や卵巣・卵管を切除する「リスク低減手術(RRM / RRSO)」という選択肢もあります。

これは、ご自身の価値観、年齢、出産希望などを考慮し、医師やカウンセラーと十分に話し合った上で決定する重大な選択です。

検査結果(陰性)と生活習慣

検査結果が陰性であったとしても、安心してはいけません。先に述べた通り、がんの多くは生活習慣と関連があります。

遺伝的リスクが平均的であっても、生活習慣によるリスクを減らす努力は、すべての人にとって重要です。

がん予防のためにできること

  • 禁煙(喫煙は最大のがんリスク要因です)
  • 節度ある飲酒
  • バランスの取れた食事(野菜や果物を多く)
  • 適度な運動習慣
  • 適正体重の維持

病院・医師との連携

遺伝子検査の結果は、かかりつけ医や主治医と必ず共有してください。特に陽性であった場合、その情報を基に、あなたのための個別の検診プログラムを作成してもらう必要があります。

遺伝情報は、生涯にわたる健康管理の道しるべとなります。

遺伝子検査が拓く未来の健康管理

遺伝子検査の技術は日々進歩しており、がんの「早期発見」や「予防」の方法も変わりつつあります。

最後に、遺伝子検査がこれからのがん医療や健康管理にどのような可能性をもたらすのかを紹介します。

リキッドバイオプシー – 血液によるがん検出

近年、最も注目されている技術の一つが「リキッドバイオプシー」です。これは、手術などで組織を採取する(生検)代わりに、血液や尿などの体液を用いてがんの遺伝子変異を検出する技術です。

特に、ごく初期のがん細胞から血液中に放出される微量なDNA(ctDNA)を検出することで、画像診断では捉えられない「超早期」のがんを発見しようとする研究開発が世界中で進んでいます。

リキッドバイオプシーの特徴

項目メリットデメリット(課題)
身体的負担採血のみで負担が少ない
早期発見画像診断より早期のがんを発見できる可能性があるごく微量のため検出精度が課題
情報量全身のがんの情報を反映できる可能性がある変異が見つかっても、がんの発生場所を特定しにくい

個別化医療への応用

リキッドバイオプシーは、早期発見だけでなく、がん治療中の効果判定や、再発のモニタリングにも応用が期待されています。

血液検査で治療効果をリアルタイムに把握できれば、よりその人に合った治療法(個別化医療)を迅速に選択できるようになるかもしれません。

ゲノム情報に基づいた予防戦略

将来的には、より多くの人が自分の遺伝情報(ゲノム情報)に基づき、生涯にわたる健康管理を行う時代が来るかもしれません。

生まれ持った遺伝的リスク(遺伝性)を知り、それに生活習慣のデータを組み合わせることで、「あなた」専用の予防プログラム(食事、運動、受けるべき検診の種類と頻度)が作られるようになるでしょう。

遺伝子検査は、がんを「治す」時代から、「先回りして備える」時代への転換を促す技術と言えます。

遺伝子検査に関するよくある質問

遺伝子検査は何歳から受けられますか?

遺伝性腫瘍の検査は、原則として成人(18歳または20歳以上)になってから受けることが推奨されます。

これは、検査結果がもたらす影響を本人が十分に理解し、自らの意思で決定する必要があるためです。

また、多くのがんは成人になってから発症するため、未成年で検査を行う医学的メリットが少ないことも理由です。

ただし、小児期に発症する特殊な遺伝性のがんが疑われる場合は、この限りではありません。

検査キットと病院での検査はどう違いますか?

民間の検査キットは、自宅で手軽に受けられるメリットがありますが、調べる遺伝子の種類が限られていたり、医学的な診断に用いるには精度が十分でなかったりする場合があります。

また、結果の解釈やその後のフォローアップが自己責任になることが多いです。一方、病院(医療機関)での検査は、医師の診断に基づき、保険適用も含めて適切な検査が選択されます。

何より、検査前後の専門的な遺伝カウンセリングを通じて、結果を正確に理解し、具体的な健康管理につなげられる点が最大の違いです。

遺伝子検査の費用はどれくらいかかりますか?

費用は検査内容により大きく異なります。がんの発症や家族歴など一定の条件を満たせば、数万円程度(保険適用の自己負担分)で検査とカウンセリングが受けられます。

一方、自由診療の場合は、数万円から数十万円と幅があります。

リキッドバイオプシーによる早期発見検査なども、現在は自由診療で提供されていることが多く、高額になる傾向があります。

家族にがんはいないですが、検査を受けるメリットはありますか?

家族歴がない(血縁者にがん患者がいない)場合でも、遺伝性のがんの原因となる変異が初めて自分に出現する(新生突然変異)場合や、家族が変異を持っていてもがんを発症していないだけ(不完全浸透)という可能性もあります。

ただし、家族歴がない場合に保険適用で検査を受けることは難しいため、自由診療での検査となります。

一般的ながん予防(生活習慣の改善や定期的ながん検診)を優先し、その上で検査のメリットとデメリット、費用を考慮して判断することが重要です。

遺伝子検査の結果は家族に知らせる必要がありますか?

もし遺伝性の変異(陽性)が見つかった場合、その情報はご自身の血縁者(親、兄弟姉妹、子)も同じ変異を持っている可能性があることを意味します。

血縁者にとっても、がんの予防や早期発見のために非常に重要な情報となり得ます。結果を伝えるかどうかはご本人の自由ですが、専門家は伝えることを推奨しています。

ただし、伝え方には配慮が必要です。遺伝カウンセリングでは、誰に、いつ、どのように伝えるかについても、一緒に考えてサポートします。

定期検診・がん検診

遺伝子検査でご自身の生まれ持ったリスクを知ることは、健康管理の第一歩です。

しかし、遺伝的リスクが低いとわかった場合でも、あるいは高いリスクへの対策を講じた場合でも、がん予防の基本は「定期的な検診」です。

がんの多くは遺伝以外の要因(加齢や生活習慣)で発生します。遺伝子検査の結果に関わらず、推奨される年齢や頻度での「がん検診」を継続することが、早期発見の最も確かな方法です。

ご自身の健康を守るため、がん検診の重要性についても改めてご確認ください。

▶ がん検診と人間ドックの違い|費用・年齢・頻度の選び方

がんリスクの備えと「定期検診」の重要性

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