「運動が健康に良い」ということは広く知られていますが、その重要性はがんの予防という観点からも極めて大きいことが科学的に明らかになってきました。
身体を動かさない生活習慣、いわゆる運動不足が、がんの発症リスクを直接的に高める要因であることが、多くの研究で示されています。
この記事では、なぜ運動不足ががんに繋がるのか、その体内で起こる変化から、具体的ながんの種類、そしてがん予防のために「どれくらい」「どのように」動けば良いのかまで、国立がん研究センターなどの信頼できる情報源を基に、科学的根拠を交えて詳しく解説します。
「座りすぎ」が招く静かなリスク – 運動不足とがんの密接な関係
現代社会では、デスクワークや自動車での移動、長時間のテレビ視聴など、日常生活の多くが座った状態で行われます。
この「座りすぎ」という習慣が、私たちの健康に静かな脅威をもたらしていることが分かってきました。
特に、がんとの関係は深く、身体を動かさない時間が長ければ長いほど、特定のがんの発症リスクが高まることが数多くの研究で報告されています。
意識的に身体を動かす習慣を取り入れることが、がん予防の第一歩です。
身体活動の低下がもたらすがんリスク
身体活動量が少ない生活は、がん全体の死亡率を高める要因の一つです。体を動かさないことで体重が増加し、肥満に繋がることが大きな問題となります。
肥満は、それ自体が様々な種類のがんの強力なリスク要因であるため、運動不足は間接的にがんのリスクを高めていると言えます。しかし、関係はそれだけではありません。
運動不足は、肥満とは独立して、直接的にがんの発症に関わることも指摘されています。つまり、体重が適正であっても、運動習慣がなければがんのリスクは依然として残るのです。
国立がん研究センターが示す運動の重要性
日本の国立がん研究センターも、科学的根拠に基づいた「日本人のためのがん予防法」の中で、身体活動を活発にすることを強く推奨しています。
研究によれば、身体活動量が多いグループは、少ないグループに比べてがん全体の罹患リスクが低いことが示されています。
特に、長時間座ったままでいる行動(座位行動)が長いほど、大腸がんや乳がんなどのリスクが増加する可能性があるため、定期的に立ち上がって体を動かす習慣が重要です。
| 座位行動の時間 | がんリスクへの影響 | 推奨される対策 |
|---|---|---|
| 8時間/日 以上 | 大腸がん、子宮内膜がんのリスクが増加する可能性 | 30分に1度は立ち上がり、軽いストレッチを行う |
| 11時間/日 以上 | 全死亡率が著しく上昇 | 座位時間を意識的に減らし、通勤時に一駅歩くなど工夫する |
運動不足が死亡率に与える影響
世界的に見ても、運動不足は死亡の主要なリスク要因の一つとして位置づけられています。
世界保健機関(WHO)の報告によると、身体活動の不足は、世界で年間数百万人の死亡の原因となっていると推計されています。
これは、運動不足が心血管疾患や糖尿病だけでなく、がんを含む多くの非感染性疾患の発症に深く関わっているためです。
がんの予防という観点からも、日々の運動習慣は生命を守るための大切な投資と言えるでしょう。
なぜ動かないと「がん」になるのか – 体内で起こる深刻な変化
運動不足ががんのリスクを高める背景には、私たちの体内で起こる複数の生物学的な変化があります。
これらは単一の原因ではなく、肥満、ホルモンバランスの乱れ、免疫力の低下といった要因が複雑に絡み合って、がん細胞が生まれやすく、また育ちやすい環境を作り出してしまいます。
これらの変化を理解することは、運動がいかに効果的ながん予防策であるかを深く知ることに繋がります。
肥満とがんの深い関係
運動不足は消費エネルギーを減少させ、体脂肪の蓄積を促し、肥満の主要な原因となります。そして、この肥満こそが、がんの強力なリスク要因です。
脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、様々な生理活性物質を分泌する内分泌器官としての働きを持っています。
過剰な脂肪組織からは、細胞の増殖を促す物質や、慢性的な炎症を引き起こす物質が分泌され、これががんの発生と進行を後押しします。
| 関連が指摘されるがんの種類 | 主な要因 | 予防へのアプローチ |
|---|---|---|
| 大腸がん、食道がん | 慢性炎症、インスリン抵抗性 | 適正体重の維持、食物繊維の摂取 |
| 閉経後乳がん、子宮体がん | 女性ホルモン(エストロゲン)の過剰産生 | 定期的な有酸素運動、バランスの取れた食事 |
| 腎臓がん、肝臓がん | 脂肪肝、高インスリン血症 | アルコール摂取の制限、運動習慣 |
ホルモンバランスの乱れ
身体活動は、体内のホルモン環境を正常に保つ上で重要な役割を果たします。特に、性ホルモンや、血糖値を調節するインスリンなどが、がんの発生に深く関わっています。
運動不足によってこれらのホルモンのバランスが崩れると、細胞の異常な増殖が引き起こされることがあります。
インスリンと血糖値の変動ががん細胞を刺激する
運動不足は、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」という状態を引き起こしやすくします。
この状態になると、血糖値を下げるためにより多くのインスリンが必要となり、「高インスリン血症」になります。インスリンには血糖値を下げる働きのほかに、細胞の増殖を促す作用もあります。
そのため、血液中のインスリン濃度が高い状態が続くと、がん細胞の増殖が促進されてしまうと考えられています。定期的な運動はインスリンの感受性を高め、血糖値の安定に貢献します。
| 要因 | 体内の状態 | がんへの影響 |
|---|---|---|
| 運動不足 | インスリン抵抗性の亢進 | 高血糖・高インスリン血症を招く |
| 高インスリン血症 | 細胞増殖シグナルの活性化 | がん細胞の増殖を促進するリスク |
| 定期的な運動 | インスリン感受性の改善 | 血糖値の安定、がん予防に繋がる |
免疫力の低下
私たちの体内では、毎日がん細胞の芽が生まれていますが、それらは通常、免疫システムの働きによって排除されています。この免疫力は、身体活動と密接な関係にあります。
適度な運動は、免疫細胞であるナチュラルキラー(NK)細胞などを活性化させ、免疫監視機能を高める効果があります。
一方で、慢性的な運動不足は免疫機能の低下を招き、がん細胞を見逃し、増殖を許してしまうリスクを高める可能性があります。体を動かす習慣は、がんに対する自然な防御力を高めるために大切です。
特に警戒すべき大腸がんと乳がん – 身体活動でリスクが下がるがんの種類
数あるがんの中でも、身体活動を行うことによって発症リスクが明らかに低下することが多くの研究で示されているのが、大腸がんと乳がんです。
これらのがんは、私たちの生活習慣、特に運動との関係が深く、日々の心がけ次第で予防の可能性を高めることができます。
なぜこれらの特定のがんにおいて運動が有効なのか、その背景にある体の働きを知り、具体的な対策に繋げましょう。
大腸がんと運動習慣の関連性
大腸がんは、身体活動によってリスクが低下することが最も確実視されているがんの一つです。
複数の研究を統合した解析によれば、身体活動量が多い人々は、少ない人々と比較して大腸がんの発症リスクが約20-30%低いと報告されています。
この予防効果は、職業上の活動、余暇の運動など、どのような形であれ体を動かすことで得られることが分かっています。
腸の動きを活発にする有酸素運動
運動がなぜ大腸がんのリスクを下げるのか。その理由の一つに、物理的な腸の蠕動(ぜんどう)運動の促進が挙げられます。
ウォーキングなどの有酸素運動は、腸の動きを活発にし、便が腸内に留まる時間を短縮させます。これにより、便に含まれる発がん性物質が腸の粘膜に接触する時間が短くなり、がん化のリスクを低減させると考えられています。
また、前述の通り、運動はインスリン抵抗性を改善し、体内の慢性的な炎症を抑える効果もあり、これらも大腸がんの予防に繋がります。
| 運動の種類 | 大腸がん予防への貢献 | 推奨される頻度・時間 |
|---|---|---|
| ウォーキング | 腸の蠕動運動を促進し、便通を改善 | 毎日30分程度 |
| ジョギング | インスリン感受性を高め、血糖値を安定させる | 週に2-3回、無理のない範囲で |
| 水泳 | 全身運動により消費エネルギーを増やし、肥満を予防 | 週に1-2回、30分以上 |
乳がん予防における身体活動の役割
乳がん、特に閉経後の女性に多いタイプの乳がんも、身体活動によってリスクを下げられることが分かっています。
こちらも大規模な研究で、余暇の身体活動量が多い女性は、少ない女性に比べて乳がんの発症リスクが低いことが示されています。
この関係は、運動による体重管理の効果に加え、女性ホルモンのレベルに影響を与えることが大きな要因と考えられています。
エストロゲンと運動の関係
閉経後の女性では、脂肪組織が女性ホルモンであるエストロゲンの主要な供給源となります。体脂肪が多い、つまり肥満の状態にあると、血中のエストロゲン濃度が高くなります。
このエストロゲンが乳がん細胞の増殖を促進することが知られています。定期的な運動は、体脂肪を減少させることでエストロゲンの産生を抑制し、乳がんのリスクを低減させる効果が期待できます。
さらに、運動はインスリンやインスリン様成長因子(IGF-1)といった、がん細胞の増殖に関わる他の因子のレベルを低下させることも報告されています。
| 身体活動レベル | 閉経後乳がんのリスク | 活動内容の例 |
|---|---|---|
| 高い | 低い | 活発なウォーキングを週に150分以上、筋力トレーニング |
| 中程度 | 中くらい | 通常のウォーキングを週に数回、ガーデニング |
| 低い | 高い | ほとんど座って過ごす生活 |
運動が持つ天然の防御力 – がん細胞の増殖を抑制する体の働き
定期的な運動習慣は、私たちの体に備わっている「がんに対する防御システム」を強化します。これは、特定の薬に頼るのではなく、自らの体の働きを活性化させる、いわば天然の防御力を高める行為です。
運動によって免疫細胞が活発になったり、がんの温床となる体内の炎症が抑えられたりと、複数の経路からがん細胞の発生や増殖にブレーキをかけます。
免疫細胞の活性化
私たちの免疫システムは、外部からの病原体だけでなく、体内で発生した異常な細胞、つまりがん細胞を監視し、排除する重要な役割を担っています。
この「免疫監視」機能の中心となるのが、ナチュラルキラー(NK)細胞やT細胞といった免疫細胞です。
適度な運動は、これらの免疫細胞を刺激し、その数を増やしたり、働きを活発にしたりすることが分かっています。
運動後の短時間、血中のNK細胞の活性が高まることが報告されており、この積み重ねが、がん細胞の芽を早期に摘み取ることに繋がると考えられています。
- ナチュラルキラー(NK)細胞
- キラーT細胞
- マクロファージ
炎症の抑制とがん予防
体内で持続する微弱な炎症、いわゆる「慢性炎症」は、がんの発生と進行に深く関わっています。肥満や不健康な食生活、そして運動不足は、この慢性炎症を引き起こす主要な原因です。
運動には、この体内の炎症を抑える優れた効果があります。
定期的に体を動かすことで、炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)の産生が抑制され、逆に炎症を抑える物質(抗炎症性サイトカイン)が分泌されることが研究で示されています。
これにより、がん細胞が育ちにくい体内環境が作られます。
| 指標 | 運動による変化 | がん予防への影響 |
|---|---|---|
| CRP(C反応性タンパク) | 低下 | 全身の炎症レベルが低下し、発がんリスクが減少 |
| IL-6(インターロイキン6) | 運動直後は上昇、長期的には低下 | 抗炎症作用を促進し、慢性炎症を抑制 |
| TNF-α(腫瘍壊死因子α) | 低下 | 炎症反応が抑制され、がん細胞の増殖が抑えられる |
アポトーシスの促進
アポトーシスとは、古くなったり異常をきたしたりした細胞が、自らプログラムされた死を迎える仕組みのことです。
これは、体が正常な状態を維持するために重要な働きであり、がん細胞の発生を防ぐ上でも欠かせません。がん細胞は、このアポトーシスから逃れる能力を獲得することで無限に増殖します。
いくつかの研究では、運動がこのアポトーシスを正常に機能させ、異常な細胞の増殖を抑制するのに役立つ可能性が示唆されています。
運動は、がん化しかけた細胞を自然に排除する体の働きを助けることで、がんの予防に貢献するのです。
「どれくらい」動けば良いのか – 国際的な推奨基準と目標設定
がん予防のために運動が重要であることは理解できても、具体的に「どの程度の運動をすれば良いのか」という疑問が湧くかもしれません。
幸いなことに、世界保健機関(WHO)や日本の国立がん研究センターなどが、科学的根拠に基づいた具体的な身体活動の推奨量(目安)を示しています。
これらのガイドラインを参考に、自身のライフスタイルに合わせた目標を設定することが、無理なく運動を続けるための鍵となります。
世界保健機関(WHO)が示す運動の目安
WHOは、健康維持とがんを含む非感染性疾患の予防のために、成人(18~64歳)に対して以下の身体活動を推奨しています。これは世界共通の目標であり、まずこの基準を目指すことが推奨されます。
有酸素運動の推奨量
心肺機能を高める有酸素運動は、がん予防の基本です。WHOは、ウォーキングやサイクリングなど、息が少し弾む程度の中強度の有酸素運動を週に150分から300分行うことを推奨しています。
あるいは、ランニングのような高強度の有酸素運動であれば、週に75分から150分が目安です。これらを組み合わせて行うことも可能です。
例えば、「平日に毎日30分早歩きをする」といった目標は、この推奨量を満たす良い例です。
- 早歩き(ウォーキング)
- サイクリング
- 水泳
- ダンス
筋力トレーニングの重要性
有酸素運動に加えて、筋力トレーニングも重要です。筋肉量を維持・向上させることは、基礎代謝を高めて肥満を予防するだけでなく、血糖値のコントロールにも役立ち、がん予防に繋がります。
WHOは、主要な筋肉群(脚、腰、背中、腹、胸、肩、腕)を使う筋力トレーニングを、週に2日以上行うことを推奨しています。
自重トレーニングやダンベル運動など、自宅でできるものでも十分な効果が期待できます。
| 活動の種類 | 推奨される量(週あたり) | 具体例 |
|---|---|---|
| 中強度の有酸素運動 | 150~300分 | 早歩き、サイクリング、アクアビクス |
| 高強度の有酸素運動 | 75~150分 | ランニング、エアロビクス、テニス(シングルス) |
| 筋力トレーニング | 2日以上 | スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操 |
日本人向けのがん予防ガイドライン
日本の国立がん研究センターも、「日本人のためのがん予防法」の中で、WHOの推奨と同様の身体活動を推奨しています。
具体的には、「毎日60分程度の身体活動を行い、そのうち息が弾み汗をかく程度の運動を週に60分程度行う」という目標を掲げています。
これは、日常生活の中で意識的に体を動かすことの重要性を示しており、特別な運動の時間だけでなく、通勤や家事なども含めて活動的に過ごすことを勧めています。
激しい運動は必要ない – 日常生活でがん予防効果を高めるヒント
「運動」と聞くと、ジムでのハードなトレーニングや長時間のランニングを想像し、気後れしてしまうかもしれません。しかし、がん予防のための身体活動は、必ずしも激しいものである必要はありません。
むしろ、日常生活の中に無理なく取り入れられる「中強度」の活動を継続することこそが重要です。少しの工夫で、日々の暮らしそのものをがん予防に繋がる活動に変えることができます。
「中強度」の運動とは
がん予防に効果的とされる「中強度」の運動とは、「少しきつい」と感じるくらいの活動を指します。具体的な目安としては、「会話はできるが、歌うことはできない」程度の息の弾み具合です。
このレベルの活動は、心拍数を適度に上げ、体に良い刺激を与えつつも、過度な負担をかけずに続けることができます。
ウォーキングから始める健康習慣
中強度の運動として最も手軽で始めやすいのが、早歩き、つまり「ウォーキング」です。特別な道具や場所は必要なく、思い立ったらいつでも始められます。
ただの散歩ではなく、少し大股で、腕を振ってリズミカルに歩くことを意識すると、運動効果が高まります。まずは1日10分からでも構いません。
慣れてきたら徐々に時間を延ばし、週に合計150分を目指すことで、がん予防の習慣が身につきます。
- 早歩き
- 自転車に乗る
- 子供と活発に遊ぶ
- 庭仕事(草むしりなど)
- やや重い荷物を持って歩く
日常の活動を運動に変える工夫
まとまった運動時間を確保するのが難しい場合でも、日常生活の中での活動量を増やす工夫で、十分にがん予防効果を高めることが可能です。重要なのは、総身体活動量を増やすという意識です。
例えば、エレベーターやエスカレーターの代わりに階段を使ったり、一駅手前で降りて歩いたりするだけでも、立派な運動になります。
| 日常活動 | METs(運動強度)の目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 普通の歩行 | 3.0 | 通勤や買い物などで意識的に歩く時間を増やす |
| 階段の上り下り | 4.0 – 8.0 | 駅や職場では積極的に階段を選ぶ |
| 掃除機がけ | 3.5 | 少し大げさに体を動かしながら行うと効果アップ |
「NEAT(ニート)」を増やそう
スポーツ以外の日常生活でのエネルギー消費を「NEAT(非運動性身体活動)」と呼びます。
実は、肥満やがんのリスクを下げる鍵は、週に数回のジム通いよりも、毎日のこの「NEAT」を増やすことにあると言われています。
- 家事をキビキビこなす
- エレベーターより階段を使う
- 通勤で立っている時間を増やす
これら全てが立派ながん予防です。「運動しなきゃ」と気負わず、「こまめに動こう」という意識から始めてみましょう。
座っている時間を意識的に減らす
運動量を増やすことと同じくらい重要なのが、座りっぱなしの時間を減らすことです。長時間の座位行動は、運動を定期的に行っていても、独立したリスク要因となります。
デスクワークの方は、30分に一度は立ち上がって軽くストレッチをしたり、少し歩き回ったりすることを心がけましょう。
スタンディングデスクの導入や、テレビを見ながら足踏みをするなどの小さな習慣の積み重ねが、がんリスクの低減に繋がります。
始めるのに遅すぎることはない – 年齢を問わず得られる運動の恩恵
運動習慣を始めるにあたって、「もう年だから」と諦めてしまう必要は全くありません。身体活動がもたらすがん予防や健康への恩恵は、何歳から始めても得ることができます。
むしろ、年齢を重ねた方や、すでにがんと診断されたサバイバーの方々にとってこそ、無理のない範囲での運動は、生活の質(QOL)を維持・向上させ、未来の健康を守る上で極めて重要です。
高齢者における運動の重要性
加齢に伴い筋肉量は自然と減少していきますが、この筋力低下は活動量のさらなる低下を招き、がんを含む様々な病気のリスクを高める悪循環に繋がります。
高齢の方が運動を始めることで、筋力やバランス能力が維持され、転倒予防になるだけでなく、免疫機能の維持や慢性炎症の抑制といった、直接的ながん予防効果も期待できます。
ウォーキングやラジオ体操、水中運動など、体に負担の少ない運動から始めることが大切です。始める前には、かかりつけ医に相談し、安全に行える運動の種類や強度についてアドバイスをもらうと良いでしょう。
がんサバイバーと身体活動
がんの治療を終えた方々、いわゆる「がんサバイバー」にとっても、身体活動は非常に重要です。
かつては治療後は安静にすることが第一とされていましたが、現在では多くの研究から、安全な範囲で身体を動かすことが、治療後の回復を早め、再発リスクを低減し、生活の質を高める上で有益であることが分かっています。
再発リスクの低下とQOLの向上
特に大腸がんや乳がんのサバイバーにおいては、診断後に身体活動量が多い人の方が、少ない人と比較して再発率や死亡率が低いという報告が複数あります。
運動は、体重管理やホルモンバランスの正常化、免疫機能の向上を通じて、がんが再発しにくい体内環境を作るのに役立ちます。
また、治療の副作用として現れやすい倦怠感や気分の落ち込み、体力低下といった問題の軽減にも効果的です。
主治医や専門家と相談しながら、個々の体調や治療状況に合わせた運動プログラムを始めることが、より良いサバイバーシップに繋がります。
よくある質問
- どのような運動ががん予防に効果的ですか?
-
特定の運動だけが優れているわけではなく、有酸素運動と筋力トレーニングをバランス良く組み合わせることが推奨されます。
早歩きなどの「中強度」の有酸素運動を習慣にし、それに加えて週2回程度の筋力トレーニングを行うのが理想的です。
最も大切なのは、自分が楽しみながら安全に「継続できる」運動を見つけることです。
- 運動経験がなくても大丈夫ですか?
-
はい、全く問題ありません。むしろ、これまで運動習慣がなかった方ほど、始めることによる健康への良い変化を実感しやすいでしょう。
まずは、散歩の時間を少し延ばす、階段を使うといった、日常生活の中の簡単なことから始めてください。
短い時間からスタートし、少しずつ時間や強度を増やしていくことが、無理なく続けるコツです。
- がん治療中の運動は可能ですか?
-
がん治療中の運動は、多くの患者さんにとって有益であるとされていますが、個人の病状や治療内容、体力によって大きく異なります。
倦怠感や吐き気などの副作用を軽減し、体力を維持する効果が期待できますが、必ず事前に主治医に相談してください。
医師や理学療法士などの専門家の指導のもとで、安全に行うことが絶対条件です。
- 運動する時間がない場合はどうすれば良いですか?
-
まとまった時間を取るのが難しい場合は、「細切れ運動」が有効です。例えば、1回10分の早歩きを1日に3回行えば、合計で30分の運動になります。
通勤中に一駅歩く、昼休みに軽い体操をする、家事をキビキビと行うなど、生活の中に運動を溶け込ませる工夫を試してみてください。
座っている時間を減らすだけでも、リスク低減に繋がります。
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この記事では運動とがんリスクの関係に焦点を当てましたが、がん予防において運動と並んで重要なのが「肥満の予防と適正体重の維持」です。
運動不足が肥満の大きな原因であるように、これらは密接に関連しています。
過剰な体脂肪は、体内で慢性的な炎症を引き起こしたり、がん細胞の増殖を促すホルモンを分泌したりすることで、直接的にがんのリスクを高めることが知られています。
特に、大腸がんや閉経後の乳がん、食道がんなど多くのがんが肥満と関連しています。運動習慣と合わせて体重管理に取り組むことで、より効果的にがんのリスクを下げることが期待できます。
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