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がんの発生には、遺伝的な要因だけでなく、日々の生活習慣が深く関わっています。どのような生活習慣ががんのリスクを高め、また、どのような習慣がリスクを低減させるのでしょうか。

この問いに答えるためには、科学的根拠に基づいた正しい知識を持つことが重要です。

この記事では、がんの発生に影響を与える主要な生活習慣要因である「喫煙」「飲酒」「食事」「運動」「体重管理」について、それぞれのがんとの関連性を詳しく解説します。

ご自身の生活習慣を見直し、がん予防や治療後の再発予防に向けた具体的な行動を考えるための一助として、ぜひお役立てください。

喫煙と受動喫煙

たばこの煙には数多くの発がん性物質が含まれており、喫煙はがんの最大のリスク要因として知られています。

自身が吸うだけでなく、他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙も、がんのリスクを高めることが明らかになっています。

ここでは、喫煙とがんの具体的な関係性や、禁煙の重要性について掘り下げていきます。

喫煙が引き起こすがんの種類

喫煙は、煙が直接触れる肺、口腔、喉頭、咽頭、食道だけでなく、煙に含まれる発がん性物質が血液を通じて全身に運ばれることで、胃、肝臓、膵臓、膀胱、子宮頸部など、体のさまざまな部位のがんの原因となります。

特に肺がんにおいては、喫煙が原因の大部分を占めており、そのリスクは喫煙しない人と比較して男性で4倍以上、女性で2倍以上に高まります。

喫煙を開始する年齢が若いほど、また喫煙期間が長く、本数が多いほど、がんのリスクは増大します。

たばこの煙に含まれる有害物質

たばこの煙には、70種類以上の発がん性物質が含まれています。代表的なものとして、ベンゾピレン、ニトロソアミン類、ヒ素、カドミウムなどが挙げられます。

これらの物質は、細胞のDNAに損傷を与え、正常な細胞ががん細胞へと変化するきっかけを作ります。喫煙を続けることで、このDNAの損傷が蓄積し、がんの発生につながるのです。

喫煙と関連の強いがん

がんの種類関連性解説
肺がん非常に高い喫煙が最大の原因であり、リスクが著しく上昇します。
口腔・咽頭がん高い煙が直接接触する部位であり、飲酒との相乗効果も見られます。
膀胱がん中程度発がん性物質が尿中に排泄され、膀胱の粘膜を刺激します。

受動喫煙の危険性

受動喫煙とは、自分の意思とは関係なく他人のたばこの煙を吸い込んでしまうことです。

主流煙(喫煙者が吸い込む煙)よりも、副流煙(たばこの先端から立ち上る煙)の方に多くの有害物質が含まれていることが分かっています。

家庭や職場など、日常的に受動喫煙の機会がある人は、肺がんや乳がん、鼻腔がんなどのリスクが高まります。特に、子どもへの影響は深刻で、呼吸器系の疾患や発達への影響も懸念されます。

禁煙の重要性

がんのリスクを減らす上で、禁煙は最も効果的な方法の一つです。禁煙を始めると、がんのリスクは時間とともに低下し始めます。

例えば、肺がんのリスクは禁煙後10年から15年で、喫煙を続けた場合の約半分にまで減少します。何歳であっても、禁煙を始めるのに遅すぎることはありません。

自力での禁煙が難しい場合は、禁煙外来で医師のサポートを受けたり、禁煙補助薬を活用したりすることも有効な手段です。

がんの治療中や治療後であっても、禁煙は治療効果の向上や再発予防、二次がんの発生予防に繋がるため、非常に重要です。

飲酒

アルコールの摂取は、社会的な習慣として広く受け入れられていますが、がんのリスク要因であることも事実です。

アルコールそのものに発がん性はありませんが、体内で分解される過程で生じる物質ががんの発生に関与します。

ここでは、アルコールがどのようにがんのリスクを高めるのか、そしてどの程度の飲酒が許容範囲なのかを解説します。

アルコールとがんリスクの関係

飲酒量が多いほど、また飲酒期間が長いほど、がんの発生リスクは高まります。

特に、アルコールが直接触れる口腔、咽頭、喉頭、食道のがん、そしてアルコールの代謝に関わる肝臓のがんのリスクが顕著に上昇します。

また、大腸がんや女性の乳がんとの関連も指摘されています。飲酒と喫煙の習慣が重なると、口腔・食道などのがんのリスクは相乗的に、飛躍的に高まるため、特に注意が必要です。

アセトアルデヒドの働き

アルコール(エタノール)は、体内でアセトアルデヒドという物質に分解されます。このアセトアルデヒドは発がん性を持つことが分かっており、細胞のDNAを傷つけることでがんを引き起こします。

特にお酒を飲むと顔が赤くなるタイプの人は、アセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱い遺伝的体質を持つため、少量のお酒でも食道がんなどのリスクがより高くなることが知られています。

飲酒量とがんリスクの目安

1日の平均飲酒量(純エタノール換算)リスク評価対象のがん
飲まない、または少量(~23g)低い-
中程度(23g~46g)上昇大腸がん、乳がんなど
多量(46g~)高い口腔・咽頭・食道がん、肝臓がんなど

適度な飲酒量とは

がん予防の観点からは、飲酒はしないに越したことはありません。しかし、飲む習慣がある場合は、その量を節度ある範囲に留めることが大切です。

国の指針では、「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコールで20g程度を推奨しています。これは、ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイングラス2杯弱に相当します。

ただし、これはあくまで目安であり、先述したようにお酒に弱い体質の人や女性は、より少ない量でリスクが高まる可能性があることを理解しておく必要があります。

飲酒習慣の見直し

がんのリスクを減らすためには、飲酒習慣を見直すことが有効です。まずは自身の飲酒量を把握し、飲み過ぎている場合は量を減らす努力を始めましょう。

週に2日程度の「休肝日」を設けることも、肝臓を休ませ、アルコールによるダメージの蓄積を防ぐ上で効果的です。

また、飲む際には食事と一緒にゆっくりと楽しむ、濃いお酒は水で割るなどの工夫も、アルコールの総量を減らす助けになります。

食生活と栄養状態

毎日の食事は、私たちの体を作る基本であり、がんのリスクにも大きな影響を与えます。

特定の食品ががんを直接引き起こすわけではありませんが、食生活全体のバランスが、がんになりやすい体内環境、あるいはなりにくい体内環境を作ります。

ここでは、がんのリスクを高める食事と、予防に役立つ食事について解説します。

がんリスクを高める食生活

がんのリスクを高める食習慣として、塩分の過剰摂取、加工肉や赤肉の頻繁な摂取、野菜や果物の不足などが挙げられます。

  • 塩分の過剰摂取
  • 加工肉・赤肉の多量摂取
  • 野菜・果物不足

これらは、胃がんや大腸がんなどのリスクを高めることが多くの研究で示されています。熱すぎる飲み物や食べ物も、食道の粘膜を傷つけ、食道がんのリスクを高める可能性が指摘されています。

【具体的目安】お肉はどれくらい食べていい?

大腸がんのリスクを上げないための目安として、国際的な研究機関では以下の基準を推奨しています。

赤肉(牛・豚・羊など)

調理後の重量で「週に500g未満」を目安にしましょう。 (※ステーキなら週に2〜3枚程度、日常的な食事なら1日70g程度までが目安です。)

加工肉(ハム・ソーセージ・ベーコンなど)

保存料や塩分が含まれるため、「できるだけ控える」ことが推奨されます。 毎朝食べる習慣がある場合は、頻度を減らしたり、鶏肉や魚、卵、豆類などに置き換えたりする工夫が有効です。

塩分の過剰摂取と胃がん

塩分を過剰に摂取すると、胃の粘膜が荒れて慢性的な炎症が起こりやすくなります。この状態が長く続くと、胃がんの発生リスクが高まります。

特に、塩辛、漬物、干物など、塩分濃度の高い食品を好んで食べる習慣がある場合は注意が必要です。

また、胃がんの主要な原因であるピロリ菌に感染している人が高塩分の食事を続けると、さらにリスクが高まると考えられています。

がん予防に役立つ栄養素

一方で、がんの予防に役立つと考えられている食生活もあります。特に、野菜や果物を豊富に摂ることは、多くのがんのリスクを低減させることが分かっています。

野菜や果物に含まれるビタミン、ミネラル、食物繊維、そして抗酸化作用を持つさまざまな化合物が、複合的に働いて細胞をがん化から守ると考えられています。

特定の栄養素だけをサプリメントで補うのではなく、多様な食品からバランス良く栄養を摂ることが大切です。

がんリスクに関連する食品・栄養素

分類リスクを高める可能性リスクを下げる可能性
食品加工肉、赤肉、高塩分食品野菜、果物、全粒穀物
栄養素飽和脂肪酸食物繊維、ビタミンC、葉酸
習慣熱い飲食物の摂取バランスの取れた食事

バランスの取れた食事のポイント

がん予防のための食事は、何かを厳しく制限するものではなく、全体のバランスを整えることが基本です。主食・主菜・副菜をそろえ、多様な食品を組み合わせることを心がけましょう。

野菜は1日に350g以上を目標に、果物も適量を摂ることが推奨されます。塩分は控えめにし、出汁のうま味や香辛料を上手に活用して薄味に慣れることが大切です。

また、食品の保存状態にも注意し、カビが生えた食品は食べないようにしましょう。カビ毒の中には発がん性を持つものがあるためです。

身体活動と運動不足

体を動かす習慣は、健康維持の基本であり、がん予防においても重要な役割を果たします。定期的な運動は、体の機能を正常に保ち、がんが発生しにくい体内環境を維持するのに役立ちます。

逆に、運動不足や座りがちな生活は、がんのリスクを高める要因となります。ここでは、運動ががん予防にどのようにつながるのか、具体的な方法について解説します。

運動ががん予防につながる理由

定期的な身体活動ががんのリスクを低下させる背景には、いくつかの理由が考えられています。まず、運動は免疫機能を高め、がん細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞などの働きを活性化させます。

また、適正な体重の維持を助け、肥満に関連するがんのリスクを低減します。

さらに、インスリンの感受性を改善したり、性ホルモンのバランスを整えたりすることも、がんの発生を抑制する方向に働くと考えられています。

これらの効果により、大腸がんや乳がん、子宮体がんなどのリスクが低下することが分かっています。

推奨される運動の種類と量

がん予防のためには、どのような運動をどのくらい行えば良いのでしょうか。

現在、推奨されているのは、ウォーキングや軽いジョギング、水泳などの「有酸素運動」と、筋肉に負荷をかける「筋力トレーニング」を組み合わせることです。

具体的な目標としては、成人の場合、息が弾み汗をかく程度の中強度の有酸素運動を週に150分、またはそれより強度の高い運動を週に75分行うことが推奨されています。

これに加えて、週に2回程度の筋力トレーニングを行うと、さらに効果的です。

運動の種類と推奨時間

運動の種類1週間の目安期待される効果
有酸素運動(中強度)150分以上心肺機能向上、体重管理
有酸素運動(高強度)75分以上より効率的な体力向上
筋力トレーニング2回以上基礎代謝向上、骨の健康維持

日常生活で身体活動を増やす工夫

まとまった運動時間を確保するのが難しい場合でも、日常生活の中で身体活動量を増やす工夫は可能です。

例えば、エレベーターではなく階段を使う、一駅手前で降りて歩く、テレビを見ながらストレッチをするなど、小さな積み重ねが大きな違いを生みます。

重要なのは、座りっぱなしの時間を減らし、意識的に体を動かす機会を作ることです。まずは、自分にとって無理なく続けられる活動から始めてみましょう。

楽しんで取り組めるものを見つけることが、習慣化への近道です。

肥満と体重管理

過剰な体脂肪、特に内臓脂肪の蓄積は、体のさまざまな機能に悪影響を及ぼし、がんのリスクを高めることが明らかになっています。

適正な体重を維持することは、がん予防における重要な柱の一つです。ここでは、肥満がなぜがんにつながるのか、そして健康的な体重管理の方法について解説します。

肥満とがんの密接な関係

肥満は、食道がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、そして閉経後の乳がんや子宮体がん、腎臓がんなど、多くのがんのリスクを上昇させます。

その背景には、脂肪組織から分泌されるホルモンや、慢性的な炎症が関わっています。例えば、脂肪細胞は女性ホルモンであるエストロゲンを過剰に作り出し、これが乳がんや子宮体がんの発生を促すことがあります。

また、肥満状態ではインスリンの働きが悪くなり、高インスリン血症となることが、細胞の増殖を促し、がんの発生につながると考えられています。

適正体重の維持方法

自分の体重が適正範囲内にあるかどうかを知るための指標として、一般的に体格指数(BMI)が用いられます。

BMIは「体重(kg) ÷ [身長(m) × 身長(m)]」で計算でき、日本では18.5以上25未満が「普通体重」とされています。25以上が肥満と判定されます。

まずは自身のBMIを計算し、現在の位置を確認することが体重管理の第一歩です。目標を設定し、食事と運動の両面からアプローチすることが重要です。

BMIの分類と判定基準

BMIの範囲判定がんリスク
18.5未満低体重(やせ)-
18.5 - 24.9普通体重基準
25.0以上肥満上昇

体重管理と食事・運動の連携

健康的な体重管理の基本は、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスを整えることです。

食事においては、高カロリーな食品や糖質の多い飲料を控え、野菜やたんぱく質を中心としたバランスの取れた内容を心がけます。

急激な減量は体に負担をかけるため、長期的な視点で無理のない計画を立てることが大切です。

これに加えて、前述したような定期的な運動を組み合わせることで、筋肉量を維持しながら健康的に体脂肪を減らすことができます。

食事と運動は、体重管理における両輪であり、連携させて取り組むことで、効果を最大限に高めることができます。

よくある質問

生活習慣を改善すれば、がんは絶対に防げますか?

いいえ、残念ながら100%防ぐことはできません。がんの発生には、遺伝的な要因や避けられない環境要因、加齢なども関わっているためです。

しかし、科学的な研究から、禁煙、節酒、バランスの取れた食事、適度な運動、適正体重の維持といった生活習慣の改善によって、多くのがんのリスクを大幅に低減できることが分かっています。

生活習慣の改善は、がんのリスクを可能な限り引き下げるための、最も確実で重要な取り組みと言えます。

がんになった後でも、生活習慣の改善は意味がありますか?

はい、非常に大きな意味があります。がんの治療中や治療後に生活習慣を見直すことは、多くのメリットをもたらします。

例えば、禁煙は手術後の合併症を減らし、放射線治療や化学療法の効果を高める可能性があります。バランスの取れた食事や適度な運動は、治療による副作用を軽減し、体力や免疫力を維持する助けになります。

さらに、健康的な生活習慣は、がんの再発や、別の場所に新しいがん(二次がん)が発生するリスクを低減させることにも繋がります。

生活の質(QOL)を高く保ちながらがんと向き合う上で、生活習慣の改善はとても重要です。

サプリメントはがん予防に効果的ですか?

現在のところ、特定のサプリメントががんを予防するという確固たる科学的根拠は示されていません。

一部の研究では、特定のビタミンやミネラルが特定のがんのリスクを下げる可能性が示唆されていますが、逆に高用量の摂取がリスクを高めるという報告もあります。

がん予防の基本は、さまざまな栄養素をバランス良く含む食事を摂ることです。サプリメントはあくまで食事の補助的なものと捉え、安易に頼るのではなく、まずは日々の食生活を見直すことを優先してください。

もしサプリメントの利用を考える場合は、必ず主治医や管理栄養士に相談することが大切です。

環境要因

がんのリスクは、今回解説した喫煙や食事といった個人の生活習慣だけでなく、私たちが日常的に接している化学物質、大気汚染、紫外線、放射線といった「環境要因」にも影響を受けます。

これらの要因は、自分一人の力では避けることが難しい場合も多く、社会全体での対策も必要です。

がんという病気をより多角的に理解し、総合的な視点からリスク管理を行うために、「環境要因」の記事もお読みください。

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