臓器特異的な病期分類 – 各臓器の特性に応じた詳細な病期判定システム

がんの「病期(ステージ)」は臓器ごとに異なる基準で評価します。この記事では、肺癌、胃癌、大腸癌、乳癌などを例に、なぜ臓器特異的な病期分類が必要なのかを解説。UICCのTNM分類を基本としながら、各臓器の解剖学的特性やがんの進行形式(深達度、リンパ節転移、遠隔転移)がどう反映されるかを、表を用いて分かりやすく説明します。ご自身の診断や治療、予後(生存率)の理解を深めるためにお役立てください。
臓器特異的な病期分類 - 各臓器の特性に応じた詳細な病期判定システム

がんの診断を受けると、多くの方が「病期(ステージ)」という言葉を耳にします。

この病期は、がんが体の中でどのくらい広がっているかを示す重要な指標であり、治療方針を決定する上で基礎となる情報です。

しかし、この病期分類は全てのがんで一律ではありません。肺癌、胃癌、乳癌など、がんが発生した臓器の特性に応じて、それぞれ異なる基準を用いた「臓器特異的な病期分類」が存在します。

この記事では、なぜ臓器ごとに分類が必要なのか、そして主要ながんにおいてどのような基準で病期が判定されるのかを、分かりやすく解説します。

がん診断で重要な「病期」とは何か

がんの診断において、「病期」または「ステージ」という言葉は、がんの進行度を示す共通の尺度として世界中で用います。

これは、がんが原発巣(最初に発生した場所)にとどまっているのか、あるいは周囲の組織や他の臓器へ広がっているのかを客観的に評価するものです。

病期を正確に把握することで、医師は患者さん一人ひとりにとって適切な治療計画を立て、今後の見通し(予後)を予測するための重要な情報を得ます。

病期(ステージ)が示すもの

病期は、単にがんの大きさを表すだけではありません。

がん細胞がどの深さまで達しているか、近くのリンパ節に転移しているか、そして体内の遠い臓器にまで広がっているかという、3つの側面から総合的に判断します。

これにより、がんの全体像を立体的に捉えることができます。

がんの広がりと進行度

一般的に、病期はローマ数字を用いてステージI(早期)からステージIV(最も進行した段階)まで分類します。ステージが進むほど、がんが広範囲に広がっていることを意味します。

この進行度の評価は、今後の治療計画を立てる上で、全ての出発点となります。

治療方針決定の基礎情報

例えば、がんが臓器内にとどまっている早期のステージであれば手術による根治を目指すことが多く、リンパ節や他の臓器に転移している進行したステージでは、抗がん剤治療や放射線治療などを組み合わせた全身的な治療を検討します。

このように、病期は治療の羅針盤の役割を果たします。

病期の基本的な考え方

ステージ一般的な状態治療の方向性
I期がんが原発巣に限局している主に手術などの局所治療
II期・III期がんが周囲のリンパ節などに広がっている手術、放射線、薬物療法を組み合わせる
IV期がんが遠隔臓器に転移している主に薬物療法などの全身治療

国際的な基準UICCのTNM分類

病期を客観的かつ世界共通の基準で評価するために、「TNM分類」が国際対がん連合(UICC)によって定められています。

これは、がんの病期を決定する上での世界標準であり、多くの臓器の癌で採用しています。

TNM分類の3つの要素

TNM分類は、以下の3つの要素を評価して病期を決定します。

  • T (Tumor) 原発腫瘍の大きさや広がり
  • N (Nodes) 所属リンパ節への転移の有無と範囲
  • M (Metastasis) 遠隔臓器への転移の有無

これらのT, N, Mの評価を組み合わせることで、最終的なステージ(病期)が決定されます。

UICC規約の役割と改訂

UICCが定める規約は、世界中の医師が同じ基準でがんの進行度を評価し、治療成績を比較検討するために重要な役割を担います。

医学の進歩に伴い、がんの性質に関する理解が深まると、より正確な分類を目指して定期的に改訂が行われます。これにより、常に新しい知見に基づいた病期診断が実現します。

なぜ臓器ごとに異なる分類が必要なのか

TNM分類は国際的な基準ですが、その具体的な評価方法はがんが発生した臓器によって大きく異なります。これは、各臓器が持つ独自の解剖学的な構造や、がんの進展パターンが異なるためです。

臓器の特性を無視して一律の基準を適用すると、がんの進行度を正確に評価できず、適切な治療法の選択や予後の予測が困難になります。そのため、臓器特異的な規約が必要となります。

臓器の構造と癌の進展形式の違い

がんの広がり方は、発生した臓器の構造に大きく影響されます。例えば、胃や大腸のような管腔臓器と、肺や肝臓のような実質臓器では、がんの浸潤や転移の仕方が全く異なります。

解剖学的な特性の反映

胃癌や大腸癌では、がんが臓器の壁のどの深さまで達しているか(深達度)がT分類の重要な指標となります。

一方、肺癌では腫瘍の大きさに加えて、気管支や胸膜など周囲のどの組織にまで及んでいるかが評価の対象となります。このように、それぞれの臓器の解剖学的特徴が病期分類に反映されます。

各臓器特有の転移経路

がん細胞が転移する際の主要な経路であるリンパ管や血管の分布は、臓器ごとに異なります。そのため、どの範囲のリンパ節への転移を「所属リンパ節転移」とみなすか、その定義も臓器によって変わってきます。

これが、臓器別の規約が存在する大きな理由の一つです。

臓器による進展形式の例

臓器特徴的な進展形式TNM分類への反映
胃・大腸壁内を深く浸潤していく壁深達度がT分類の主要因
周囲の組織(胸膜、気管支)へ広がる腫瘍径と浸潤部位でT分類を決定
乳房しこりの大きさと皮膚への浸潤腫瘍径がT分類の基本

治療法と予後の臓器差

臓器が違えば、がんの性質も異なり、それは治療法への反応性や予後に直接的な影響を与えます。

臓器特異的な病期分類は、こうした違いを考慮に入れて、より精度の高い治療計画と予後予測を可能にします。

臓器ごとの治療感受性

例えば、同じステージの癌であっても、放射線治療や特定の抗がん剤が効きやすい癌と、そうでない癌があります。

病期分類を臓器ごとに細分化することで、その臓器の癌の特性に基づいた、より効果的な治療法を選択する助けとなります。

生存率に影響する因子

予後、特に5年生存率は、がんの種類によって大きく異なります。臓器特異的な分類を用いることで、同じステージと診断された患者さんの集団における、より正確な生存率データを参照できます。

これは、患者さんがご自身の状況を理解し、今後の見通しを立てる上で大切な情報です。

肺がんにおける独自の病期分類システム

肺癌は、その発生部位や組織型によって多様な性質を示すため、非常に詳細な病期分類システムを用いています。

特に、TNM分類の各要素は、肺の解剖学的な特徴を色濃く反映しており、正確な進行度の把握が治療方針を左右します。

肺癌のTNM分類における特徴

肺癌のTNM分類では、原発腫瘍の大きさだけでなく、がんが周囲のどの組織にまで広がっているか(浸潤範囲)や、どの部位のリンパ節に転移しているかが極めて重要です。

T因子と腫瘍径・浸潤範囲

肺癌のT因子は、腫瘍の最大径を基本としながら、がんが主気管支、胸膜、横隔膜、心臓といった重要な組織に及んでいるかどうかで細かく分類します。

例えば、腫瘍が小さくても、重要な部位に浸潤していればT分類は高くなります。

肺癌のT分類(簡略版)

分類腫瘍の大きさ浸潤の状態
T13cm以下肺または臓側胸膜に囲まれている
T23cm超5cm以下など主気管支への浸潤など
T3/T45cm超など胸壁、横隔膜、心臓などへの浸潤

N因子とリンパ節転移の部位

肺癌のN因子評価では、単にリンパ節転移の有無だけでなく、「どの部位」のリンパ節に転移しているかが重要です。

肺門部や縦隔といった、肺の中心に近いリンパ節への転移ほど、進行した状態と判断します。

組織型による進行度の違い

肺癌は、がん細胞の見た目によって「小細胞肺癌」と「非小細胞肺癌」に大別します。

この組織型の違いは、がんの進行スピードや転移のしやすさに大きく関わるため、病期評価や治療方針の決定においてTNM分類と同様に重視します。

小細胞肺癌と非小細胞肺癌

小細胞肺癌は進行が非常に速く、早期から転移しやすい特徴があります。そのため、TNM分類とは別に、「限局型」と「進展型」という独自の分類を用いることが一般的です。

一方、非小細胞肺癌では、UICCのTNM分類に基づいた詳細なステージ判定を行います。

組織型を考慮した治療選択

治療法は組織型によって大きく異なります。

小細胞肺癌は薬物療法(抗がん剤治療)が治療の中心となるのに対し、非小細胞肺癌では早期であれば手術、進行していれば薬物療法、放射線治療、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など、多様な選択肢の中から治療法を決定します。

消化器がんの病期判定 – 深達度と転移の評価

胃癌や大腸癌といった消化器の癌では、臓器が管状の構造を持つという解剖学的な特徴が病期分類に大きく影響します。

特に、がんが臓器の壁のどの深さまで到達しているかを示す「壁深達度」が、予後を予測する上で最も重要な因子の一つとされています。

胃癌・大腸癌における壁深達度(T因子)

胃や大腸の壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という複数の層で構成されています。がんは最も内側の粘膜から発生し、徐々に外側の層へと深く浸潤していきます。

この深さがT因子を決定します。

粘膜から漿膜への癌の広がり

がんが粘膜または粘膜下層にとどまっている状態を「早期癌」と呼び、この段階ではリンパ節転移のリスクが低く、内視鏡治療で根治できる可能性もあります。

一方、がんが固有筋層より深く浸潤すると「進行癌」となり、転移のリスクが高まるため、より広範囲な手術や薬物療法が必要になります。

胃癌の壁深達度(T分類)の概要

分類がんが達している深さ一般的ながんの状態
T1粘膜または粘膜下層早期癌
T2固有筋層進行癌
T3/T4漿膜下層や漿膜を越える高度な進行癌

大腸癌の進行度と治療法

大腸癌も胃癌と同様に壁深達度が重要です。

進行度に応じて、内視鏡治療、腹腔鏡手術、開腹手術といった外科的治療に加えて、再発予防のための補助化学療法や、切除不能な場合の薬物療法など、治療法を使い分けます。

消化器癌におけるリンパ節転移(N因子)

消化器癌では、リンパ節への転移の有無と、転移しているリンパ節の「個数」がN因子を決定し、予後に大きな影響を与えます。

手術で切除したリンパ節を病理検査で詳しく調べ、転移陽性の個数を正確に数えます。

転移リンパ節の個数が予後を左右する

一般的に、転移しているリンパ節の個数が多いほど、がん細胞が全身に広がっている可能性が高まり、再発のリスクも上昇します。

そのため、リンパ節転移の個数は、術後の補助化学療法を行うかどうかを判断する際の重要な基準となります。

大腸癌のN分類(簡略版)

分類転移のある所属リンパ節の個数
N00個
N11~3個
N24個以上

乳がんで用いられる特有の分類基準

乳癌の病期分類もUICCのTNM分類を基本としますが、それに加えて、がん細胞そのものが持つ生物学的な性質(サブタイプ)を評価することが、治療方針の決定や予後の予測において極めて重要です。

この点が他の多くのがんとは異なる、乳癌の大きな特徴です。

乳癌のTNM分類とステージ

乳癌におけるTNM分類では、T因子は主にしこりの大きさ(腫瘍径)、N因子は脇の下(腋窩)や鎖骨周辺のリンパ節への転移、M因子は骨や肺、肝臓などへの遠隔転移の有無で評価します。

これらを組み合わせて総合的なステージを決定します。

腫瘍の大きさとリンパ節転移

腫瘍が小さく、リンパ節転移がない場合は早期のステージとなります。腫瘍が大きくなる、あるいはリンパ節転移の個数が増えるにつれて、ステージは進行していきます。

ステージは、手術の方法(乳房温存手術か全切除術か)や、術後の放射線治療、薬物療法の必要性を判断する上で基本となります。

乳癌の臨床病期ステージの例

ステージT(腫瘍)N(リンパ節)
I期2cm以下転移なし
II期2cm超5cm以下など腋窩リンパ節に転移ありなど
III期5cm超など広範囲のリンパ節に転移

予後を左右するサブタイプ分類

TNM分類による進行度に加え、乳癌ではがん細胞の表面にある「受容体」の発現状況などを調べる病理検査の結果が重要です。

これにより、癌をいくつかのサブタイプ(性質のタイプ)に分類し、それぞれに合った薬物療法を選択します。

ホルモン受容体とHER2の発現

調べるのは主に以下の3つです。

  • エストロゲン受容体(ER)
  • プロゲステロン受容体(PgR)
  • HER2(ハーツー)タンパク

これらの組み合わせによって、乳癌は大きく4つのサブタイプに分類されます。

サブタイプと治療方針

例えば、ホルモン受容体が陽性のタイプにはホルモン療法が、HER2が陽性のタイプには抗HER2薬という分子標的薬が高い効果を示します。

一方、これら3つ全てが陰性の「トリプルネガティブ」というタイプには、抗がん剤治療が中心となります。このように、サブタイプ分類は薬物療法の選択に直結します。

リンパ節転移の評価方法と臓器別の違い

リンパ節への転移は、がんが原発巣を離れて広がり始めたことを示す重要なサインです。

そのため、多くの癌の手術では、原発巣の切除と同時に、転移の可能性がある周辺のリンパ節を切除(郭清)し、病理検査で転移の有無を詳しく調べます。

この評価方法は、がんが発生した臓器によって特徴があります。

リンパ節郭清の重要性

リンパ節郭清は、転移の診断を確定させる(病期診断)と同時に、転移したがん細胞を取り除くという治療的な意味合いも持ちます。

しかし、郭清する範囲が広くなると、リンパ浮腫などの後遺症のリスクも高まるため、適切な範囲を見極めることが大切です。

センチネルリンパ節生検

近年、乳癌や悪性黒色腫などの手術では、「センチネルリンパ節生検」という方法を導入しています。

これは、原発巣から最初にリンパ液が流れ着く「見張り役」のリンパ節(センチネルリンパ節)を特定し、そこだけに転移がないかを調べる方法です。

転移がなければ、それ以上のリンパ節郭清を省略でき、患者さんの体への負担を軽減します。

臓器によるリンパ節転移評価の違い

リンパ節転移の評価、すなわちN分類は、転移の「部位」を重視するのか、転移の「個数」を重視するのかが、臓器によって異なります。

これは、各臓器からのリンパの流れや、リンパ節転移が予後に与える影響の違いを反映したものです。

肺癌におけるリンパ節ステーション

肺癌では、リンパ節を解剖学的な位置によって細かく区域(ステーション)分けしています。そして、どのステーションのリンパ節に転移があるかによってN分類を決定します。

原発巣から遠い、より中枢のステーションへの転移ほど、進行した状態と評価します。

胃癌の規約で定められたリンパ節領域

胃癌では、胃の周囲のリンパ節を場所によって番号でグループ分けしています。

手術で郭清するリンパ節の範囲は、がんの部位や進行度に応じて規約で定められており、切除したリンパ節の転移陽性個数によってN分類が決まります。

リンパ節転移評価の臓器による違い

臓器N分類の主な評価基準特徴
肺癌転移の「部位」(ステーション)解剖学的位置が重要
大腸癌転移の「個数」転移陽性のリンパ節数が予後と直結
乳癌転移の「個数」と「部位」腋窩、鎖骨上下などを評価

遠隔転移の判定基準とその意義

遠隔転移とは、がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って、原発巣から遠く離れた臓器に到達し、そこで増殖することです。

遠隔転移の有無は、TNM分類におけるM因子で評価され、病期(ステージ)を決定する上で最も重要な要素の一つです。遠隔転移が確認された場合、病期はステージIVと診断されます。

M分類が示すもの

M分類は非常にシンプルで、遠隔転移がない場合は「M0」、ある場合は「M1」と分類します。このM0かM1かの違いが、がん治療の全体的な方針を大きく左右します。

M0とM1の決定的な違い

M0は、がんが原発臓器とその周辺にとどまっている状態(局所のがん)であることを示します。

この場合、治療の目標は「根治(がんを完全に治すこと)」に置かれ、手術や放射線治療といった局所療法が治療の中心となります。

一方、M1は、がんが全身に広がっている状態(全身病)であることを意味します。

遠隔転移とステージIV

遠隔転移、すなわちM1と診断されると、病期は自動的にステージIVとなります。

ステージIVでは、局所の手術や放射線治療だけでがんを完全にコントロールすることは困難なため、抗がん剤や分子標的薬などを用いた全身に効果が及ぶ治療(全身療法)が治療の主体となります。

治療の目標は、がんの進行を抑え、症状を和らげ、できる限り長く良好な生活の質を維持することに置かれます。

遠隔転移の部位と予後

がんの種類によって、遠隔転移しやすい臓器には特徴があります。例えば、肺癌は脳や骨、肝臓に、大腸癌は肝臓や肺に、乳癌は骨、肺、肝臓、脳に転移しやすいことが知られています。

遠隔転移が見つかった場合でも、転移の個数や場所、症状の有無によって、その後の治療法や見通しは異なります。

癌種によって異なる転移しやすい臓器

  • 肺癌 → 脳、骨、肝臓、副腎
  • 大腸癌 → 肝臓、肺、腹膜
  • 乳癌 → 骨、肺、肝臓、脳
  • 胃癌 → 肝臓、肺、腹膜

病期分類が治療方針決定に与える影響

これまで見てきたように、臓器特異的な病期分類は、がんの進行度を正確に評価するためのものさしです。

そして、このものさしで測られた診断結果は、患者さん一人ひとりの治療方針を決定するための、最も重要な情報となります。

病期に基づいて標準的な治療法を選択し、個々の状況に合わせて治療計画を調整していきます。

ステージに応じた標準治療

がん治療には、多くの臨床試験の結果から、現時点で最も効果が高いと科学的に証明されている「標準治療」が存在します。

どの治療法を選択するかは、まず病期(ステージ)に基づいて判断します。

早期癌における根治的治療

がんが原発巣に限局している早期のステージ(主にI期)では、がんを完全に取り除く「根治」を目指した治療が第一選択となります。

具体的には、手術による外科的切除や、高精度な放射線治療などがこれにあたります。

進行癌に対する集学的治療

がんがリンパ節や周囲の臓器に広がっている進行したステージ(主にII期、III期)では、一つの治療法だけでは根治が難しくなります。

そのため、手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤、分子標的薬など)を効果的に組み合わせる「集学的治療」を行います。

治療の順番や組み合わせは、がんの種類や病期、患者さんの全身状態などを考慮して慎重に決定します。

病期ステージと一般的な治療方針の関係

ステージがんの広がり主な治療方針
I期限局手術、放射線治療などの局所療法
II期・III期領域リンパ節転移など複数の治療法を組み合わせる集学的治療
IV期遠隔転移薬物療法などの全身療法

治療効果判定と再発リスク評価

病期分類は、治療開始前の計画立案だけでなく、治療後の効果判定や再発リスクの評価にも用います。

治療によってがんがどの程度縮小したか、あるいは再発の可能性がどのくらいあるかを客観的に評価し、その後の治療方針に役立てます。

治療後の病期変化

薬物療法や放射線治療が手術前に行われる場合、治療によってがんが縮小し、ステージが下がることがあります(ダウンステージ)。

これにより、当初は不可能だった手術が可能になるケースもあります。

生存率を高めるための補助療法

手術で目に見えるがんをすべて取り除いた後でも、画像検査ではわからない微小な転移が体内に残っている可能性があります。病期が進んでいるほど、この再発リスクは高くなります。

そのため、ステージに応じて、術後に再発を予防するための薬物療法(術後補助化学療法など)を追加することを検討します。これは、長期的な生存率の向上を目指す上で非常に重要です。

予後予測における病期分類の役割

病期分類は、治療方針を決定するだけでなく、患者さんが今後の病状の見通し、すなわち「予後」を理解するための客観的な指標としても重要な役割を果たします。

特に、同じ癌と診断された多くの患者さんの治療成績を集計したデータである「生存率」は、病期(ステージ)ごとに大きく異なります。

生存率の指標としてのステージ

生存率は、特定の癌と診断された人々が、ある一定期間(通常は5年や10年)の後にどのくらいの割合で生存しているかを示す統計データです。

これはあくまで集団のデータであり、個人の余命を直接示すものではありませんが、病状の厳しさを客観的に把握するための一つの目安となります。

5年生存率と病期分類

一般的に、診断時のステージが早期であるほど5年生存率は高く、ステージが進行するにつれて低くなる傾向があります。

例えば、多くのがんにおいて、ステージIの5年生存率は80%や90%を超える一方で、ステージIVでは20%を下回ることも少なくありません。この事実は、早期発見・早期治療の重要性を物語っています。

主要ながんのステージ別5年生存率(模式図)

がんの種類ステージIステージIV
胃癌約95%約5%
肺癌約80%約5%
大腸癌約95%約15%

※この表は理解を助けるための模式的な数値であり、正確な値はがんの種類や統計データによって異なります。

予後予測の精度を高める他の因子

病期分類は予後を予測する上で最も強力な因子ですが、それだけがすべてではありません。同じステージであっても、患者さん一人ひとりの予後は様々な要因によって変わってきます。

より個人に即した予後予測を行うためには、これらの因子を総合的に考慮することが大切です。

全身状態と遺伝子変異

患者さんの年齢や体力、持病の有無といった全身状態(パフォーマンスステータス)は、治療への耐性やその後の経過に大きく影響します。

また、近年の研究により、がん細胞が持つ特定の遺伝子の変異が、予後や薬の効きやすさに関わることが分かってきました。これらの情報も、予後予測の精度を高める上で重要です。

治療への反応性

実際に治療を開始した後の、がんの縮小具合や副作用の程度といった「治療への反応性」も、その後の経過を予測する上で重要な情報となります。

治療がよく効いている場合は、統計データ上の予後を上回る結果が期待できます。

臓器特異的な病期分類に関するよくある質問

なぜ同じステージでも治療法が違うのですか?

同じステージと診断されても、治療法が異なることはよくあります。その理由は主に2つあります。

一つは、この記事で解説したように、がんが発生した「臓器」が違えば、がんの性質も治療法も全く異なるためです。

例えば、同じステージIIでも、胃癌と肺癌では標準治療は異なります。

もう一つの理由は、同じ臓器のがんであっても、乳癌におけるサブタイプのように、がん細胞の生物学的な性質、遺伝子変異の有無、そして患者さんご自身の年齢や体力、希望などを総合的に考慮して、治療方針を個人に合わせて調整するためです。

病期(ステージ)は途中で変わることがありますか?

最初に診断された時点での病期(臨床病期)は、治療方針の決定において基本となるため、通常は変更しません。

しかし、治療の経過でがんの状態は変化します。例えば、治療によってがんが縮小したり、逆に再発や転移が出現したりすることがあります。

手術後に切除した組織を詳しく調べることで、より正確な病期(病理病期)が確定し、最初の診断と異なる場合もあります。

治療後の状態を評価するために再度検査を行い、現在の病状を把握することはありますが、最初の診断ステージそのものを「変更」するという考え方はあまりしません。

UICC規約はなぜ改訂されるのですか?

UICCのTNM分類規約は、数年に一度改訂されます。これは、医学の進歩によって、がんの進行や予後に関する新しい知見が次々と明らかになるためです。

例えば、新しい画像診断技術の登場でより詳細な評価が可能になったり、特定の遺伝子変異が予後に大きく関わることが判明したりすると、それらを反映させて、より正確で実情に合った分類へと見直す必要があります。

規約を改訂することで、世界中の医師が最新の知識に基づいた、より精度の高い診断と治療を行えるようにすることが目的です。

さらに詳しく知りたい方へ「TNM分類システム」

この記事では、臓器ごとの病期分類の重要性について解説しました。その全ての基本となるのが、国際的な基準である「TNM分類」です。

T(腫瘍の広がり)、N(リンパ節転移)、M(遠隔転移)という3つの要素が、それぞれどのように評価され、最終的なステージ決定にどう結びつくのか。

TNM分類の原則をより深く理解することで、ご自身の診断内容や治療方針への理解が一層深まります。

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