標準治療の効果を最大限に引き出しつつ、がんワクチン療法をスムーズに導入するためには、治療の空白期間を正確に把握し、主治医と信頼関係に基づいた対話を重ねることが極めて重要です。
本記事では、抗がん剤や放射線治療の合間を縫う具体的なスケジュール管理の手法と、多忙な主治医に対して患者側の熱意と論理性を両立させて相談するための実践的なノウハウを体系的に解説します。
治療の主役はあなた自身です。納得のいく治療選択を実現するための具体的な道筋を解説します。
標準治療と免疫療法の相乗効果を生み出す基本原理
がんワクチンと標準治療(手術、抗がん剤、放射線)を組み合わせることは、互いの弱点を補い合い、より高い治療成果を目指す上で非常に理にかなった選択です。
それぞれの治療法が持つ特性を理解し、正しい順序とタイミングで実施することで、体内の免疫環境を活性化させ、がん細胞への攻撃力を高めることが可能になります。
標準治療の隙間を埋める免疫の働き
標準治療、特に抗がん剤や放射線治療は、がん細胞を直接叩く強力な力を持っています。しかし、これらの治療は同時に正常な細胞にもダメージを与え、一時的に体力の低下や免疫力の抑制を招くことがあります。
ここで重要になるのが、がんワクチンの役割です。がんワクチンは、体内の免疫細胞(リンパ球など)にがんの特徴を記憶させ、自らの力でがんを攻撃するように仕向ける治療法です。
併用療法の種類と期待される相互作用
| 併用する標準治療 | 相互作用の特徴 | 狙いとなる効果 |
|---|---|---|
| 抗がん剤(化学療法) | がん細胞破壊による抗原放出と免疫抑制の解除を利用する | 抗原提示の促進による免疫応答の強化 |
| 放射線治療 | 局所照射による炎症反応と全身的な免疫活性化の誘発 | アブスコパル効果の増強と全身転移への対処 |
| 外科手術 | 腫瘍除去による腫瘍量の減少と微小残存病変への対策 | 術後再発予防と残存がん細胞の排除 |
標準治療によってがん細胞の数が減少し、死滅したがん細胞から抗原(目印)が放出されているタイミングでワクチンを投与することは、免疫細胞が標的を認識しやすくする好機となります。
単独で行うよりも、標準治療でがんの勢いを削いだ状態で免疫を賦活化させるほうが、効率的にがんを追い込めると考えられています。
併用によって期待できる生体内反応の変化
抗がん剤治療を行うと、がん細胞が破壊される過程で、免疫細胞を抑制する細胞(制御性T細胞など)が減少することがあります。このタイミングはいわば、免疫のブレーキが緩んでいる状態と言えます。
この時期にがんワクチンを投与し、免疫のアクセルを踏むことで、通常時よりも強力な免疫反応を引き出せる可能性があります。
さらに、放射線治療には「アブスコパル効果」と呼ばれる現象が知られています。これは、放射線を照射した局所だけでなく、照射していない離れた場所の腫瘍も縮小する現象ですが、これも免疫の働きによるものです。
ワクチンを併用することで、この全身的な抗腫瘍効果をさらに増強できると期待されています。単に二つの治療を足し算するのではなく、掛け算のような効果を狙うのが併用療法の真髄です。
治療開始時期が結果を左右する理由
併用療法において最も大切な要素の一つが「タイミング」です。免疫細胞が極端に減少している時期にワクチンを投与しても、反応する細胞自体が少なければ十分な効果は期待できません。
逆に、体が回復しきってからでは、がん細胞が再び勢力を取り戻している可能性もあります。したがって、標準治療によるダメージから骨髄機能が回復し始め、かつ次回の標準治療が始まるまでの「絶妙な期間」を見極める必要があります。
この期間を逃さず、計画的にワクチン投与を組み込むことが、治療の成功率を高める鍵となります。漫然と治療を受けるのではなく、自らの治療スケジュール全体を俯瞰し、戦略的に介入時期を決定することが必要です。
治療スケジュールの空白期間を見つける分析手法
効果的なワクチン接種のためには、現在受けている、あるいはこれから受ける標準治療のスケジュールを詳細に分析し、治療が行われない「空白期間(休薬期間)」を正確に特定することが不可欠です。
この期間こそが、新たな治療を組み込むための貴重なチャンスとなります。
抗がん剤の投与サイクルと休薬期間の構造
多くの抗がん剤治療は、「1クール(コース)」という単位で管理されています。例えば、「3週間(21日)を1クールとし、初日に点滴を行い、その後20日間は休薬する」といったパターンや、「2週連続で投与し、1週間休む」といったパターンなど、薬剤や病状によって様々です。
このサイクルのうち、実際に薬が体に入っている日以外、特に骨髄抑制(白血球減少など)のピークを過ぎて体が回復に向かう時期が、ワクチンの投与候補日となります。
自分の治療計画書を確認し、カレンダー上で「投与日」「副作用が辛い時期」「体調が安定している時期」を色分けして可視化することから始めます。この可視化作業によって、漠然としていたスケジュールの隙間が明確に浮かび上がってきます。
標準治療における典型的なスケジュールの空き
| 治療の種類 | 一般的なサイクル例 | 検討可能な空き時間 |
|---|---|---|
| 点滴抗がん剤 | 3週間に1回投与 | 投与後2週目〜3週目の体調安定期 |
| 経口抗がん剤 | 2週間服用し1週間休薬 | 休薬期間の後半数日間 |
| 放射線治療 | 平日毎日照射×6週間 | 週末の休日や全照射終了後の経過観察期間 |
放射線治療における照射期間と待機時間
放射線治療は、月曜日から金曜日まで毎日照射し、土日は休みというスケジュールを数週間にわたって続けるのが一般的です。一見すると隙間がないように見えますが、照射期間中の週末や、一連の照射が終了してから効果判定を行うまでの数週間から数ヶ月の期間は、併用療法を検討できる重要な時間帯です。
放射線治療と併用する場合、同時期に行うことが良いのか、あるいは放射線治療終了直後が良いのかは、ワクチンの種類によって異なります。
しかし、いずれにしても「毎日通院しているから他のことはできない」と決めつけるのではなく、通院のついでや、治療後の経過観察期間を有効活用するという視点を持つことが大切です。
手術前後の身体的回復と治療の好機
手術を受ける場合、術前の待機期間と術後の回復期間が存在します。近年では「術前補助療法」として、手術前に薬物療法を行うケースも増えていますが、ここにも介入の余地があります。
術後は傷の回復を待ってから補助化学療法が始まるまでの間に、通常1ヶ月程度の期間が空くことが多いです。この期間は、手術で取りきれなかった目に見えない微小ながん細胞が体内に残っている可能性がある時期でもあります。
体力が許せば、このタイミングで免疫を刺激しておくことは、再発予防の観点から非常に意義深い戦略となり得ます。主治医から「次は◯月◯日に来てください」と言われるのをただ待つのではなく、その間に何ができるかを主体的に考える姿勢が必要です。
免疫細胞の状態を考慮した日程調整の具体策
単にスケジュールが空いているからといって、無条件にワクチンを打てば良いわけではありません。ワクチンの効果を受け止める「体側の受け皿」、つまり免疫細胞の状態が整っている日を選ぶことが、治療効果を最大化するために必要です。
骨髄抑制からの回復期を見極める重要性
抗がん剤治療の副作用として最も注意すべきなのが骨髄抑制です。これは白血球や好中球などの免疫担当細胞が一時的に減少する現象です。
白血球数が極端に低下している時期(ナディア期と呼ばれます)にワクチンを接種しても、指令を受け取る兵隊がいない状態と同じであり、十分な免疫反応が起きないばかりか、感染症のリスクを高めることにもなりかねません。
通常、抗がん剤投与から7日〜14日頃に白血球数が底を打ち、その後回復に向かいます。したがって、採血データを確認し、白血球数が基準値に向かって回復し始めたタイミング、あるいは次回の抗がん剤投与直前の「免疫力が比較的高い状態」を狙ってワクチン接種日を設定することが大切です。
接種タイミングの判断基準
| 判断項目 | 推奨されるタイミング | 避けるべきタイミング |
|---|---|---|
| 白血球数 | 回復期または基準値内 | 減少のピーク時(ナディア期) |
| ステロイド使用 | 使用なし、または影響が切れた時期 | 高用量投与中または直後 |
| 全身状態 | 平熱で食欲・睡眠が安定 | 37.5度以上の発熱や強い倦怠感あり |
ステロイド剤使用との兼ね合い
抗がん剤の副作用(吐き気やアレルギー反応)を抑えるために、ステロイド剤や免疫抑制剤が使用されることがあります。これらは炎症を抑える優れた薬ですが、同時に免疫反応そのものを抑え込んでしまう作用も持っています。
がんワクチンは免疫反応をあえて起こす治療法であるため、強力なステロイドが体内に大量に残っている時期に接種すると、ワクチンの効果が打ち消されてしまう可能性があります。
主治医と相談し、ステロイドの減量が可能か、あるいはステロイドの影響が薄れるタイミング(休薬日の後半など)にワクチン接種を設定できるか、詳細な調整を行う必要があります。薬の半減期を考慮した緻密な計画が求められます。
体温や炎症反応(CRP)を指標にする
免疫の状態は、体温や血液検査のCRP(炎症反応)値にも表れます。発熱している時やCRPが高い時は、体内で何らかの炎症や感染症が起きている可能性が高く、免疫系がすでに手一杯の状態であると言えます。
このような時に追加で免疫を刺激することは、体に過度な負担をかけることになります。平熱で安定しており、CRP値が落ち着いている日は、体が新たな治療を受け入れる準備ができているサインと捉えることができます。
自身で毎日の体温や体調を記録し、「調子の良い日」のパターンを把握しておくことは、ベストな接種日を決定する上で非常に役立つデータとなります。
主治医への相談前に準備すべき情報と資料
限られた診療時間の中で、主治医にこちらの意図を正しく伝え、協力を得るためには、事前の周到な準備が欠かせません。情報を整理し、簡潔に提示できる状態にしておくことで、医師も判断がしやすくなり、建設的な議論が可能になります。
治療履歴と今後の予定表の整理
まず、これまでに行ってきた治療の履歴と、現在予定されている今後のスケジュールを一覧表にまとめます。いつ、どの抗がん剤を、どれだけの量投与したか、その時の副作用はどうだったか、そして次回の予約はいつか。これらをA4用紙1枚程度に時系列で記述します。
口頭で「えーっと、先月くらいに…」と説明するのではなく、視覚的な資料として提示することで、医師は瞬時に状況を把握できます。
主治医との面談に持参すべきものリスト
- 時系列にまとめたこれまでの治療経過と今後の予定表
- 直近3回分程度の血液検査結果(コピー)
- 現在服用しているすべての薬剤リスト(お薬手帳)
- 検討しているがんワクチン療法の資料(概要がわかるもの)
- 具体的に質問したい事項を箇条書きにしたメモ
- 筆記用具とスケジュール帳(その場で日程を書き込むため)
加えて、がんワクチンクリニック側から提示された推奨スケジュール案がある場合は、それも併せて持参し、「この日程で標準治療の合間に組み込みたいと考えているが、医学的に問題がないか」を確認できる形にします。
服用中の薬剤リストと血液検査データ
お薬手帳を持参するのは当然ですが、特に現在服用している薬の中で、免疫に影響を与える可能性のあるもの(ステロイド、免疫抑制剤、一部の解熱鎮痛剤など)をピックアップしてリスト化しておくと良いでしょう。
直近数回分の血液検査データも重要です。特に白血球数、リンパ球数、好中球数、CRP、肝機能、腎機能の数値の推移は、併用療法の可否を判断する決定的な材料になります。
これらのデータを時系列でグラフ化、あるいは一覧表にしておくと、医師は「今の骨髄機能なら大丈夫そうだ」といった判断を即座に下すことができます。客観的なデータに基づいた相談は、医師からの信頼を得る第一歩です。
医師に確認すべき事項の明確化
診察室に入ると緊張してしまい、聞きたかったことを忘れてしまうことはよくあります。そのため、質問事項は必ずメモに書き出し、優先順位をつけておきます。
「併用しても良いか」という大きな質問だけでなく、「抗がん剤投与の何日後なら影響が少ないと考えるか」「避けるべき特定の日はあるか」「万が一副作用が出た場合の連携はどうすればよいか」など、具体的かつ実務的な質問を用意します。
漠然とした不安をぶつけるのではなく、具体的な行動指針を決めるための質問をすることで、医師も専門家としての意見を出しやすくなります。
主治医の協力を引き出す対話術
標準治療を担当する主治医にとって、患者が外部で別の治療を受けることは、管理上のリスクや治療効果の判定が難しくなる要因となり得ます。そのため、相談の切り出し方には細心の注意が必要です。
対立するのではなく、あくまで標準治療を完遂するための補完的な手段として相談するという姿勢を示すことが、良好な関係を維持するコツです。
標準治療への敬意と優先順位の提示
まず最初に伝えるべきは、「標準治療を信頼しており、それを最優先で継続する意思がある」ということです。医師が最も懸念するのは、患者が怪しげな民間療法に傾倒し、効果が実証されている標準治療を中断してしまうことです。
「先生の治療を最後までやり遂げたい。そのために、体力を維持し、少しでも再発のリスクを下げるプラスアルファとして、免疫療法を併用したい」という論理構成で話を進めます。
標準治療を否定する言葉や、ネット上の不確かな情報を根拠に医師の治療方針を批判することは厳禁です。医師と同じ方向(がんの克服)を向いていることを強調してください。
「許可」ではなく「相談」というスタンス
「ワクチンをやりたいので許可証を書いてください」と一方的に要求すると、医師は身構えてしまいます。そうではなく、「免疫療法の併用を検討しているのですが、現在の私の病状や治療スケジュールにおいて、医学的な観点から先生のご意見を伺いたい」という「相談」の形をとります。
医師の専門性を尊重し、アドバイスを求める姿勢を見せることで、医師も親身になって考えやすくなります。「もし先生が私の立場なら、どのタイミングで組み込むのが安全だと考えますか?」といった問いかけも有効です。
決定権を医師に委ねるのではなく、専門家の知見を借りて自分で決めたいという意思表示が大切です。
医師への伝え方・良い例と悪い例
| シチュエーション | 避けるべき言い回し(悪い例) | 推奨される言い回し(良い例) |
|---|---|---|
| 導入の切り出し | ネットで見たこの治療が効くらしいので、やりたいです。 | 現在の治療を完遂するための体力作りとして、併用療法を検討しています。 |
| スケジュールの相談 | 来週ワクチンを予約したので、抗がん剤をずらしてください。 | 抗がん剤の休薬期間を利用したいのですが、医学的に安全な日程はいつ頃でしょうか。 |
| 反対された時 | 先生は勉強不足です。この治療は最新なんですよ。 | ご懸念点は理解しました。ただ、私としては納得して治療を進めたいので、見守っていただけませんか。 |
否定的な反応をされた場合の切り返し方
残念ながら、すべての医師が免疫療法に理解があるわけではありません。「エビデンスが足りない」「お金の無駄だ」と否定されることもあります。その場合は、感情的に反論せず、冷静にその理由を聞きます。
「今の私の状況ではリスクが高いということでしょうか? それとも一般的なエビデンスの話でしょうか?」と確認します。医学的な危険性が理由であれば素直に従うべきですが、単に医師の信条として否定している場合は、情熱と謙虚さを持って伝えます。
「先生のご懸念は理解しました。その上で、私としては後悔のないよう、できることは全てやりたいという気持ちが強いのです。治療の妨げにならない範囲で調整しますので、経過だけは見守っていただけないでしょうか」と穏やかに主張することが重要です。
副作用発生時の対処と体調管理のルール
二つの治療を並行して行う以上、副作用のリスク管理はこれまで以上に慎重に行う必要があります。どの症状がどちらの治療によるものかを冷静に見極め、適切なタイミングで医療機関に連絡する体制を整えておくことが、安全な治療継続には不可欠です。
症状の切り分けと記録の習慣化
標準治療による副作用(吐き気、脱毛、骨髄抑制など)と、がんワクチンによる副反応(注射部位の赤み、一時的な発熱など)は、ある程度区別がつきます。しかし、倦怠感や微熱など、どちらが原因か判別しにくい症状も多々あります。
重要なのは、「いつ、どのような症状が、どの程度の強さで現れたか」を詳細に記録することです。ワクチン接種の数時間後に出た熱ならワクチンの反応の可能性が高いですし、抗がん剤投与の数日後ならその影響が強いでしょう。
この記録があれば、医師は原因を特定しやすくなり、次回の投与量を調整したり、スケジュールを見直したりする判断材料になります。日記やスマホのアプリを活用し、毎日の体調をスコア化して記録する習慣をつけましょう。
緊急受診が必要なサインの把握
基本的には、がんワクチンの副作用は軽微なことが多いですが、稀に強いアレルギー反応(アナフィラキシー)や、予期せぬ炎症反応が起きることがあります。また、標準治療との相互作用で、想定以上に骨髄抑制が強く出る可能性もゼロではありません。
38度以上の高熱が数日続く、呼吸が苦しい、急激な発疹が出た、意識がもうろうとする、といった症状が現れた場合は、迷わず主治医、あるいはワクチンを接種したクリニックに連絡する必要があります。
直ちに医療機関へ連絡すべき警告サイン
- 突然の息苦しさや動悸、血圧の低下(アナフィラキシーの疑い)
- 38.5度以上の高熱が解熱剤を使用しても2日以上下がらない場合
- 注射部位を超えて広がる広範囲の発疹や強い痒み
- 激しい下痢や嘔吐により水分摂取が困難な場合
- 意識の混濁や、普段と明らかに異なる言動が見られる場合
どちらに連絡すべきか迷う時間をなくすため、事前に「こういう症状が出たら、まずこちらへ」という緊急連絡先を確認し、家族とも共有しておくことが大切です。
無理な実施は逆効果であることを知る
「せっかく予約したから」「高額な治療費を払ったから」といって、体調が悪いのに無理をしてワクチン接種を受けることは避けるべきです。体が弱っている時に無理に免疫を刺激しても、期待する効果が得られないばかりか、体力を消耗させ、本丸である標準治療のスケジュールに遅れを生じさせる原因になります。
「休むことも治療の一部」と割り切り、体調が優れない時は勇気を持って延期する判断が必要です。ワクチンクリニック側も、医学的な理由による延期であれば柔軟に対応してくれるはずです。焦らず、万全の状態で臨むことが、結果として最短の回復につながります。
通院を継続するための生活基盤と家族の役割
長期にわたる併用療法を完遂するためには、医学的なスケジュール調整だけでなく、それを支える生活上のロジスティクス(物流・後方支援)を整えることが重要です。仕事、家事、移動、そして費用の管理など、現実的な課題に対して家族や周囲のサポートをどう組み込むかが、治療の継続性を左右します。
職場や家庭とのスケジュール調整術
標準治療の通院に加え、ワクチン接種のための通院が増えることは、時間的な拘束が増すことを意味します。仕事をしている場合は、半日休暇やフレックス制度をフル活用する必要があります。
あらかじめ数ヶ月先までの治療予定日を職場の上司に伝え、業務の調整を行っておくことが、精神的な負担を減らすことにつながります。家庭内でも、通院日は家事を免除してもらう、食事はデリバリーや作り置きを活用するなど、無理のないルールを作ります。
「自分がやらなければ」という責任感を少し手放し、治療に専念できる環境を周囲と協力して作り上げることが大切です。
治療生活を支える役割分担の例
| 担当者 | 主な役割とタスク | 目的 |
|---|---|---|
| 患者本人 | 治療を受ける、体調を記録する、意思決定を行う | 治療効果の最大化と自分らしい生活の維持 |
| 家族(パートナー等) | 送迎の運転、医師との対話メモ、体調の客観的観察 | 患者の負担軽減と安全管理の徹底 |
| 職場・友人 | 業務の代行、精神的なサポート、雑事の支援 | 社会との繋がりの維持と孤独感の解消 |
移動手段と費用の計画的な管理
がんワクチンを提供しているクリニックは都市部に集中していることが多く、遠方への通院が必要になるケースも少なくありません。抗がん剤治療中で体力が低下している時に、長距離の移動は大きな負担です。
新幹線や飛行機の予約、介護タクシーの利用、あるいは通院の前後でホテルに宿泊して休息を取るなど、体力を温存するための移動計画を立てます。また、自由診療であるがんワクチンは費用が高額になりがちです。
いつ、いくらの支払いが発生するかを明確にし、医療費控除の申請準備や、必要であれば医療ローンの検討など、資金繰りについても早めに計画を立てておくことで、経済的な不安による治療中断を防ぐことができます。
家族による客観的なモニタリング機能
患者本人は、治療への焦りや不安から、自分の体調変化に対して鈍感になってしまったり、逆に過敏になりすぎたりすることがあります。ここで重要なのが、家族による客観的な観察です。
「今日はいつもより顔色が悪いよ」「少し歩き方がふらついているから、次の予約は延期しようか」といった、第三者視点でのアドバイスは非常に貴重です。医師への説明の際も、患者本人が言いづらいことや忘れていることを、家族が横から補足することで、より正確な情報伝達が可能になります。
家族は単なる付き添いではなく、治療チームの一員としての「マネージャー」的な役割を担うことで、併用療法の成功率は大きく向上します。
Q&A
- 標準治療の副作用が強く出ている時期でも受けられますか?
-
基本的には推奨されません。副作用が強く出ている時期は、体がダメージの修復に全力を注いでいる状態であり、免疫細胞の働きも低下していることが多いからです。
特に強い骨髄抑制(白血球減少)がある時期や、高熱、激しい嘔吐などがある場合は、ワクチンの効果が出にくいだけでなく、体調をさらに悪化させるリスクがあります。主治医と相談し、副作用が落ち着き、体力が回復傾向にある時期(休薬期間の後半など)に延期するのが賢明な判断です。
- 主治医が併用療法に反対しています。どうすればよいですか?
-
まずは反対の理由を冷静に確認しましょう。医学的な危険性(現在の薬との飲み合わせや病状の急変リスクなど)を指摘されている場合は、その指示に従うべきです。
一方で、単に「エビデンスが確立していない」という理由であれば、標準治療を最優先し、決して邪魔をしないという条件で、あくまで患者自身の希望として実施したいと伝えてみてください。
それでも許可が出ない場合は、セカンドオピニオンを利用して、併用療法に理解のある他院の医師に意見を求めるのも一つの方法です。対立するのではなく、納得できる道を探しましょう。
- 標準治療とワクチンの副作用が重なった場合の見分け方は?
-
完全に区別するのは難しい場合もありますが、発生時期である程度の推測は可能です。ワクチンの副反応(発熱、注射部位の腫れなど)は、通常接種後24〜48時間以内に現れ、数日で治まります。
一方、抗がん剤の副作用は投与直後のアレルギー反応を除き、数日後から数週間後にかけて現れるものが多いです。症状日誌をつけることで、どの治療の後にどんな症状が出たかのパターンが見えてきます。
判断に迷う症状が出た場合は、自己判断せず、必ず医師に「いつ、何をして、どうなったか」を正確に伝えてください。
- 遠方に住んでいますがスケジュール調整は可能ですか?
-
可能です。多くの免疫療法クリニックでは、遠方からの患者に対応するため、オンライン診療を活用した問診や、来院回数を減らすためのスケジュール調整を行っています。
例えば、採血と投与を同日に行えるよう手配したり、地元の医療機関で採血だけ行い、データを送って判定してもらったりする連携が可能な場合もあります。
最初の問い合わせ段階で「遠方であること」「頻繁な通院が難しいこと」を伝え、無理のない通院プランを提案してもらうことが大切です。
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