がんは、多くの人にとって身近な病気です。しかし、そのリスク要因は様々であり、生活習慣の見直しや環境の整備によって「予防」できる可能性も多く秘めています。
また、すべてのがんが予防できるわけではないからこそ、万が一の際に備える「早期発見」の知識が重要になります。
この記事では、がんのリスクを高める要因から、体が発するサイン、そして早期発見に欠かせない「がん検診」の意義まで、がんという病気と向き合うために必要な情報を体系的に解説します。
日本人にとって「がん」は他人事ではない理由
「がん」と聞くと、どこか他人事のように感じるかもしれません。
しかし、現在の日本では、がんは最も身近な病気の一つであり、誰にとっても「自分ごと」として考える必要のある疾患です。統計データは、その現実を明確に示しています。
生涯罹患率と死亡率の現状
国立がん研究センターの最新の統計によると、日本人が生涯でがんに罹患する(診断される)確率は、男性で65.5%、女性で51.2%と報告されています(2019年データに基づく)。
これは、計算上、男性も女性も2人に1人が生涯のうちに何らかのがんと診断されることを意味します。
また、がんは1981年から現在に至るまで、日本人の死因の第1位であり続けています。現在では、年間38万人以上の方ががんで亡くなっており、全死亡者数の約4分の1を占めています。
医療の進歩により「がんは治る病気」になりつつある一方で、依然として多くの人の命を脅かす存在であることに変わりはありません。
日本人のがん統計データ
具体的な数値で見ると、その深刻さがより明確になります。がんは決して珍しい病気ではなく、私たちの生活のすぐそばにある現実です。
| 項目 | 確率・数値(2019年データに基づく) |
|---|---|
| 生涯がん罹患リスク(男性) | 65.5% (2人に1人以上) |
| 生涯がん罹患リスク(女性) | 51.2% (2人に1人) |
| 生涯がん死亡リスク(男性) | 26.7% (4人に1人) |
| 生涯がん死亡リスク(女性) | 17.8% (6人に1人) |
「がん」が身近な病気である背景
なぜ、これほどまでにがんが身近な病気となったのでしょうか。その最大の要因は、日本の「高齢化」にあります。がんは、細胞の遺伝子が加齢とともに傷つくことによって発生する病気です。
そのため、年齢を重ねるほど、がんの発生リスクは高まります。
日本の平均寿命は世界でもトップクラスであり、多くの人が長寿を享受できる社会になりました。
それは素晴らしいことであると同時に、加齢に伴って発症しやすい病気であるがんの罹患者数が増加する背景ともなっています。
がんの罹患率は50歳代から増加し始め、高齢になるほど高くなります。長生きするほど、がんと向き合う可能性が高まる。これが、現代の日本においてがんが「他人事ではない」最大の理由です。
あなたの生活習慣は大丈夫? – リスクを高める要因 –
がんの発生には様々な要因が関わっていますが、その中でも日々の「生活習慣」が大きな影響を与えていることが分かっています。
裏を返せば、生活習慣を見直すことは、誰でも取り組める「がん予防」の第一歩となります。ご自身の日常を振り返ってみましょう。
見直したい日常の「習慣」
毎日何気なく続けている習慣が、知らず知らずのうちにがんのリスクを高めているかもしれません。特に「喫煙」「飲酒」「食事」は、がんの主要な原因として科学的に証明されている要素です。
喫煙のリスク
喫煙は、がんの最大の原因の一つです。たばこの煙には70種類以上もの発がん性物質が含まれています。
これらの物質が肺から吸収され、血液に乗って全身を巡ることで、肺がんだけでなく、口腔・咽頭・喉頭・食道・胃・肝臓・膵臓・膀胱・子宮頸がんなど、全身の様々ながんの原因となります。
受動喫煙、つまり他人のたばこの煙を吸うことでもリスクは上昇します。がん予防において、禁煙は最も効果的かつ重要な取り組みです。
飲酒の影響
アルコールの摂取も、がんのリスクを高めます。アルコールが体内で分解される際に生じる「アセトアルデヒド」という物質に、発がん性が認められています。
特にリスクが高まるのは、食道がん、肝臓がん、大腸がん、乳がん(女性)などです。飲酒量が多いほど、また飲酒期間が長いほどリスクは高まります。飲む場合は、節度ある適量を守ることが大切です。
食事と栄養の偏り
日々の食事が体に与える影響は甚大です。塩分の多い食事(漬物、干物、塩蔵品など)の過剰摂取は、胃の粘膜を傷つけ、胃がんのリスクを高めます。
また、野菜や果物の摂取不足も、多くのがんのリスク上昇と関連しています。一方で、食物繊維の豊富な食事は、大腸がんの予防に役立つとされています。
加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)や赤肉(牛、豚、羊など)の食べ過ぎも、大腸がんのリスクを高める可能性が指摘されています。
バランスの取れた食事を心がけ、特定の食品に偏らないことが予防の鍵です。
運動不足と肥満
定期的な運動習慣は、がんの予防にもつながります。運動は、免疫機能を高めたり、体内のホルモンバランスを整えたりする効果が期待できます。逆に、運動不足は肥満の原因となります。
肥満、特に内臓脂肪の蓄積は、インスリンの働きを悪くし、炎症を引き起こすことで、大腸がん、乳がん(閉経後)、子宮体がん、肝臓がん、膵臓がんなど、多くのがんのリスクを高めることが分かっています。
がん予防につながる生活習慣の具体例
がんのリスク要因は多岐にわたりますが、生活の中で意識的に改善できる点も多くあります。リスクをゼロにはできませんが、日々の積み重ねが将来の健康を守る力となります。
| リスク要因 | 関連が強いがんの種類(例) | 予防のための対策 |
|---|---|---|
| 喫煙(能動・受動) | 肺がん、食道がん、膵臓がん | 禁煙し、受動喫煙を避ける |
| 過度な飲酒 | 肝臓がん、食道がん、大腸がん | 飲酒量を適量(例:日本酒1合/日)に抑える、休肝日を設ける |
| 塩分の多い食事 | 胃がん | 減塩を心がける(加工食品や外食の頻度を見直す) |
| 野菜・果物不足 | 食道がん、胃がん、大腸がん | 1日350g以上の野菜と適量の果物を摂取する |
| 運動不足 | 大腸がん、乳がん | 日常的に体を動かす(例:早歩きを1日60分程度) |
生活環境に潜む原因
個人の生活習慣だけでなく、私たちが生きる環境にも、がんの原因となるものが存在します。代表的なものが「感染症」です。
感染症とがん
意外に思われるかもしれませんが、がんの一部はウイルスや細菌への感染が引き金となって発生します。
これらのがんは、感染の予防や、感染した場合の早期治療(除菌など)によって、発症リスクを大きく減らすことができます。
| 感染源 | 関連するがんの種類 | 主な対策 |
|---|---|---|
| ヒトパピローマウイルス (HPV) | 子宮頸がん、中咽頭がん | HPVワクチンの接種、子宮頸がん検診 |
| B型・C型肝炎ウイルス | 肝臓がん | 肝炎ウイルス検査、感染時の抗ウイルス治療 |
| ヘリコバクター・ピロリ菌 | 胃がん | ピロリ菌検査、感染時の除菌治療 |
| EBウイルス | バーキットリンパ腫など | (特定の予防法は確立していない) |
がんの中には、原因となるウイルスや細菌に対処することで、発症を高い確率で防げるものがあります。
- 胃がん: ピロリ菌の検査・除菌治療
- 子宮頸がん: HPVワクチンの接種、検診
- 肝臓がん: 肝炎ウイルスの検査・治療
これらは「予防接種」や「薬」でリスクを下げられる数少ないがんです。一度も検査を受けたことがない方は、ぜひ検討してください。
化学物質や紫外線への曝露
特定の職業で扱う化学物質(アスベストなど)も、がんの原因となることが知られています。
また、日常生活で浴びる「紫外線」も、長期間にわたり強く浴び続けると、皮膚がん(基底細胞がん、有棘細胞がん、悪性黒色腫など)のリスクを高めます。
日焼け対策は、美容面だけでなく、皮膚の健康を守るためにも重要です。
遺伝や年齢 – 向き合い方が必要なリスク要因
がんのリスク要因の中には、生活習慣のように自分の努力で変えられるものがある一方で、「年齢」や「遺伝」のように、変えることが難しい要因も存在します。
これらの要因については、リスクを正しく理解し、適切に向き合っていく姿勢が求められます。
避けられない要因としての「年齢」
冒頭でも触れた通り、「加齢」はがんの最大のリスク要因です。これは、長年にわたって細胞が分裂を繰り返すうちに、遺伝子(DNA)に傷が蓄積しやすくなるためです。
通常、体には傷を修復する仕組みがありますが、年齢とともにその能力が低下したり、修復ミスが起こりやすくなったりします。この修復しきれなかった遺伝子の傷が「がん化」の始まりとなります。
年齢とがん罹患率の関係
がんの罹患率は、男女ともに50歳代から急速に上昇し始め、高齢になるほど高くなります。これは、がんが「生活習慣病」であると同時に「加齢に伴う病気」であることを示しています。
若いから大丈夫と過信せず、また年齢を重ねたら定期的なチェックを怠らないことが大切です。
| 年齢層 | がん罹患率の傾向 | 特に注意が必要ながん(例) |
|---|---|---|
| 20〜40代 | 罹患率は低いが、特定のがん(子宮頸がん、乳がん、甲状腺がんなど)は注意 | 子宮頸がん、乳がん |
| 50代〜 | 罹患率が急速に上昇し始める | 胃がん、肺がん、大腸がん |
| 65歳以上 | 罹患率が最も高くなる | すべてのがん(特に前立腺がん、肺がんなど) |
「遺伝」が関わるがん
「家族にがんが多いから、自分もがんになるのでは」と心配される方は少なくありません。確かに、がんの中には遺伝的要因が強く関わっているものが存在します。
しかし、がん全体に占める「遺伝性のがん」の割合は、約5〜10%程度とされています。がんの多くは、遺伝とは関係なく、加齢や生活習慣によって後天的に遺伝子が傷つく「散発性のがん」です。
家族歴と遺伝性のがん
遺伝性のがんとは、がんの発生を抑える働きを持つ特定の遺伝子(がん抑制遺伝子)に変異があり、それが親から子へと受け継がれることで、特定のがんになりやすい体質を持つことを指します。
代表的なものに、乳がんや卵巣がんのリスクが高まる「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」や、大腸がんや子宮体がんのリスクが高まる「リンチ症候群」などがあります。
血縁者(特に親子、兄弟姉妹)に、若くしてがんと診断された人(例:50歳未満の乳がんや大腸がん)がいる場合や、同じ家系内に特定のがん(乳がん、卵巣がん、大腸がん、膵臓がんなど)にかかった人が複数いる場合は、遺伝的な要因を考慮する必要があります。
遺伝カウンセリングの役割
遺伝的なリスクについて不安がある場合、「遺伝カウンセリング」を受けるという選択肢があります。
遺伝カウンセリングでは、専門家が家族歴(家族の病気の情報)を詳しく伺い、遺伝性のがんの可能性について評価します。
その上で、遺伝学的検査(血液検査で遺伝子の変異を調べる)を受けるかどうか、受ける場合のメリットやデメリットについて、十分な情報提供と心理的なサポートを行います。
遺伝的な要因を知ることは、ご自身やご家族にとって、より適切な予防策や早期発見(通常より早い年齢からの検診や、より頻回な検診など)を計画するきっかけとなります。
体が発するサインを見逃さない – 注意すべき初期症状 –
がんは早期の段階では自覚症状がないことが多い病気ですが、進行するにつれて何らかのサインを発することがあります。
これらの「初期症状」にいち早く気づき、医療機関を受診することが、早期発見への重要な一歩となります。見過ごしがちな体の変化に注意を向けてみましょう。
がんの「初期症状」とは
初期症状といっても、がんに特有の「これがあれば絶対にがん」という症状はありません。多くは、他の病気でも見られるような、ありふれた症状です。
しかし、「いつもと違う」「症状が長引く」「だんだん悪化する」といった場合には、注意が必要です。
全身に現れる可能性のあるサイン
特定のがんの種類に関わらず、体の全般的な状態として現れる症状があります。これらは、がん細胞が体力を消耗させたり、免疫系に影響を与えたりすることで起こると考えられています。
- 説明のつかない(ダイエットなどをしていないのに)体重減少
- 原因不明の発熱や寝汗が続く
- 何をしても改善しない、極度の倦怠感(だるさ)
- 食欲がわかない状態が続く
特定の部位に注意する症状
がんが発生した臓器やその周辺に現れる症状もあります。これらは、がんそのものが大きくなったり、周囲の組織を圧迫したりすることで生じます。
- 咳が2週間以上続く、血痰が出る(肺がんなど)
- 声がかすれる(喉頭がん、肺がんなど)
- 食べ物が飲み込みにくい、胸やけが続く(食道がん、胃がんなど)
- 腹痛が続く、お腹にしこりが触れる、便に血が混じる(胃がん、大腸がんなど)
- 排尿時の痛み、血尿、頻尿(膀胱がん、前立腺がんなど)
- 不正出血(月経時以外)やおりものの異常(子宮頸がん、子宮体がんなど)
セルフチェックの重要性
医療機関での検診だけでなく、日頃から自分の体の状態に関心を持ち、変化がないかを確認する「セルフチェック」も大切です。
特に、体の表面に近い部分の変化は、自分で気づける可能性があります。
自分で確認できる変化の例
毎日お風呂に入る時や着替える時などに、自分の体を観察する習慣をつけましょう。小さな変化でも、早期発見の手がかりになることがあります。
| 部位 | 注意すべき変化の例 | 関連するがんの可能性(例) |
|---|---|---|
| 乳房 | しこり(硬い塊)、乳首からの分泌物、皮膚のひきつれ、くぼみ | 乳がん |
| 皮膚 | ほくろの形がいびつになった、急に大きくなった、色が濃くなった、出血した | 皮膚がん(悪性黒色腫) |
| 口腔内 | 2週間以上治らない口内炎、舌や歯茎のしこり、白い斑点 | 口腔がん(舌がんなど) |
| 首(頸部) | 首の付け根や顎の下にしこり(リンパ節の腫れ)が触れる | 甲状腺がん、悪性リンパ腫など |
ただし、セルフチェックはあくまで「気づき」のきっかけです。これらの症状が全てがんというわけではありませんし、逆に症状がないからといって安心できるものでもありません。
気になることがあれば、自己判断せず、必ず専門家である医師に相談してください。
症状が出にくい「がん」が存在する事実
がんの早期発見を難しくする大きな理由の一つに、「初期症状がほとんど出ないがん」が存在するという事実があります。
これらの多くは体の深い場所にある臓器に発生するため、ある程度進行するまで自覚症状が現れにくいという特徴を持っています。
「サイレントキラー」と呼ばれるがんの種類
症状が出ないまま進行することから、「サイレントキラー(沈黙の暗殺者)」と呼ばれるがんがあります。
これらの発見が遅れやすいがんは、気づいた時にはすでに進行した「ステージ」で見つかることも少なくありません。
膵臓がん
膵臓(すいぞう)は胃の裏側にある臓器で、体の奥深くに位置しています。そのため、がんが発生しても初期症状はほとんどありません。
進行してくると、腹痛や背中の痛み、黄疸(おうだん:皮膚や白目が黄色くなる)、急激な体重減少などが現れますが、これらは他の病気と区別がつきにくい症状でもあります。発見が極めて難しいがんの代表格です。
初期の肺がん
肺には痛みを感じる神経がほとんどありません。そのため、がんが小さいうちは咳や痰などの症状も出にくく、健康診断の胸部X線検査などで偶然見つかるケースが多くあります。
咳や血痰などの症状が出た時には、すでに進行していることもあります(特に喫煙者に多い「扁平上皮がん」は症状が出やすい傾向もあります)。
肝臓がん
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、障害があっても初期段階ではほとんど症状を出しません。
肝臓がんの多くは、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染や、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などによる慢性的な肝臓の病気(慢性肝炎や肝硬変)を背景に発生します。
肝機能がかなり低下するまで症状が出にくいため、ハイリスク群(肝炎ウイルス陽性者など)の定期的な検査が重要です。
初期の腎臓がん
腎臓もまた、初期症状が出にくい臓器です。
以前は「血尿」「腹部のしこり」「痛み」が3大症状とされていましたが、これらが揃う時点ではかなり進行している場合が多く、現在では健康診断の超音波(エコー)検査などで偶然発見されることが増えています。
症状が出ないうちに見つける方法
これらの「症状が出にくいがん」を早期に発見するためには、どうすればよいのでしょうか。答えは一つです。それは、「症状がなくても定期的に『がん検診』を受けること」です。
セルフチェックや初期症状への注意は大切ですが、それだけでは早期発見が難しいがんが確実に存在します。
自分には関係ない、体調は良いから大丈夫、と過信せず、年齢やリスクに応じたがん検診を計画的に受診することが、これらの「サイレントキラー」から命を守るための最も有効な手段となります。
早期発見が「治るがん」につながる可能性
がんの治療成績は、発見された時の「進行度(ステージ)」によって大きく左右されます。がんは、早期に発見し、適切な治療を開始できれば、決して怖い病気ではありません。
早期発見が、がんを「治る病気」に変える最大の鍵となります。
がんの「ステージ」と「生存率」
がんの進行度合いを示す「ステージ」は、治療方針を決める上で最も重要な指標の一つです。
ステージは、がんの大きさ、リンパ節への転移の有無、他の臓器への遠隔転移の有無によって、主にI(早期)からIV(進行)までに分類されます。
ステージ分類の基本的な考え方
ステージ分類は、がんの種類によって細かい定義が異なりますが、一般的な考え方は共通しています。ステージが早いほど、がんは発生した臓器内にとどまっています。
- ステージ0:がん細胞が臓器の表面(粘膜内)にとどまっている状態(上皮内がん)。
- ステージI:がんが臓器の筋肉層などにとどまり、リンパ節転移がないか、あってもごくわずか。
- ステージII・III:がんが臓器の壁を越えていたり、リンパ節への転移が広がっていたりする状態。
- ステージIV:がんが最初に発生した臓器から遠く離れた別の臓器(肺、肝臓、骨など)に転移(遠隔転移)している状態。
ステージと5年相対生存率の関係
「5年相対生存率」とは、がんと診断された人が、診断から5年後に生存している割合を示す数値です(同じ性別や年齢の日本人全体と比べた場合の生存率)。これは、がん治療の成果を示す目安とされます。
多くのがんにおいて、ステージI(早期)で発見された場合の5年相対生存率は90%を超えますが、ステージIV(進行)で見つかると、その数値は大幅に低下します。
この差こそが、早期発見の重要性を物語っています。
| がんの種類(例) | ステージIの5年生存率 | ステージIVの5年生存率 |
|---|---|---|
| 胃がん | 95%以上 | 10%未満 |
| 大腸がん | 95%以上 | 20%程度 |
| 肺がん(非小細胞) | 80%以上 | 5%程度 |
| 乳がん(女性) | ほぼ100% | 40%程度 |
| ※数値はがんの種類や統計データにより異なります。あくまで目安です。 | ||
早期発見による「治療」の選択肢
早期にがんを発見するメリットは、生存率の向上だけではありません。治療の選択肢が広がり、体への負担がより少ない治療を選べる可能性が高まることも、非常に大きな利点です。
体への負担が少ない治療
ステージ0やステージIの一部のがん(胃がん、大腸がん、食道がん、早期の肺がんなど)では、お腹や胸を大きく切開する従来の手術ではなく、内視鏡(カメラ)や腹腔鏡・胸腔鏡(小さな穴を開けて器具を挿入する)を用いた手術で、がんを切除できる場合があります。
これらの治療は、傷が小さく、術後の痛みも軽度で、入院期間も短縮できます。また、臓器を温存できる(例:胃や腸を大きく切除しなくて済む)可能性も高まります。
治療後の生活の質(QOL)
体への負担が少ない治療が可能になることで、治療後も早期に日常生活や仕事に復帰できます。
また、臓器の機能(食べる、排泄するなど)が温存されることは、治療後の「生活の質(QOL: Quality of Life)」を高く維持することに直結します。
がんと診断された後の人生を、より自分らしく生きるためにも、早期発見は極めて重要です。
自分に合った「がん検診」の選び方と受診の意義
症状がない段階でがんを発見する最も有効な手段が「がん検診」です。
がん検診にはいくつかの種類があり、それぞれの特徴を理解した上で、ご自身の年齢やリスクに応じた検診を正しく選択し、定期的に受診することが大切です。
がん検診の基本的な「種類」
がん検診は、大きく「対策型検診」と「任意型検診」の2つに分けられます。
対策型検診(住民検診・職域検診)
対策型検診は、国が推奨し、市区町村や職場の健康保険組合が主体となって実施する検診です。
対象となる集団全体のがん死亡率を下げることを目的としており、科学的根拠に基づいて有効性が確認された検査方法が用いられます。
多くの場合、公的な補助により無料または安価な自己負担で受診できます。お住まいの市区町村からの案内や、職場の健康診断の案内を確認してみましょう。
任意型検診(人間ドックなど)
任意型検診は、個人が自らの希望と判断で受診する検診で、主に医療機関や検診センターが提供する「人間ドック」などがこれにあたります。
費用は全額自己負担となりますが、対策型検診ではカバーされていない検査(例:PET検査、腫瘍マーカー、脳ドックなど)を自由に組み合わせて受けることができます。
国が推奨する主な「がん検診」
現在、国が科学的根拠に基づき、対策型検診として推奨しているのは「胃がん」「肺がん」「大腸がん」「乳がん」「子宮頸がん」の5つのがん検診です。これらは対象年齢や受診間隔が定められています。
| がんの種類 | 推奨される検査方法 | 対象年齢・頻度(推奨) |
|---|---|---|
| 胃がん | 内視鏡検査(胃カメラ) または 胃部X線検査(バリウム) | 50歳以上、2年に1回(X線は年1回も可) |
| 肺がん | 胸部X線検査、喀痰細胞診(※喫煙者など) | 40歳以上、年1回 |
| 大腸がん | 便潜血検査(便に血が混じっていないか調べる) | 40歳以上、年1回 |
| 乳がん | マンモグラフィ(乳房X線検査) | 40歳以上、2年に1回 |
| 子宮頸がん | 子宮頸部細胞診 | 20歳以上、2年に1回 |
まずは、ご自身の年齢がこれらの検診の対象になっていないかを確認し、対象であれば必ず受診することが基本となります。
リスクに応じた検診の追加
公的な検診(対策型検診)は、あくまで多くの人々に共通するリスクに基づいています。
個々人のリスク(遺伝や生活習慣)に応じて、任意型検診を適切に組み合わせることが、より効果的な早期発見につながります。
遺伝的リスクが高い場合の検診
家族歴などから遺伝性のがんのリスクが高いと判断される場合、専門医と相談の上、公的検診の推奨よりも早い年齢から検診を開始したり、より精密な検査(例:乳がんリスクが高い場合のMRI検査)を定期的に受けたりすることが勧められる場合があります。
生活習慣リスク(喫煙・飲酒)と検診
例えば、長期間の喫煙歴がある方は、通常の肺がん検診(胸部X線)に加えて、低線量CTによる肺がん検診を任意型検診で受けることが、早期の肺がん発見に有効とされています。
また、日常的に飲酒量が多い方は、食道がんや肝臓がんのリスクが高いため、定期的な胃カメラ(食道の観察を含む)や腹部超音波検査を受けることが望まれます。
ご自身の生活習慣を見直し、どのようなリスクが高いかを把握した上で、かかりつけ医に必要な検診を相談してみましょう。
気になる症状があった時の適切な行動
がん検診を定期的に受けていても、あるいは検診の合間に、体に何らかの異常を感じることもあるかもしれません。
セルフチェックや日常生活の中で「いつもと違う」と感じる初期症状に気づいた時、不安を抱えたまま放置せず、速やかに医療機関を受診することが何よりも大切です。
不安を抱え込まず医療機関へ
「がんだったらどうしよう」という不安から、受診をためらってしまう気持ちは誰にでもあります。
しかし、その症状が仮にがんであった場合、受診を先延ばしにすることで、早期発見の機会を逃してしまうことになります。
また、実際にはがんではなく、他の治療可能な病気であることや、単なる一時的な不調であることも多くあります。不安を解消し、安心を得るためにも、勇気を持って医療機関の扉を叩いてください。
何科を受診すべきか
どの診療科を受診すればよいか迷う場合は、まずはご自身の健康状態をよく知る「かかりつけ医」や、内科・総合診療科に相談するのがよいでしょう。
症状を総合的に判断し、必要に応じて適切な専門科を紹介してくれます。
症状が特定の部位に明らかである場合は、下記を目安に専門科を選ぶこともできます。
| 気になる症状(例) | 受診を検討する診療科(例) |
|---|---|
| 咳が続く、血痰が出る | 呼吸器内科 |
| 胸やけ、腹痛、便に血が混じる | 消化器内科、胃腸科 |
| 乳房のしこり | 乳腺外科 |
| 不正出血、おりものの異常 | 婦人科 |
| 血尿、排尿時の痛み | 泌尿器科 |
| ほくろの変化、治らない皮膚炎 | 皮膚科 |
医師に伝えるべき情報
受診の際は、ご自身の症状を正確に伝えることが、的確な診断につながります。以下の情報を整理しておくとスムーズです。
- いつからその症状があるか(具体的な時期)
- 症状の具体的な内容(どのような痛みか、頻度はどれくらいか)
- 症状が起きたきっかけや、時間帯(食後、夜間など)
- 他に気になる症状はないか
- 現在治療中の病気や、飲んでいる薬
- 過去の大きな病気や手術の経験
- 家族(血縁者)のがんを含む病歴
- 受けている(受けた)がん検診の結果
精密検査と診断
医療機関を受診したり、がん検診を受けたりした結果、「要精密検査」と通知されることがあります。
「要精密検査」の意味
「要精密検査」という通知は、「がんの疑いがある」または「がんかどうかを、より詳しく調べる必要がある」という意味であり、「がんの確定診断」ではありません。
実際に精密検査を受けた結果、異常がなかったり、がん以外の病気(良性のポリープなど)であったりすることも少なくありません。
重要なのは、この通知を無視しないことです。「要精密検査」となった場合は、必ず指定された医療機関で精密検査を受けてください。
診断までの流れ
精密検査では、検診よりも詳細な検査(例:便潜血陽性→大腸内視鏡検査、胸部X線異常→CT検査など)を行います。
そこで異常が疑われる部位が見つかった場合、最終的な確定診断のために「生検(せいけん)」が行われることがあります。
生検とは、疑わしい組織の一部を内視鏡や針などで採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を直接確認する検査(病理診断)です。この病理診断によって、初めて「がん」であるかどうかが確定します。
よくある質問
がんのリスク要因や症状、検診に関して、多くの方が抱きやすい疑問についてお答えします。
- がんは必ず遺伝するのですか?
-
すべてのがんが遺伝するわけではありません。
がんの多く(約90〜95%)は、遺伝とは関係なく、年齢や生活習慣、環境要因によって後天的に遺伝子が傷つくことで発生する「散発性のがん」です。
ただし、がん全体の約5〜10%は、がんになりやすい遺伝的な体質が親から子へ受け継がれる「遺伝性のがん」であるとされています。
血縁者に特定のがんにかかった方が複数いる、若くして発症した方がいる、といった場合には、遺伝的要因が関わっている可能性があります。
不安な場合は、遺伝カウンセリングなどで相談することができます。
- がん検診で「異常なし」なら、絶対にがんではないですか?
-
がん検診は、対象となるがんを早期発見するために非常に有効な手段ですが、残念ながらその精度は100%ではありません。
検査方法には限界があり、非常に早期のがんや、見つけにくい種類のがん、検査対象外のがんなど、発見できない可能性はゼロではありません。
検診で「異常なし」という結果であっても、もし気になる初期症状(体重減少、長引く痛みや咳など)が続く場合は、検診の結果に安心せず、必ず医療機関を受診して医師に相談してください。
- 生活習慣に気をつけていれば、がんは予防できますか?
-
禁煙、節度ある飲酒、バランスの取れた食事、適度な運動、適正体重の維持といった健康的な生活習慣を実践することは、がんのリスクを大幅に下げることが科学的に証明されています。
これらは最も重要ながん「予防」策です。しかし、がんの発生原因は生活習慣だけでなく、遺伝、年齢、感染、環境要因など様々であり、これら全てをコントロールすることはできません。
したがって、生活習慣の改善による「予防」の努力と並行して、定期的な「がん検診」による「早期発見」の両方に取り組むことが、がんと向き合う上で最も重要な姿勢です。
- がんのステージとは何ですか?
-
ステージとは、がんの進行度を示す世界共通の分類(ものさし)です。
主に、がんの「大きさ(T)」、周囲のリンパ節への「転移(N)」、他の臓器への「遠隔転移(M)」の3つの要素(TNM分類)を組み合わせて決定します。
一般的にステージI(早期)からステージIV(進行)に分類されます。
このステージは、がんがどの程度広がっているかを客観的に示し、治療方針(手術、放射線治療、薬物療法など)を決定したり、今後の病状の見通し(生存率など)を予測したりするための重要な情報となります。
- 治療が怖いのですが、早期発見しても治療は必要ですか?
-
がんと診断された場合、基本的には何らかの治療が必要です。しかし、早期発見の最大のメリットは、体への負担が少ない治療法を選択できる可能性が高まることです。
例えば、ステージ0やごく早期のステージIの胃がんや大腸がんであれば、お腹を切る手術ではなく、内視鏡(胃カメラや大腸カメラ)でがんの部分だけを切り取る治療で完了できる場合があります。
治療に伴う痛みや不安は当然のことですが、早期であるほど、治療による体への影響を最小限に抑えつつ、完全に治すこと(根治)を目指せる可能性が高くなります。
不安な点は医師とよく相談し、納得のいく治療を選択することが大切です。
この記事では、がんのリスク要因として生活習慣の重要性に触れました。がん予防において、日々の暮らしを見直すことは、誰にでもできる積極的な取り組みです。
喫煙、飲酒、食事、運動といった具体的な習慣が、どのようにがんのリスクと関連しているのか、そして何をどのように改善すればよいのかをさらに詳しく知ることは、ご自身とご家族の健康を守る力となります。
がんのリスクを減らすための具体的な食事法や、今日から始められる運動のヒントなど、「生活習慣の改善」に焦点を当てた詳しい解説記事もご用意しています。ぜひ合わせてお読みください。
参考文献
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