日々の食事は、私たちの体を作り、健康を維持するための基盤です。一方で、その内容が、がんという病の発症リスクに深く関わっていることも、多くの科学的な研究によって明らかになってきました。
この記事では、国立がん研究センターなどの研究機関が示す科学的根拠に基づき、食生活や栄養状態が、がんの「原因」や「予防」にどう影響するのかを詳しく解説します。
特定の食品を避ける、あるいは積極的に摂るという単純な話だけではなく、食事全体の「バランス」や「習慣」がいかに重要かを理解し、今日から実践できる健康的な食生活への第一歩を踏み出すための情報を提供します。
食事が未来を変える – 食生活と発がんリスクの科学的根拠
毎日の食事が、長期的に見て私たちの健康、特にがんの発症リスクに大きな影響を与えることは、もはや疑いのない事実として広く認識されています。
世界中の研究機関が長年にわたる膨大な研究を積み重ね、特定の食習慣や栄養素が、がんの発生を促進したり、逆に抑制したりする可能性を報告しています。
ここでは、その科学的背景と、なぜ食生活がこれほどまでに重要視されるのかについて掘り下げていきます。
国立がん研究センターが示す食生活の重要性
日本の食生活とがんに関する研究を牽引する国立がん研究センターは、日本人を対象とした大規模な追跡調査を通じて、食習慣とがんリスクの関連を明らかにしてきました。
その研究成果は、「日本人のためのがん予防法」としてまとめられ、科学的根拠に基づく生活習慣の改善を提言しています。
この提言の中で、食生活は禁煙や節酒と並んで、がん予防における重要な柱の一つと位置付けられています。
食事が単なるエネルギー補給ではなく、体をがんから守るための積極的な手段となり得ることを、同センターの研究は力強く示唆しています。
日本人のデータに基づいた提言
海外の研究だけでなく、日本人の食生活や体質に基づいたデータは、私たちにとって特に重要です。
例えば、伝統的な日本食に含まれる大豆製品や魚の摂取と特定のがんリスクとの関連など、日本人ならではの知見が得られています。
これらの研究は、私たちが日々の食事を選択する上での、信頼できる道しるべとなります。
世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)による評価
がん研究の国際的な権威である国際がん研究機関(IARC)は、世界中の研究報告を収集・評価し、さまざまな要因の発がん性リスクを分類しています。
食生活に関しても、加工肉や赤身肉などが大腸がんのリスクを上げることを「確実」または「おそらく確実」と評価するなど、その影響力は絶大です。
これらの国際的な評価は、食生活とがんの因果関係がいかに科学的に確立されたものであるかを物語っています。
発がん性リスクの分類
IARCは、発がん性の証拠の強さに応じて、要因をグループ分けしています。この分類を理解することで、どの食品や食習慣に特に注意を払うべきかの判断材料になります。
| IARCの分類 | 定義 | 食に関する例 |
|---|---|---|
| グループ1 | ヒトに対して発がん性がある | アルコール飲料、加工肉 |
| グループ2A | ヒトに対しておそらく発がん性がある | 赤身肉、65℃以上の熱い飲み物 |
| グループ2B | ヒトに対して発がん性の可能性がある | 漬物(アジア伝統的なもの) |
塩分、加工肉、肥満 – がんリスクを高める食の三要素
がんのリスクを高める食事要因は数多く報告されていますが、中でも特に科学的根拠が強く、多くの研究で一貫して関連が指摘されているのが「塩分の過剰摂取」「加工肉・赤身肉の摂取」「肥満」です。
これらは私たちの食生活に深く根付いているため、意識的な見直しが予防への鍵となります。それぞれの要因が、どのよう体に影響し、がんリスクにつながるのかを具体的に見ていきましょう。
過剰な塩分摂取と胃がんリスク
塩分の過剰摂取が、胃がんの確実なリスク要因であることは、国立がん研究センターの研究をはじめ、多くの疫学研究で明らかにされています。
高濃度の塩分は、胃の粘膜を保護している粘液層を破壊し、慢性的な炎症を引き起こします。この炎症が長期間続くと、胃の細胞ががん化しやすい状態になると考えられています。
また、胃がんの主な原因とされるピロリ菌の感染がある場合、高塩分食はさらにそのリスクを高めることが指摘されています。
塩分摂取量の目標
健康維持のため、厚生労働省は食塩摂取量の目標値を定めています。日々の食事でこの目標値を意識することが、胃がん予防の第一歩です。
| 対象 | 1日の食塩摂取目標量 | 現状の平均摂取量(参考) |
|---|---|---|
| 成人男性 | 7.5g未満 | 10.9g |
| 成人女性 | 6.5g未満 | 9.3g |
出典- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」、「令和元年国民健康・栄養調査」
加工肉・赤身肉と大腸がんの関係
ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉は、IARCによってヒトに対する発がん性が認められており、特に大腸がんのリスクを高めることが確実視されています。
また、牛肉、豚肉、羊肉などの赤身肉も、大腸がんのリスクをおそらく高めると評価されています。
これらの肉に含まれるヘム鉄や、加工の過程で生成される発がん性物質が、腸の細胞を傷つけ、がん化を促進する原因と考えられています。
どのくらいなら安全か
完全に断つ必要はありませんが、摂取量を意識することが重要です。
世界がん研究基金(WCRF)は、赤身肉の摂取量を週に500g未満(調理後の重量)に抑え、加工肉はできるだけ避けることを推奨しています。
肥満が引き起こすがんリスク
肥満は、それ自体が一種の病態であり、多くのがんの確立されたリスク要因です。特に、食道がん、大腸がん、閉経後の乳がん、肝臓がん、膵臓がんなど、10種類以上のがんとの関連が報告されています。
肥満状態では、体内で慢性的な炎症が続いたり、インスリンや女性ホルモンなどの濃度が異常になったりします。これらの状態が、がん細胞の増殖を促す原因となります。
適正体重を維持することは、食事の内容を考えることと同様に、がん予防において極めて重要です。
野菜と果物の力 – 発がんリスクを遠ざける食事の知恵
がんのリスクを高める食事要因がある一方で、そのリスクを低減させる可能性を持つ食品もあります。その代表格が、色とりどりの野菜と果物です。
これらに豊富に含まれるビタミン、ミネラル、食物繊維、そしてファイトケミカルと呼ばれる植物由来の化合物が、複合的に作用して私たちの体をがんから守る働きをします。
ここでは、野菜と果物が持つ予防効果の源泉と、効果的な摂り方について解説します。
食物繊維の重要な役割
食物繊維は、かつては栄養にならないものと考えられていましたが、現在ではその重要性が広く認識されています。特に大腸がんの予防において、食物繊維は重要な役割を果たします。
便の量を増やして発がん物質の濃度を薄め、腸内に留まる時間を短くすることで、腸壁が有害物質にさらされるのを防ぎます。
さらに、腸内細菌によって分解されると、酪酸などの短鎖脂肪酸を生成し、これが腸内環境を整え、がん細胞の増殖を抑制する働きがあることも分かってきました。
食物繊維が豊富な食品
| 食品カテゴリー | 代表的な食品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 穀類 | 玄米、大麦、全粒粉パン | 主食から効率的に摂取可能 |
| 豆類 | 納豆、ごぼう、おから | 水溶性・不溶性両方を含む |
| 野菜・きのこ類 | ブロッコリー、きのこ、海藻 | カサが多く満足感を得やすい |
がん予防に貢献するビタミンとファイトケミカル
野菜や果物には、ビタミンA、C、Eといった抗酸化ビタミンが豊富に含まれています。これらは、細胞を傷つけがんの原因となる活性酸素を除去する働きがあります。
さらに近年注目されているのが、ファイトケミカルです。これは植物が紫外線や害虫から自らを守るために作り出す色素や香り、辛味などの成分で、ポリフェノールやカロテノイドなどが知られています。
これらの物質が持つ強力な抗酸化作用や、がん細胞の増殖を抑える働きが、がん予防につながると期待されています。
- ポリフェノール類(アントシアニン、イソフラボンなど)
- カロテノイド類(β-カロテン、リコピンなど)
- 含硫化合物(イソチオシアネートなど)
毎日の食事にどう取り入れるか
がん予防のためには、1日に野菜を350g以上、果物を200g程度(可食部)摂取することが目標とされています。これは、量だけでなく「多様性」も重要です。
特定の色や種類の野菜・果物に偏るのではなく、赤、黄、緑、紫など、できるだけ多くの色のものをバランス良く組み合わせることで、さまざまな種類のファイトケミカルを摂取できます。
「食事の皿を虹色にする」ことを意識すると、自然とがん予防につながる食習慣が身につきます。
【実践】野菜・果物の「カラーガイド」
「虹色」を意識すると言っても、具体的に何を選べば良いのでしょうか。植物が持つ色素成分(ファイトケミカル)を色別に知っておくと、食材選びが楽しくなります。
🔴 赤(リコピン、カプサイシンなど): トマト、スイカ、唐辛子
強い抗酸化作用があり、細胞を守ります。
🟢 緑(クロロフィル、スルフォラファンなど): ブロッコリー、ほうれん草、小松菜
解毒作用や抗酸化作用が期待されます。
🟠 黄・橙(β-カロテン、ルテインなど): 人参、かぼちゃ、みかん
体内でビタミンAに変わり、粘膜の健康を保ちます。
🟣 紫(アントシアニン): ナス、ぶどう、ブルーベリー
目の健康や、血管の保護に役立ちます。
⚪ 白(硫化アリル、イソチオシアネート): にんにく、玉ねぎ、大根、キャベツ
殺菌作用や、免疫力を高める働きがあります。
🟤 黒・茶(クロロゲン酸、食物繊維): ごぼう、きのこ類、海藻
腸内環境を整え、糖質の吸収を穏やかにします。
大腸がん・食道がん – 特に食生活との関連が深い癌
全てのがんが食生活と等しく関連しているわけではありません。
中でも、食べ物が直接通過する消化管のがんである、大腸がん、食道がん、そして胃がんは、日々の食事内容の影響を特に強く受けることが知られています。
これらの部位では、摂取した食物に含まれる成分が直接細胞に作用するため、食事が発がんの引き金にも、予防の盾にもなり得るのです。
ここでは、特に大腸がんと食道がんに焦点を当て、そのリスクを高める食習慣について詳しく見ていきます。
大腸がんと食生活の習慣
大腸がんの罹患率は、日本において食生活の欧米化とともに増加してきました。この背景には、赤身肉や加工肉の摂取量増加、そして食物繊維の摂取量減少が大きく関わっています。
前述の通り、肉類に含まれるヘム鉄や発がん性物質が腸の粘膜を刺激する一方で、予防的に働くはずの食物繊維が不足することで、腸内環境が悪化し、がんが発生しやすい状態になります。
肥満や過度の飲酒も、大腸がんの確立されたリスク要因です。
大腸がんリスクのチェックリスト
| リスクを高める習慣 | リスクを低減する習慣 |
|---|---|
| 加工肉・赤身肉を頻繁に食べる | 食物繊維(野菜、果物、全粒穀物)を十分に摂る |
| 肥満気味である | 定期的に運動する |
| アルコールを多量に飲む | カルシウムを適度に摂取する |
食道がんと熱い飲食物
食道がんは、熱い飲食物の摂取が確実なリスク要因として知られています。65℃以上の非常に熱い飲み物や食べ物を習慣的に摂取すると、食道の粘膜が繰り返し熱による損傷(やけど)を受けます。
この損傷と再生が繰り返される過程で、細胞の遺伝子に異常が生じ、がん化につながると考えられています。熱いお茶やスープなどを好む習慣がある場合は、少し冷ましてから口にする注意が必要です。
胃がんと塩分、そしてピロリ菌
胃がんについては、塩分の過剰摂取が長年リスク要因として指摘されてきました。高塩分食が胃の粘膜を荒らし、慢性的な炎症を引き起こすことが主な原因です。
この食生活のリスクに、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が加わると、胃がんのリスクはさらに跳ね上がります。食生活の改善と、必要に応じたピロリ菌の検査・除菌が、胃がん予防の両輪となります。
なぜ「食べ物」が重要なのか – 体内で起こる変化を理解する
私たちが口にした食べ物は、消化・吸収され、体のエネルギー源や構成要素になるだけではありません。食品に含まれる様々な成分は、細胞レベルで私たちの体に働きかけ、がんの発生や進行に影響を及ぼします。
食べ物がどのようにして体内でがんのリスクに関わるのか、その背後にある体の変化を理解することで、日々の食事選択の重要性がより深く実感できるはずです。
細胞のDNAを傷つける発がん物質
一部の食品には、それ自体に発がん性を持つ物質や、体内で代謝される過程で発がん性を持つ物質に変化するものがあります。
例えば、焦げた肉や魚に含まれるヘテロサイクリックアミン類や、カビの生えたナッツ類に含まれるアフラトキシンなどが知られています。
これらの物質は、細胞の設計図であるDNAを直接傷つけ、遺伝子に変異を引き起こします。この変異が蓄積することが、がん細胞が生まれる最初のきっかけとなります。
慢性的な炎症とがんの関連
体の一部で長期間にわたってじわじわと続く「慢性炎症」は、がんの温床となることが知られています。前述の通り、高塩分食による胃の粘膜の炎症や、肥満に伴う全身性の炎症などがその例です。
炎症が起きている場所では、細胞の増殖が活発になり、その過程でDNAの複製エラーが起こりやすくなります。また、炎症によって発生する活性酸素もDNAを傷つけ、がん化を促進します。
野菜や果物に含まれる抗酸化物質は、この活性酸素によるダメージを軽減する上で役立ちます。
炎症を促進する食事と抑制する食事
| 項目 | 炎症を促進しやすい食事 | 炎症を抑制しやすい食事 |
|---|---|---|
| 特徴 | 高脂肪、高糖質、加工食品が多い | 野菜、果物、魚、全粒穀物が多い |
| 代表的な栄養素 | 飽和脂肪酸、トランス脂肪酸 | オメガ3脂肪酸、ポリフェノール |
腸内環境のバランスと免疫力
私たちの腸内には、数百兆個もの細菌が生息し、「腸内フローラ」と呼ばれる生態系を形成しています。この腸内細菌のバランスは、私たちの健康、特に免疫機能と深く関わっています。
食物繊維など、善玉菌のエサとなる食品を十分に摂取すると、腸内環境は良好に保たれ、免疫細胞が正常に機能します。
一方、偏った食事によって腸内環境が悪化すると、免疫力が低下し、がん細胞を監視・排除する働きが弱まる可能性があります。腸内環境を整えることは、間接的にがんの予防につながる重要な習慣です。
予防のための食習慣 – バランスの取れた食事とは何か
がん予防を考えるとき、特定の「スーパーフード」に頼るのではなく、日々の食事全体の「バランス」を整えるという視点が何よりも重要です。
バランスの取れた食事とは、体を正常に機能させ、健康を維持するために必要な栄養素を、さまざまな食品から過不足なく摂取することです。
これは、がんだけでなく、多くの生活習慣病の予防にも共通する基本原則です。ここでは、実践的なバランスの良い食事の考え方を紹介します。
「主食・主菜・副菜」をそろえる基本形
日本の伝統的な食事スタイルである「一汁三菜」は、栄養バランスを考える上で非常に優れたモデルです。食事の基本として、「主食」「主菜」「副菜」をそろえることを意識してみましょう。
- 主食- ごはん、パン、麺類など。主にエネルギー源となる炭水化物を供給します。
- 主菜- 肉、魚、卵、大豆製品など。体を作るたんぱく質の主な供給源です。
- 副菜- 野菜、きのこ、海藻など。体の調子を整えるビタミン、ミネラル、食物繊維を供給します。
毎食この3つをそろえることを目指すだけで、自然と栄養バランスは整いやすくなります。
多様な食品を摂る重要性
同じ食品ばかりを食べていると、摂取できる栄養素が偏ってしまいます。健康に良いとされる食品であっても、それだけを過剰に摂取することは推奨されません。
できるだけ多くの品目の食品を食べることで、様々な栄養素を網羅的に摂取でき、未知の有用な成分を取り入れるチャンスも増えます。
また、万が一食品に有害物質が含まれていたとしても、摂取量が分散されリスクを低減できます。
一日で摂りたい食品群の例
毎日全ての食品群を摂ることを目標に、食事のメニューを組み立ててみましょう。
| 食品群 | 主な栄養素 | 食品例 |
|---|---|---|
| 穀類 | 炭水化物 | ごはん、パン、麺類 |
| 魚・肉・卵・大豆製品 | たんぱく質、脂質 | 魚、鶏肉、豆腐、納豆 |
| 野菜・きのこ・いも・海藻 | ビタミン、ミネラル、食物繊維 | 緑黄色野菜、淡色野菜、きのこ類 |
| 果物 | ビタミンC、カリウム | りんご、みかん、バナナ |
| 牛乳・乳製品 | カルシウム、たんぱく質 | 牛乳、ヨーグルト、チーズ |
減塩でも美味しく食べる工夫
胃がん予防に重要な減塩は、工夫次第で無理なく実践できます。だし(昆布、かつお節、しいたけなど)の旨味をしっかり効かせると、薄味でも満足感が得られます。
また、香辛料(こしょう、カレー粉など)、香味野菜(しょうが、にんにく、しそなど)、酸味(酢、レモン汁など)を上手に使うことで、風味豊かに仕上がり、塩分を控えることができます。
加工食品や外食は塩分が多くなりがちなので、栄養成分表示を確認する習慣も大切です。
「これを食べれば大丈夫」は存在しない – 健康情報に惑わされないために
テレビやインターネットでは、「〇〇ががんに効く」「このサプリメントでがんが消える」といった魅力的な情報が溢れています。
しかし、残念ながら、たった一つの食品や成分だけでがんを完全に予防したり治療したりできる、という魔法のような方法は存在しません。
こうした単純化された情報に振り回されると、かえって健康を損なうことにもなりかねません。ここでは、氾濫する健康情報と賢く付き合うための心構えについて解説します。
単一の食品や成分に頼る危険性
特定の食品が持つ健康効果が研究で報告されると、そればかりを過剰に摂取しようとする人がいます。しかし、このような行動は栄養バランスの偏りを招きます。
例えば、野菜が体に良いからといって、肉や魚を全く食べなくなれば、たんぱく質や特定のビタミン・ミネラルが不足する可能性があります。
がん予防は、多くの栄養素が協力し合って初めて効果を発揮する「チームプレー」です。たった一人のスター選手に頼るのではなく、食事全体のバランスを考えることが重要です。
科学的根拠のレベルを見極める
健康に関する情報には、さまざまなレベルの科学的根拠があります。個人の体験談や、動物実験・細胞実験の段階の研究は、あくまで可能性を示唆するものであり、すぐにヒトに当てはまるわけではありません。
信頼性が高いのは、多くの人々を対象とした長期間の観察研究(疫学研究)や、複数の研究結果を統合して分析したものです。
情報に接した際には、「誰が」「どのような根拠に基づいて」発信しているのかを確認する冷静な視点を持つことが大切です。
情報の信頼性を判断するポイント
| 信頼性が高い情報源 | 注意が必要な情報源 |
|---|---|
| 公的機関(国立がん研究センター、厚生労働省など) | 個人のブログやSNS |
| 大学や研究機関の発表 | 特定の商品の販売を目的としたサイト |
| 複数の専門家が監修した情報 | 極端な効果をうたう広告 |
サプリメントとの付き合い方
食事で不足しがちな栄養素を補う目的でサプリメントを利用すること自体は、一概に悪いことではありません。
しかし、がん予防を目的とした特定のビタミンやミネラルのサプリメントの大量摂取が、逆に一部のがんのリスクを高める可能性を示唆する研究報告もあります。
栄養素は、基本的に食事から自然な形で摂取するのが最も安全で効果的です。サプリメントの利用を考える場合は、まず主治医や管理栄養士に相談し、自己判断での過剰摂取は避けるべきです。
今日の一食が未来をつくる – 食生活改善で始める健康習慣
ここまで、食生活とがんリスクに関する様々な科学的情報を見てきました。知識を得ることは重要ですが、最も大切なのは、それを日々の生活に取り入れ、行動に移すことです。
難しく考えすぎる必要はありません。完璧を目指すのではなく、まずは自分のできるところから一つずつ、食生活を見直していくことが、未来の健康へとつながる確かな一歩となります。
ここでは、今日から始められる食生活改善のヒントをご紹介します。
小さな変化から始める
いきなり食生活を根本から変えようとすると、ストレスを感じて長続きしません。まずは、無理なく続けられる小さな目標を設定しましょう。
例えば、「毎食、野菜をもう一品増やす」「味噌汁の塩分を少し減らす」「週に一度は魚を食べる日を作る」など、具体的な行動目標を立てることが成功のコツです。
一つでも達成できれば、それが自信となり、次のステップに進む意欲が湧いてきます。
- いつもの白米に雑穀を混ぜてみる
- おやつのスナック菓子を果物に変える
- 加工肉の代わりに鶏むね肉や豆腐を選ぶ
継続的な習慣化のコツ
健康的な食生活は、一時的なイベントではなく、生涯にわたる「習慣」です。習慣化するためには、楽しみながら取り組むことが大切です。
新しい野菜のレシピに挑戦してみたり、旬の食材を使って季節感を味わったりするのも良いでしょう。また、自分の食生活を記録してみるのも有効です。
何を食べたかを書き出すことで、自分の食生活のパターンや改善点が見えやすくなります。完璧でなくても、7割程度できていれば良しとするくらいの気持ちで、気長に続けることを目指しましょう。
専門家への相談も選択肢に
がんの治療中の方や、持病がある方など、食事に関して特別な配慮が必要な場合もあります。また、自分一人で食生活を改善するのが難しいと感じることもあるでしょう。
そのような時は、遠慮なく医師や管理栄養士などの専門家に相談してください。専門家は、あなたの体の状態やライフスタイルに合わせた、より具体的でパーソナライズされたアドバイスを提供してくれます。
正しい知識を持つ専門家のサポートは、あなたの健康習慣づくりを力強く後押ししてくれるはずです。
よくある質問
ここでは、食生活とがんに関して、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式でお答えします。
- オーガニック(有機栽培)の野菜は、普通のものよりがん予防効果が高いのでしょうか?
-
現時点では、オーガニック食品を摂取することが、通常の方法で栽培された食品を摂取する場合と比べて、がん予防においてより効果的であるということを示す、十分な科学的根拠はありません。
がん予防の観点からは、オーガニックかどうかにこだわるよりも、まず野菜や果物そのものの摂取量を十分に確保することの方が重要です。
- お酒は「百薬の長」と聞きますが、がんとの関係はどうですか?
-
アルコール飲料の摂取は、口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸・女性の乳がんなど、多くのがんのリスクを高めることが確実視されています。
「百薬の長」という言葉は、あくまで適量であれば、という前提ですが、がんリスクに関しては「適量」という基準はなく、飲む量が増えるほどリスクは直線的に高まります。
飲まないに越したことはなく、飲む場合でも節度ある量を守ることが大切です。
- がんの家系なのですが、食事に気をつければ予防できますか?
-
がんの中には遺伝的な要因が強く関わるものもありますが、遺伝は数あるリスク要因の一つに過ぎません。多くのがんは、遺伝要因よりも生活習慣の要因が大きく影響すると考えられています。
たとえ家族にがんになった方がいても、禁煙、節酒、バランスの取れた食事、適度な運動、適正体重の維持といった健康的な生活習慣を実践することで、がんのリスクを大幅に下げることが可能です。
遺伝的なリスクがあるからこそ、予防的な生活習慣がより重要になると言えます。
- コーヒーや緑茶はがん予防に良いと聞きましたが、本当ですか?
-
コーヒーや緑茶に含まれるポリフェノールなどの成分が、がんを予防する可能性について多くの研究が行われています。
いくつかの研究では、肝臓がんや子宮体がんなど、特定のがんのリスクを低下させる可能性が示唆されています。
しかし、まだ結果が一貫していない部分もあり、科学的根拠としては「可能性」の段階です。
砂糖やミルクを入れずに楽しむ分には健康上の問題は少ないと考えられますが、これらをがん予防の主役として頼るのではなく、あくまでバランスの取れた食事の一部として楽しむのが良いでしょう。
食生活の見直しとともに、がん予防のもう一つの重要な柱となるのが「身体活動」です。
実は、運動不足もまた、大腸がんや乳がんなど、複数のがんのリスクを高めることが科学的に証明されています。
座りっぱなしの時間が長い現代の生活において、意識的に体を動かすことは、食事改善と同じくらい未来の健康を守るための大切な投資です。
なぜ運動ががん予防につながるのか、そして日常生活の中で無理なく運動を取り入れる具体的な方法について、「身体活動・運動不足によるがんリスク」の記事で詳しく解説しています。
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