がんは日本人の死因第一位であり、誰もがそのリスクを抱えています。しかし、そのリスクは性別によって大きく異なることをご存知でしょうか。
男性と女性では、体のつくりやホルモンの働き、さらには生活習慣にも差があるため、かかりやすいがんの種類やその原因が異なります。
この記事では、科学的な統計データに基づき、男女それぞれの特有のがんリスク要因を詳しく解説します。
ご自身の性別に合わせた正しい知識を身につけ、効果的な予防と早期発見につなげることが、健康を守る上で非常に重要です。
なぜ男性と女性でかかりやすいがんが違うのか
男性と女性では、がんの罹患率(りかんりつ – 新たにがんと診断される人の割合)が高い部位に明確な差が見られます。
これは単なる偶然ではなく、生物学的な体の構造の違いや、生涯を通じて影響を受けるホルモンの種類と量の違いが根本的な原因として存在します。
また、社会的な背景からくる生活習慣の男女差も、特定のがんリスクに影響を与える要因として無視できません。
生物学的な構造の差
最も分かりやすい違いは、生殖器に関連するがんです。男性には前立腺が、女性には乳房、子宮、卵巣があるため、それぞれ前立腺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がんといった性別特有のがんが存在します。
これらの臓器は、それぞれの性ホルモンの影響を強く受けるため、リスク要因も性別に大きく依存します。
ホルモン環境の違い
性ホルモンは、生殖機能だけでなく、全身の細胞の増殖や活動にも関わっています。例えば、女性ホルモンであるエストロゲンは、乳腺や子宮内膜の細胞増殖を促す働きがあります。
この働きが、長期間にわたって過剰になったりバランスが崩れたりすると、乳がんや子宮体がんのリスクを高める可能性があります。
一方で、男性ホルモンであるアンドロゲンは、前立腺の細胞増殖に関与しており、前立腺がんの発生や進行に深く関わっています。
男女のがん罹患数上位の比較
| 順位 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 1位 | 前立腺がん | 乳がん |
| 2位 | 大腸がん | 大腸がん |
| 3位 | 胃がん | 肺がん |
この統計データからも分かるように、男女でかかりやすいがんの種類には明確な差があります。
大腸がんのように男女ともに上位に入るがんもありますが、性別特有のがんがそれぞれのリスクを大きく左右していることが見て取れます。
男性特有のリスク – 前立腺がんと生活習慣の深い関係
前立腺がんは、男性のがん罹患数で最も多いがんです。特に高齢になるほどそのリスクは高まります。
前立腺がんの発生には、年齢や人種、家族歴といった避けられない要因もありますが、食生活をはじめとする生活習慣が深く関わっていることが分かってきました。
年齢と前立腺がんリスク
前立腺がんの最大のリスク要因は加齢です。50歳を過ぎるとリスクが上昇し始め、高齢になるほど罹患率は高くなります。
これは、長年にわたる男性ホルモンの影響や、細胞の遺伝子に傷が蓄積することが原因と考えられています。早期の段階では自覚症状がほとんどないため、定期的な検診が重要です。
食生活の影響
欧米型の食生活、特に動物性脂肪の多い食事は、前立腺がんのリスクを高める可能性が指摘されています。
一方で、野菜や果物、特に大豆製品に含まれるイソフラボンや、トマトに含まれるリコピンなどは、リスクを低減する効果が期待されています。
前立腺がんのリスクと関連する生活習慣
| リスクを高める可能性 | リスクを下げる可能性 |
|---|---|
| 動物性脂肪の過剰摂取 | 大豆製品の摂取 |
| 肥満 | 緑黄色野菜の摂取 |
| 運動不足 | 適度な運動 |
喫煙と飲酒の関連性
喫煙が直接的に前立腺がんのリスクを高めるという明確な証拠はまだ限定的ですが、進行した前立腺がんや、死亡リスクを高める可能性が示唆されています。
また、過度な飲酒も健康全般に悪影響を及ぼすため、節度ある量を守ることが大切です。男性は女性に比べて喫煙率や飲酒量が多い傾向にあるため、生活習慣全体を見直すことががん予防につながります。
女性ホルモンが影響する – 乳がんと子宮がんのリスク要因
女性のがんの中で最も罹患数が多い乳がんと、子宮頸がん、子宮体がんは、女性ホルモンであるエストロゲンの影響と深く関わっています。
エストロゲンにさらされる期間が長くなるほど、これらの疾患のリスクが高まる傾向があります。ライフスタイルの変化も、リスクに影響を与える重要な要素です。
乳がんリスクとエストロゲン
エストロゲンは乳腺の発達を促すホルモンですが、その刺激に長期間さらされることが乳がんのリスクを高めます。
具体的には、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、初産年齢が遅い、授乳経験がない、といった要因がリスク上昇につながります。
乳がんリスクに影響する要因
- 初経年齢が早い
- 閉経年齢が遅い
- 出産・授乳経験の有無
- 閉経後の肥満
- 飲酒習慣
また、閉経後の肥満も注意が必要です。閉経後は、卵巣からのエストロゲン分泌は止まりますが、脂肪組織で男性ホルモンからエストロゲンが作られます。
そのため、閉経後に太るとエストロゲンの濃度が高まり、乳がんのリスクが上昇します。
子宮頸がんと子宮体がんの差
同じ子宮のがんでも、子宮の入り口にできる「子宮頸がん」と、奥の体部にできる「子宮体がん」では、原因が全く異なります。
子宮頸がんと子宮体がんの主な違い
| 項目 | 子宮頸がん | 子宮体がん |
|---|---|---|
| 主な原因 | ヒトパピローマウイルス(HPV)感染 | エストロゲンの長期的な刺激 |
| 好発年齢 | 20代から40代 | 50代から60代(閉経前後) |
| 予防法 | HPVワクチン、検診 | 生活習慣の改善、検診 |
子宮頸がんは、主に性交渉によるHPVの感染が原因であり、若い世代でも発症します。HPVワクチンと定期的な検診による予防と早期発見が非常に重要です。
一方、子宮体がんは乳がんと同様にエストロゲンの影響が大きく、出産経験がない方や肥満、糖尿病などがリスク要因となります。
乳がんは女性だけの病気と思われがちですが、実は男性にも乳腺組織があるため、稀に乳がんを発症することがあります(乳がん全体の約1%と言われています)。
【注意が必要なケース】
特に、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の家系の方(BRCA遺伝子に変異がある場合)や、肝機能障害などでホルモンバランスが変化している方はリスクが高まることが知られています。
【チェックポイント】
男性は乳房の脂肪が少ないため、しこりを自分で発見しやすい傾向があります。「男性だから関係ない」と思い込まず、もし胸にしこりや違和感を感じた際は、ためらわずに乳腺外科を受診しましょう。
同じがんでも性別で差 – 肺がん・大腸がんの男女差とは
肺がんや大腸がんのように、男女ともに罹患数が多いがんにおいても、その原因やリスクの現れ方に性別による差が見られます。
特に、喫煙という最大の危険因子に対する影響の受けやすさや、ホルモンの関与が男女差を生む一因と考えられています。
肺がんにおける男女差
肺がんの最大の原因は喫煙であり、歴史的に喫煙率が高かった男性の罹患率が女性を上回っています。しかし、近年、喫煙しない女性の肺がん(特に腺がん)が増加傾向にあり、注目されています。
肺がんの主な種類と男女差
| 肺がんの種類 | 特徴 | 性別との関連 |
|---|---|---|
| 扁平上皮がん | 太い気管支に発生しやすい | 喫煙との関連が強く、男性に多い |
| 腺がん | 肺の末梢部に発生しやすい | 非喫煙者にも発生し、女性に多い |
女性ホルモンが腺がんの発生に関与している可能性や、受動喫煙、調理中の油煙への曝露などが、非喫煙女性の肺がんリスクとして研究されています。同じ肺がんであっても、性別によって発生しやすい種類が異なるのです。
大腸がんにおける男女差
大腸がんは、食生活の欧米化が主な原因とされ、男女ともに罹患数・死亡数が多いがんです。しかし、統計を見ると、男性の方が女性よりも罹患率・死亡率ともに高い傾向にあります。
この差には、飲酒や喫煙、肥満といった生活習慣の違いが大きく影響していると考えられます。特に、過度な飲酒と赤肉・加工肉の摂取は、男性の大腸がんリスクをより高めることが知られています。
生物学的な違い – 遺伝子とホルモンが体に与える影響
私たちの体は性染色体(男性はXY、女性はXX)によって生物学的な性が決まり、これが生涯にわたるホルモン環境や体の基本的な機能に差をもたらします。
この生物学的な基盤の違いが、がんの発生や進行の仕方に性差をもたらす根本的な理由の一つです。
性染色体とがんリスク
X染色体やY染色体上にある遺伝子の中には、がんの発生を抑制したり、逆に促進したりするものがあることが分かってきました。
例えば、女性が2本持つX染色体の一方は不活性化される仕組みがありますが、一部の遺伝子はその不活性化を免れて働くため、男女で遺伝子の働きに差が生まれます。
こうした遺伝子レベルでの違いが、がんのなりやすさや性質に影響を与える可能性が研究されています。
免疫応答の男女差
一般的に、女性は男性に比べて免疫応答が強いとされています。これは、感染症から身を守る上では有利に働きますが、一方で自己免疫疾患にかかりやすい原因ともなります。
この免疫系の働きの差が、がん細胞を排除する能力や、がん治療の効果にも影響を与える可能性が指摘されており、性差を考慮した治療法の開発が進められています。
ホルモンと細胞増殖の関連
| 性ホルモン | 主な作用 | 関連するがん |
|---|---|---|
| エストロゲン(女性) | 乳腺、子宮内膜の細胞増殖を促進 | 乳がん、子宮体がん |
| アンドロゲン(男性) | 前立腺の細胞増殖を促進 | 前立腺がん |
行動様式の違いが導くリスク – 喫煙・飲酒・食生活の男女差
生物学的な要因だけでなく、社会文化的背景によって形成される生活習慣、つまり「行動様式」の男女差も、がんリスクに大きく影響します。
喫煙率、飲酒の量と頻度、食事内容の好みなどの違いが、長年にわたって蓄積し、がんの罹患率の差として現れます。
喫煙率の男女差とその影響
日本では依然として男性の喫煙率が女性よりも高く、これが肺がんをはじめ、喉頭がん、食道がん、膀胱がんなど多くのがんの罹患率に差を生む最大の要因となっています。
タバコの煙には多くの発がん性物質が含まれており、喫煙者本人だけでなく、周囲の人の受動喫煙も肺がんのリスクを高めます。
喫煙に関連するがんの男女罹患率比較(人口10万対)
| がんの種類 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 肺がん | 高い | 低い |
| 食道がん | 非常に高い | 低い |
飲酒習慣とがんリスク
アルコールの摂取は、肝臓がん、大腸がん、食道がん、そして女性の乳がんなどのリスクを高めます。特に、少量の飲酒でも乳がんのリスクを高めることが分かっています。
男性は女性に比べて飲酒量が多くなる傾向があるため、アルコールに関連するがんのリスクも高くなります。
アルコール分解能力の男女差
女性は男性に比べて体内の水分量が少なく、アルコールを分解する酵素の働きも弱い傾向があります。
そのため、同じ量のアルコールを摂取しても血中濃度が高くなりやすく、臓器へのダメージを受けやすいと言えます。この差を理解し、女性はより一層、飲酒量に注意を払う必要があります。
性別を意識した検診の重要性 – 自分に必要な検査を知る
がんによる死亡を減らすためには、予防とともに、がんを早期に発見し、治療を開始することが極めて重要です。がん検診は、そのための最も有効な手段の一つです。
性別によってかかりやすいがんが異なるため、受けるべき検診の種類も異なります。自分の性別と年齢に応じた検診を正しく理解し、定期的に受診する習慣をつけましょう。
男性が受けるべきがん検診
男性は、胃がん、肺がん、大腸がんの検診に加え、50歳を過ぎたら前立腺がん検診(PSA検査)を受けることを検討しましょう。
PSA検査は血液検査で簡単に行うことができ、前立腺がんの早期発見に非常に有効です。
女性が受けるべきがん検診
女性は、胃がん、肺がん、大腸がんの検診に加えて、20歳を過ぎたら子宮頸がん検診、40歳を過ぎたら乳がん検診(マンモグラフィ)を定期的に受けることが推奨されています。
特にこの二つのがんは、検診による早期発見で、より体に負担の少ない治療が可能になります。
推奨されるがん検診の概要
| 対象のがん | 推奨される対象者 | 主な検査方法 |
|---|---|---|
| 乳がん | 40歳以上の女性 | マンモグラフィ |
| 子宮頸がん | 20歳以上の女性 | 細胞診 |
| 前立腺がん | 50歳以上の男性 | PSA検査(血液検査) |
自治体や職場が実施する検診の機会を積極的に活用し、もし対象年齢になったら、忘れずに受診することが大切です。
あなたの性別に合わせたがん予防と対策 – 今日からできること
がんの原因は様々ですが、生活習慣の改善によって、そのリスクを下げることが可能です。性別によるリスクの違いを理解した上で、自分に合った予防策を日々の生活に取り入れていきましょう。
がん予防は特別なことではなく、健康的な生活を送ることそのものです。
共通する予防法
性別に関わらず、全ての人に共通する重要ながん予防法があります。これらは、がんだけでなく、様々な生活習慣病の予防にもつながります。
- 禁煙し、受動喫煙を避ける
- 節度ある飲酒を心がける
- バランスの取れた食事を摂る
- 適度な運動を習慣にする
- 適正な体重を維持する
男性向けの追加対策
特に男性は、前立腺がんや大腸がんのリスクを意識した食生活が重要です。動物性脂肪を控えめにし、野菜や果物を積極的に食事に取り入れましょう。
特に、トマトや大豆製品は、前立腺がんの予防に良い影響を与える可能性が期待されています。
女性向けの追加対策
女性は、乳がんや子宮体がんのリスクを念頭に、特に閉経後の体重管理が重要になります。適度な運動を継続し、肥満を防ぐことが、ホルモンバランスを整え、がんリスクの低減につながります。
また、子宮頸がん予防のためのHPVワクチン接種も、若い世代にとっては重要な選択肢です。
よくある質問
- 父が前立腺がんでした。私のリスクは高まりますか?
-
はい、ご家族、特に父親や兄弟に前立腺がんの既往歴がある場合、ご自身の発症リスクは通常よりも高くなることが知られています。
これは遺伝的な要因が関与している可能性があるためです。
リスクが高い方は、一般的な推奨年齢よりも少し早めに、例えば40代から専門医に相談し、PSA検査などの検診を開始することを検討するのが良いでしょう。
- ピルを服用すると乳がんのリスクは上がりますか?
-
低用量ピルの服用は、乳がんのリスクをわずかに上昇させる可能性があると報告されています。
しかし、そのリスク上昇は大きくなく、服用を中止すれば時間とともにもとに戻ると考えられています。
一方で、ピルは卵巣がんや子宮体がんのリスクを大幅に低下させるというメリットもあります。
服用にあたっては、利益と不利益を総合的に判断する必要があるため、必ず医師とよく相談してください。
- HPVに感染したら必ず子宮頸がんになりますか?
-
いいえ、そんなことはありません。HPVは非常にありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性の多くが一生に一度は感染すると言われています。
しかし、感染した人の90%以上は、自身の免疫力によってウイルスが自然に排除されます。
ウイルスが排除されずに長期間感染が続いたごく一部のケースで、子宮頸がんへと進行する可能性があります。
そのため、ウイルス感染を早期に発見し、がんへの進行を監視する子宮頸がん検診が非常に重要になるのです。
がんのリスクは、性別だけでなく、人種や民族的背景によっても異なる傾向が見られます。
体の遺伝的な特性や、地域特有の食文化、生活環境などが複雑に絡み合い、特定のがんの罹患率に差を生み出しています。
例えば、胃がんは東アジアで多く、皮膚がんは白色人種に多いといった特徴があります。
ご自身のルーツががんリスクにどのように影響する可能性があるのかを知ることは、より個別化された予防策を考える上で役立ちます。
詳しくは「人種・民族的背景|がんの原因とリスク要因」の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
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