標準治療を受けながら免疫療法を検討する際、最も重要なのは「治療の空白期間を作らないこと」と「免疫細胞が活性化できる身体環境の維持」です。
抗がん剤や放射線治療は強力な効果を持つ反面、一時的に免疫機能を低下させる副作用を伴います。がんワクチンがその真価を発揮するには、ご自身の免疫細胞が正常に働くタイミングを見極め、副作用の波と重ならないようにスケジュールを調整する必要があります。
この記事では、標準治療との安全な併用を実現するために、具体的な投与タイミングや副作用への対処法を包括的に解説します。
抗がん剤治療のスケジュールと骨髄抑制への対策
抗がん剤治療中のワクチン投与は、骨髄抑制からの回復期である休薬期間後半に行うのが鉄則です。
抗がん剤は活発に分裂する細胞を攻撃するため、がん細胞だけでなく正常な白血球などの免疫細胞も一時的に減少させます。免疫細胞が減少している時期にワクチンを投与しても、体が十分に反応できず、期待する効果を得ることが難しくなります。
自身の血液データを把握し、白血球数が回復に向かうタイミングを見計らってワクチンを打つことが、治療効果を最大化する鍵となります。
骨髄抑制の時期(ナディア)を避ける重要性
抗がん剤を投与した後、白血球や好中球の数が最も減少する時期を「ナディア」と呼びます。この時期は感染症のリスクが高まるだけでなく、免疫システム全体の働きが弱まっています。
がんワクチンは、体内の免疫細胞(樹状細胞やリンパ球など)にがんの特徴を記憶させ、攻撃を指示する役割を持ちます。しかし、主役となる免疫細胞自体が減少しているナディアの時期にワクチンを接種しても、指令を受け取る細胞が不足しているため、十分な免疫反応を起こせません。
したがって、ナディアを過ぎて白血球数が回復基準値に戻り始めた時期が、ワクチン投与に適したタイミングとなります。一般的には抗がん剤投与から1週間から2週間後がナディアとなることが多いため、その時期を避けてスケジュールを組みます。
休薬期間を有効活用するスケジューリング
多くの抗がん剤治療は、3週間から4週間を1クールとして行います。この1クールのうち、抗がん剤を投与しない「休薬期間」は、体力を回復させるための重要な時間であると同時に、がんワクチンを投与する好機でもあります。
休薬期間の後半は、骨髄機能が回復し、免疫細胞の数が安定してくることが多いためです。主治医から提示される年間あるいは数ヶ月単位の治療スケジュールをベースに、休薬期間のどの日程であれば体調が安定しているかを予測します。
無理に治療を詰め込むのではなく、体がワクチンを受け入れ、強く反応できるコンディションの日に予約を入れることが大切です。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤との関係
近年使用頻度が増えている分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤は、従来の殺細胞性抗がん剤とは異なる副作用の出方をします。これらの薬剤は骨髄抑制が軽度である場合が多い一方で、特有の免疫関連副作用が現れることがあります。
以下に薬剤タイプ別の推奨タイミングを整理しましたので、ご自身の治療薬と照らし合わせてみてください。
薬剤タイプごとの併用タイミングの目安
| 薬剤の種類 | 骨髄抑制の特徴 | ワクチン推奨時期 |
|---|---|---|
| 殺細胞性抗がん剤 | 強い(ナディアが存在) | 白血球回復期(休薬週) |
| 分子標的薬 | 比較的軽度 | 連日投与の合間や休薬日 |
| 免疫チェックポイント阻害剤 | 少ない(免疫反応に注意) | 同時期可(医師判断) |
がんワクチンとの併用においては、免疫機能が過剰に反応しすぎないか、あるいは互いの効果を打ち消し合わないかを慎重に判断する必要があります。
特に免疫チェックポイント阻害剤は、免疫のブレーキを外す薬であるため、アクセルを踏む役割のがんワクチンと併用することで、相乗効果を期待できる一方で、副作用の管理もより重要になります。
放射線治療との併用における注意点と相乗効果
放射線治療と併用する際は、照射による免疫細胞へのダメージを最小限に抑えつつ、アブスコパル効果を狙えるタイミングでワクチンを投与します。
放射線によってがん細胞が破壊されると、その破片(がん抗原)が周囲に放出されます。このタイミングでがんワクチンが免疫細胞を活性化していると、放出された抗原を効率よく取り込み、免疫システムが「敵」をより明確に認識する「アブスコパル効果」と呼ばれる現象が起きる可能性があります。
ただし、放射線を照射している部位や範囲によっては免疫細胞自体への影響も考慮する必要があるため、照射スケジュールとの綿密な調整が必要です。
照射部位と免疫細胞への影響の考慮
放射線治療は、照射野(放射線を当てる範囲)に含まれる細胞に影響を与えます。もし、骨髄が豊富にある骨盤や背骨などに広範囲に放射線を照射する場合、骨髄機能が低下し、全身の白血球数が減少することがあります。
この場合は、抗がん剤と同様に白血球数の回復を待ってからワクチンを投与します。
放射線治療との併用前に確認すべき項目
| 確認項目 | 判断基準 | 対策 |
|---|---|---|
| 血液データ | 白血球数の低下有無 | 低下時は回復を待つ |
| 照射範囲 | 骨髄への影響度 | 広範囲なら時期をずらす |
| 注射部位 | 照射野との距離 | 照射野外の健康な皮膚へ |
一方で、ピンポイントでの照射や、骨髄への影響が少ない部位への照射であれば、治療期間中であっても並行してワクチン治療を行うことが可能です。治療計画の段階で、今回の放射線治療が全身の血液データにどの程度影響を与えそうか、放射線科医の見解を確認しておくことが大切です。
アブスコパル効果を狙ったタイミング設定
アブスコパル効果とは、放射線治療を行った局所だけでなく、放射線を当てていない離れた場所にあるがん病変も縮小する現象のことです。これは、破壊されたがん細胞から放出された抗原を免疫細胞が認識し、全身を巡って他のがんを攻撃するために起こると考えられています。
この効果を期待する場合、放射線治療によってがん抗原が放出されるタイミングに合わせて、免疫機能を高めておくことが合理的です。そのため、放射線治療の開始直前、あるいは治療期間中に並行してがんワクチンを投与する戦略をとることがあります。
そうすることで、免疫細胞の「教育」と「実践」を同時に行い、治療効果の底上げを狙います。
放射線による炎症反応と皮膚ケア
放射線治療中は、照射部位に皮膚炎や炎症が起こりやすくなります。がんワクチンの注射部位(多くは皮下や皮内)は、放射線の照射野とは異なる場所を選ぶことが鉄則です。
炎症が起きている場所にワクチンを打つと、過剰な反応や痛みを引き起こす原因になります。また、放射線治療による全身的な疲労感(宿酔)が強い時期は、免疫応答も鈍くなる可能性があります。
ご自身の体調を第一に考え、皮膚の状態が良好な部位を選び、体力が著しく低下していない日にワクチン接種を行うよう調整します。
手術前後の免疫状態とワクチン投与の開始時期
手術前後のワクチン投与は、術前の体力がある時期に免疫記憶を作るか、術後の回復を待って微小病変を叩くか、病状に合わせて決定します。
手術とがんワクチンを組み合わせる場合、術前の体力が充実している時期に免疫を賦活化しておく「術前投与」と、術後の微小残存病変を叩くための「術後投与」という二つの考え方があります。どちらを選択するかは、がんの進行度や手術の規模、そして患者様ご本人の体力回復状況によって左右されます。
傷の治癒を妨げず、かつ再発予防効果を最大化するタイミングを見極めることが肝要です。
術前投与による免疫のプライミング
手術前にがんワクチンを投与することには、免疫システムにあらかじめがんの特徴を覚え込ませておく(プライミング)という目的があります。腫瘍がまだ体内にある状態で免疫を活性化させることで、手術のストレスで免疫が一時的に抑制された際にも、がん細胞に対する監視機能を維持しようとする試みです。
また、手術までの待機期間が数週間ある場合、その時間を無駄にせず治療に充てるという意味でも有効です。ただし、手術直前すぎるとワクチンの副反応(発熱など)が手術日程に影響する可能性があるため、手術の1週間から2週間前までには投与を終えるスケジュールを組みます。
術後の体力回復と創傷治癒の優先
手術直後は、体内のエネルギーが傷の修復に集中的に使われます。この時期に無理にワクチンを投与しても、免疫系が十分に反応しないばかりか、炎症反応が傷の治癒を遅らせるリスクも否定できません。
基本的には、抜糸が終わり、食事や睡眠が通常通り取れるようになり、体力が戻り始めた時期が再開の目安となります。
手術前後のスケジューリング例
| 時期 | 目的 | 注意点 |
|---|---|---|
| 手術2週間前 | 免疫の予備的活性化 | 発熱等のリスク管理 |
| 手術直後 | 身体の回復専念 | 投与は控える |
| 術後1ヶ月以降 | 微小病変の排除 | 栄養状態の確認 |
消化器系のがんで食事が十分に摂れない期間が続く場合は、点滴などで栄養状態が改善するのを待ちます。免疫細胞の原料となるタンパク質などの栄養素が不足していると、ワクチンの効果が出にくいため、焦らず回復を待つ姿勢が必要です。
再発予防としての維持療法的な位置づけ
手術で目に見えるがんを取りきった後でも、画像検査には映らない微小ながん細胞が残っている可能性があります。これらが成長して再発するのを防ぐために、術後にがんワクチンを行う意義は大きいです。
術後の補助化学療法(抗がん剤)が予定されている場合は、そのスケジュールとの兼ね合いになりますが、抗がん剤が終わった後、あるいは抗がん剤の休薬期間を利用して、定期的に免疫への刺激を入れ続けます。
一度活性化した免疫も時間とともに記憶が薄れることがあるため、定期的な「ブースター(追加)」接種を行い、高い監視能力を維持し続けることが長期的な安心につながります。
併用時に現れやすい副作用とその対処法
副作用の管理においては、発熱や局所反応がワクチンによるものか標準治療によるものかを区別し、早期に対処することが治療継続の鍵です。
標準治療とがんワクチンを併用する場合、それぞれの副作用が重なって現れることもあれば、独立して現れることもあります。重要なのは、体に起きた変化が「どの治療に由来するものか」を冷静に観察することです。
がんワクチンの主な副作用は、注射部位の反応や軽度の発熱といった免疫反応に伴うものが中心であり、抗がん剤のような重篤な臓器障害や脱毛などは原則として起こりません。しかし、体が弱っている時に発熱が重なると体力の消耗につながるため、事前の準備と早期のケアが生活の質(QOL)を維持するために役立ちます。
発熱と倦怠感のマネジメント
がんワクチン投与後に見られる発熱は、免疫細胞が活性化している証拠であり、ある意味で「良い反応」と捉えることもできます。しかし、38度を超える高熱が長く続いたり、抗がん剤による倦怠感と重なったりすると、患者様にとっては辛いものです。
このような場合、水分を多めに摂取し、必要に応じて解熱鎮痛剤を使用します。解熱剤を使用しても免疫の効果が完全に消失することはありませんので、無理に我慢せず体を休めることを優先します。
ただし、抗がん剤投与後の感染症による「発熱性好中球減少症」との区別が必要ですので、高熱が出た際は必ず主治医に連絡できる体制を整えておきます。
注射部位の反応(発赤・硬結)
ワクチンの注射部位が赤く腫れたり、しこり(硬結)ができたりすることがあります。これは局所で免疫細胞が集まり、抗原を取り込んでいる反応です。
通常は数日で引きますが、痒みが強い場合は保冷剤で冷やす(クーリング)ことが有効です。かきむしってしまうと細菌感染の原因になるため、清潔を保ちます。
抗がん剤の影響で血小板が減少している時期は、注射部位からの出血が止まりにくいことや、皮下出血(あざ)ができやすくなることがあります。接種後は通常よりも長く圧迫止血を行い、注射部位を激しく揉まないように注意します。
アレルギー反応への備え
極めて稀ですが、ワクチンの成分に対してアレルギー反応が起こる可能性があります。投与直後の気分不快、息苦しさ、発疹などがサインです。クリニック内では万が一のアナフィラキシーに対応できる準備をしていますが、帰宅後に症状が出る遅発性のアレルギーもあります。
標準治療の影響で体質が変化し、以前は大丈夫だった物質に過敏になることもあり得ます。投与当日は激しい運動や飲酒、長時間の入浴を避け、家族と一緒に過ごすなど、体調の変化にすぐ気づける環境で過ごすことが安全につながります。
医師との連携と情報共有のポイント
安全な併用のためには、標準治療のスケジュールと血液データをワクチン担当医に正確に共有し、双方の医師が緊急時に連携できる体制を整えることが不可欠です。
標準治療を行う主治医と、がんワクチンを提供するクリニックの医師、この二者の連携が患者様の安全を守る命綱となります。残念ながら、すべての医師が自由診療であるがんワクチンに肯定的とは限りません。
しかし、治療内容を隠して併用することは、副作用発生時の対応遅れや、薬の相互作用による予期せぬトラブルを招く危険があります。主治医に対しては「相談」や「許可」というスタンスよりも、「自身が受けている全ての医療行為を報告する」という姿勢で情報を共有することが、信頼関係を維持しながら安全な併用を行うコツです。
標準治療のスケジュール詳細の共有
ワクチン外来の医師にとって、直近の血液データと抗がん剤の投与スケジュールは、投与可否を判断する最も重要な材料です。「来週から抗がん剤です」という大まかな情報だけでなく、具体的な薬剤名、投与量、投与日、および前回の治療後の副作用の出方(いつ熱が出たか、いつ食欲が落ちたか)を詳細に伝えます。
情報を共有することで、ワクチン医師は「この日なら副作用が抜けているはずだ」という予測を立てやすくなります。
主治医から入手しワクチン医師へ共有すべき情報
- 最新の血液検査結果(白血球数やCRP値を含む)
- 現在の抗がん剤の名称と具体的な投与日程表
- 前回治療時の副作用の出現時期とその程度
- 現在服用している全ての処方薬およびサプリメント
お薬手帳や診療明細書、血液検査結果のコピーは常に持参し、最新の情報を提示するようにしてください。
血液検査データの読み方と活用
血液検査の結果用紙には多くの数字が並んでいますが、がんワクチン併用の観点で特に注目すべき項目があります。白血球数(WBC)、好中球数(Neut)、リンパ球数(Lymph)の実数と比率です。これらは免疫の「兵隊」の数を示しています。
また、CRP(炎症反応)やアルブミン(栄養状態)も重要です。これらの数値を時系列で追いかけることで、ご自身の体の回復パターンが見えてきます。
「いつも抗がん剤の10日後に白血球が下がる」といった傾向をご自身でも把握し、それを医師と共有することで、より精度の高いスケジュール調整が可能になります。
緊急時の連絡体制の確認
併用治療中に予期せぬ体調不良が起きた際、どちらの医療機関に連絡すべきかを事前に決めておきます。例えば、ワクチン接種部位の局所的なトラブルならワクチン外来へ、全身的な高熱や激しい嘔吐なら標準治療を行う基幹病院へ、といった具合です。
しかし、患者様ご自身で判断がつかない場合も多々あります。その際は、まずかかりつけの基幹病院に連絡し、「いつ、どんなワクチンを打ったか」を正確に伝えられるように準備しておきます。
ワクチン外来の緊急連絡先も携帯電話に登録しておき、両方の医療機関が状況を把握できる状態を作っておくことが大切です。
免疫力を最大化するための生活習慣の土台
ワクチンの効果を底上げするには、腸内環境の改善や質の高い睡眠、十分なタンパク質摂取を通じて、土台となる免疫力を維持することが重要です。
いくら高機能ながんワクチンを投与し、タイミングを完璧に調整しても、それを受け止める患者様の体に「免疫を作る力」が残っていなければ効果は半減します。免疫細胞の活動エネルギー源は、日々の食事から得られる栄養です。
また、自律神経のバランスは免疫機能のオン・オフを調整しています。標準治療の副作用で食欲が落ちたり、不眠になったりすることは避けられない場合もありますが、できる範囲で体を整える工夫をすることが、治療成果を後押しします。
腸内環境と免疫の関係
免疫細胞の約7割は腸内に存在すると言われています。抗がん剤や抗生物質の使用は腸内フローラを乱しやすく、これが免疫力低下の一因となります。
発酵食品や食物繊維を意識して摂り、腸内環境を整えることは、全身の免疫底上げに直結します。ただし、好中球が極端に減少している時期は、生ものや特定の菌を含む食品の摂取に制限がかかる場合があります。
主治医の指示に従いつつ、加熱調理した野菜スープや消化の良いお粥などで腸を温め、粘膜を保護する食事を心がけます。便通を整えることは、毒素排出の観点からも重要です。
睡眠と自律神経の調整
睡眠中は、傷ついた細胞の修復や免疫細胞の強化が行われる時間です。質の良い睡眠をとることは、高額な薬剤にも匹敵する治療効果を持ちます。
しかし、がんの告知や治療への不安から不眠に悩む方は少なくありません。日中に少しでも日光を浴びてセロトニンを分泌させる、ぬるめのお湯に浸かってリラックスする、といった生活の工夫を取り入れます。
交感神経が優位になりすぎている緊張状態では、リンパ球の働きが抑制されてしまいます。リラックスする時間を意図的に作り、副交感神経を優位にすることで、ワクチンによって刺激されたリンパ球が活発に動ける環境を整えます。
タンパク質の摂取と栄養管理
免疫細胞や抗体の主成分はタンパク質です。標準治療中は正常細胞の修復にも大量のタンパク質が消費されるため、意識的に摂取しないと不足しがちになります。
肉や魚が食べにくい時は、卵、豆腐、プロテイン飲料などを活用します。また、亜鉛やビタミンDなどの微量栄養素も免疫維持に関与しています。
一度に大量に食べる必要はありません。「分食」といって、少量ずつ回数を分けて食べることで、胃腸への負担を減らしながら必要な栄養を確保します。
生活習慣で意識すべきチェックポイント
| 項目 | 免疫への作用 | 実践のヒント |
|---|---|---|
| 腸内ケア | 免疫細胞の活性化 | 温かい汁物、消化の良い食事 |
| 睡眠確保 | 細胞修復と機能回復 | 就寝前のスマホ断ち、入浴 |
| タンパク質 | 免疫細胞の材料確保 | 毎食片手のひら分のタンパク源 |
体重を維持することは、治療を継続するための体力を保つ重要な指標となります。
併用が推奨されないケースとリスク管理
自己免疫疾患の活動期や重篤な感染症がある場合は、安全性を最優先してワクチンの投与を見合わせる勇気ある判断が必要です。
がんワクチンは比較的副作用が少ない治療法ですが、全ての患者様、全ての状況において安全というわけではありません。標準治療との兼ね合いや、患者様が元々持っている基礎疾患によっては、併用を見合わせる、あるいは極めて慎重に行うべきケースが存在します。
「やりたい」という気持ちだけで突き進むのではなく、リスクを正しく理解し、今は「引くべき時」か「攻める時」かを冷静に判断することが、結果として長く治療を続けることにつながります。
重篤な自己免疫疾患の既往
関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患は、自分の免疫システムが自分自身の正常な細胞を攻撃してしまう病気です。
がんワクチンは免疫系を強く刺激するため、これらの病気を悪化させる(再燃させる)リスクがあります。標準治療でステロイドや免疫抑制剤を使用している場合、ワクチンの効果が出にくいだけでなく、免疫バランスが崩れて予期せぬ症状が出る恐れがあります。
病状がコントロールされており、主治医が許可した場合を除き、基本的には慎重な判断が必要です。
活動性の感染症がある場合
肺炎や尿路感染症など、細菌やウイルスによる急性の感染症にかかっている時は、免疫システムがその対応に全力を注いでいる状態です。この時期にがんワクチンを投与しても、体が正しく反応できないばかりか、炎症を助長してしまう可能性があります。
標準治療中は抵抗力が落ちており感染症にかかりやすいため、発熱がある場合は、それが「がんによる熱」なのか「感染症による熱」なのかを見極める必要があります。感染症の治療を最優先し、完全に治癒して体調が戻ってからワクチンを再開します。
慎重投与・適用外の判断基準
| 状態・疾患 | リスクの内容 | 推奨される対応 |
|---|---|---|
| 自己免疫疾患(活動期) | 原疾患の悪化 | 原則として投与不可 |
| 急性感染症・高熱 | 炎症の増悪・効果減弱 | 治癒するまで延期 |
| 重度の臓器不全 | 全身状態の悪化 | 対症療法を優先 |
臓器機能の低下と全身状態
重度の肝機能障害や腎機能障害がある場合、体内の代謝や解毒機能が落ちており、あらゆる薬剤の使用にリスクが伴います。
また、腹水や胸水が大量に溜まっている、酸素吸入が必要な呼吸状態であるなど、全身状態(パフォーマンスステータス)が著しく低下している場合は、ワクチンの効果を期待するよりも、苦痛緩和や全身管理を優先すべきです。
免疫療法は、ある程度の「戦う体力」が残っている状態でこそ力を発揮します。ご家族の希望であっても、ご本人の体に過度な負担をかけない選択をすることが、医療倫理的にも重要です。
Q&A
- 標準治療が終わってからワクチンを始めた方が良いですか?
-
必ずしも全てが終わるのを待つ必要はありません。むしろ、がん細胞の数が多い状態や再発予防の観点では、標準治療と並行して行うことで相乗効果が期待できる場合があります。
ただし、記事内で触れたように骨髄抑制の時期を避けるなどの調整は必要です。治療の段階や目的によって適切なタイミングは異なるため、早めに相談することで選択肢が広がります。
- 高齢でもワクチンの副作用に耐えられますか?
-
一般的にがんワクチンは、抗がん剤に比べて体への負担が少ない治療法です。多くの高齢の患者様も治療を受けておられます。
主な副作用は注射部位の腫れや微熱程度であることが多いため、重篤な心疾患などがなければ、年齢だけで諦める必要はありません。ご本人の体力に合わせてスケジュールを調整します。
- 途中でワクチンのスケジュールがずれても大丈夫ですか?
-
数日から数週間程度のずれであれば、大きな問題はありません。無理をして体調が悪い時に打つよりも、回復を待って打つ方が免疫反応もしっかりと起きます。
標準治療の副作用や急な予定変更で打てない日があっても、焦らず次の適切なタイミングで再開すれば効果は期待できます。
- 飲み薬の抗がん剤(経口薬)との併用はどうすれば良いですか?
-
飲み薬のタイプには、毎日飲むものや休薬期間があるものなど様々です。点滴に比べて血中濃度が一定に保たれやすい特徴がありますが、骨髄抑制などの副作用は同様に起こり得ます。
基本的には血液データを参考にしますが、休薬期間があるタイプならその時期に、連日投与なら副作用が落ち着いている日を選んで接種します。
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