免疫チェックポイント阻害薬の副作用とワクチン安全性の差

免疫チェックポイント阻害薬の副作用とワクチン安全性の差

癌治療の選択肢として注目を集める免疫療法ですが、その中でも免疫チェックポイント阻害薬と癌ワクチンは、作用の仕方や安全性の面で大きな違いがあります。

免疫チェックポイント阻害薬は、全身の免疫システムのブレーキを解除するため、自己免疫疾患に似た重篤な副作用を引き起こす可能性があります。

対して癌ワクチンは、特定の癌抗原を標的とするため、副作用は注射部位の反応など局所的なものにとどまる傾向があります。

本記事では、これら二つの治療法におけるリスクと安全性の違いを詳しく解説し、患者様が納得のいく治療選択を行うための判断材料を提供します。

目次

免疫チェックポイント阻害薬が引き起こす全身性の反応

免疫チェックポイント阻害薬は全身の免疫細胞を活性化させるため、癌細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまうリスクがあり、これが全身性の副作用につながります。

従来の抗癌剤とは異なり、免疫機能が過剰に働くことで起こる独特の反応を理解する必要があります。

自己免疫疾患に似た症状が現れる理由

私たちの体には、免疫細胞が暴走して自分自身の正常な細胞を傷つけないよう制御する機能が備わっています。これを「免疫チェックポイント」と呼びます。

癌細胞はこの仕組みを悪用し、免疫細胞にブレーキをかけることで攻撃を逃れています。

免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを解除することで免疫細胞を再活性化し、癌細胞への攻撃力を取り戻す薬です。

しかし、このブレーキ解除は癌細胞に対してだけでなく、全身の正常な細胞に対しても作用します。その結果、本来守るべき自分の体を免疫細胞が攻撃してしまう現象が起こります。

これが免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれる副作用です。その症状や病態は、関節リウマチや橋本病といった自己免疫疾患と非常によく似ています。

免疫の制御が外れることで、皮膚、消化器、肺、内分泌器官など、体のあらゆる場所で炎症反応が生じる可能性があります。

したがって、この治療を受ける際は、全身のどこにでも症状が出るリスクがある点を認識することが重要です。

皮膚や消化器に現れやすい初期症状

免疫チェックポイント阻害薬の投与を開始した後、比較的早い段階で現れやすいのが皮膚や消化器の症状です。皮膚障害は多くの患者様で認められ、皮疹やかゆみ、白斑などが現れます。

これらは目に見える症状であるため、患者様自身やご家族が気づきやすい変化です。単なる肌荒れと軽視せず、薬の影響である可能性を疑う姿勢が必要になります。

消化器においては、下痢や腹痛が代表的な初期症状です。腸管の粘膜で免疫反応が活発になり、炎症が起こることで大腸炎のような状態を引き起こします。

軽度の下痢であっても、放置すると重症化して腸に穴が開く穿孔などの深刻な事態を招く恐れもあります。

回数が増えたり、便の性状が変わったりした場合は、直ちに医療機関へ連絡する体制を整えておくことが大切です。これらの初期サインを見逃さないことが、重篤化を防ぐための鍵となります。

重篤な副作用であるirAEのリスク

irAE(免疫関連有害事象)の中には、命に関わる重篤なものも存在します。特に注意が必要なのが、間質性肺炎、1型糖尿病、重症筋無力症、心筋炎などです。

これらは発症頻度こそ高くはありませんが、一度発症すると急速に進行するケースがあります。例えば間質性肺炎では、肺が炎症を起こして硬くなり、呼吸困難に陥ります。

また、ホルモンを作る臓器が攻撃されると、生涯にわたってホルモン補充療法が必要になることもあります。

これらの重篤な副作用は、投与期間中いつでも起こる可能性があり、投与終了数ヶ月後に発現することさえあります。定期的な検査とモニタリングを継続し、わずかな体調の変化にも敏感になることが求められます。

医療従事者は常にこれらのリスクを念頭に置き、患者様と情報を共有しながら慎重に治療を進めていきます。

主なirAEの発現部位と特徴

影響を受ける部位具体的な症状注意点
呼吸器(肺)息切れ、空咳、発熱急速に悪化する場合があり、早期の画像診断が必要
消化器(腸管)激しい下痢、腹痛、血便脱水症状や穿孔のリスクがあるため早急な処置が必要
内分泌(甲状腺等)強い倦怠感、体重変化、口渇症状が非特異的で発見が遅れることがある

癌ワクチンの仕組みと局所的な安全性

癌ワクチンは特定の目印を持つ癌細胞だけを狙い撃ちにするよう免疫系を教育する治療法であり、全身への無差別な影響が少ないため、副作用は主に局所的な反応にとどまります。

この標的を絞ったアプローチが、高い安全性を支える根拠となっています。

特異的抗原を標的とする攻撃手法

癌ワクチン療法の核心は、癌細胞特有の目印である「癌抗原」を免疫細胞に覚え込ませる点にあります。癌細胞は正常細胞とは異なるタンパク質のかけら(ペプチド)を持っています。

ワクチンとしてこのペプチドや、抗原情報を取り込んだ樹状細胞を体内に投与することで、攻撃の司令塔となる免疫細胞に対し、「この目印を持つ細胞だけを攻撃せよ」という明確な指令を出します。

この指令を受けたキラーT細胞などの実行部隊は、全身をパトロールしながら、その目印を持つ癌細胞だけを選別して攻撃します。

免疫チェックポイント阻害薬が免疫全体のアクセルを強引に踏み込むのに対し、癌ワクチンは特定の敵に対する誘導ミサイルのような役割を果たします。

正常な細胞にはその目印が存在しないため、攻撃対象から外れ、誤爆による副作用のリスクを大幅に低減させることができます。この精密な攻撃性が、癌ワクチンの大きな特徴です。

注射部位の腫れや痛みといった局所反応

癌ワクチンの副作用として最も頻繁に報告されるのは、ワクチンを注射した場所における局所的な反応です。具体的には、注射部位の発赤、腫れ、痛み、硬結(しこり)などが挙げられます。

これは、ワクチンの成分に対して免疫細胞が集まり、そこで免疫反応が正常に起きている証拠でもあります。体が異物を認識し、戦う準備を始めているサインと捉えることもできます。

これらの症状の多くは軽度から中等度であり、数日から1週間程度で自然に軽快します。生活に支障をきたすほどの激痛や、広範囲にわたる強い炎症が起こることは稀です。

患者様にとっては不快に感じることもありますが、全身の臓器障害に比べれば管理しやすい症状と言えます。冷却や鎮痛剤の使用など、対症療法で十分に対応可能なケースがほとんどです。

全身への影響が少ない理由

癌ワクチンが全身的な重篤な副作用を起こしにくい理由は、その作用が「抗原特異的」であることに尽きます。

免疫システム全体を活性化させるサイトカイン療法や免疫チェックポイント阻害薬とは異なり、癌ワクチンは特定のターゲットに対する免疫応答のみを誘導します。

また、投与されたワクチン成分は、主に注射部位近くのリンパ節で免疫細胞に取り込まれ、情報の伝達が行われます。この教育の場が局所に限定されていることも、全身への影響を抑える要因の一つです。

もちろん、活性化したT細胞は全身を巡りますが、彼らは標的を持たない正常細胞には手を出さず素通りします。

このように、作用の起点と攻撃対象が明確に制御されているため、自己免疫疾患のような全身性のトラブルを回避しやすい構造になっているのです。

高齢の方や体力が低下している方でも比較的導入しやすい治療とされるのは、この安全性の高さゆえです。

免疫チェックポイント阻害薬の主な副作用の種類と頻度

免疫チェックポイント阻害薬の副作用は多岐にわたり、どの臓器にいつ出現するか予測が難しいため、代表的な症状と発生頻度をあらかじめ把握し、警戒レベルを高めておくことが重要です。

頻度は薬剤の種類や併用の有無によって異なりますが、全身管理が必要です。

間質性肺炎や大腸炎などの内臓障害

内臓に生じる副作用の中でも、間質性肺炎は生命に関わる可能性があるため特に警戒が必要です。肺胞の壁に炎症が起き、酸素の取り込みが阻害されます。

咳や息切れが初期症状ですが、風邪と区別がつきにくいことがあります。X線やCT検査で早期に発見し、必要に応じてステロイドパルス療法など強力な治療を行う必要があります。

大腸炎も頻度の高い副作用です。軽度の下痢から始まり、重篤な場合は1日に何度もトイレに駆け込むような状態になります。

腸管免疫の過剰反応が原因であり、内視鏡検査を行うと腸の粘膜がただれている様子が観察されます。重症化すると脱水や電解質異常を招くほか、腸穿孔による腹膜炎のリスクも高まります。

これらの内臓障害は、患者様のQOL(生活の質)を著しく低下させる要因となるため、医療チームによる綿密な管理が行われます。

甲状腺機能障害や下垂体炎などの内分泌障害

ホルモンを分泌する内分泌器官への影響も、免疫チェックポイント阻害薬特有の副作用です。最も頻度が高いのは甲状腺機能障害で、機能が亢進する場合もあれば低下する場合もあります。

機能低下症になると、強い疲労感、寒がり、むくみ、体重増加などが見られます。これらは癌そのものの症状や、治療による疲れと混同されやすく、血液検査でのホルモン値確認が発見の手がかりとなります。

下垂体炎は頻度は低いものの、発症すると体内の様々なホルモンバランスが崩れます。

下垂体はホルモン分泌の指令塔であるため、副腎皮質ホルモンや甲状腺刺激ホルモンが出なくなり、全身の倦怠感や食欲不振、血圧低下などを引き起こします。

一度破壊された内分泌機能は回復しないことも多く、その場合は不足したホルモンを薬で補い続ける治療が生涯にわたって必要になります。長期的な視点での健康管理が求められる副作用です。

神経や筋肉への影響と発現時期

神経系や筋肉への副作用は、発症すると日常生活動作(ADL)に直結する深刻な問題となります。末梢神経障害による手足のしびれや痛み、ギラン・バレー症候群のような麻痺症状が現れることがあります。

また、筋肉に炎症が起きる筋炎や、神経と筋肉の継ぎ目が攻撃される重症筋無力症も報告されています。これらは発症頻度こそ高くはありませんが、一度発症すると急速に進行するケースがあります。

さらに心筋炎という心臓の筋肉に炎症が起きる病態は、致死率が高い副作用として知られています。

これらの神経・筋肉系の副作用は、投与初期に現れることもあれば、治療が長く続いた後に突如として現れることもあります。

発現時期の予測が困難であるため、定期的な心電図検査や筋逸脱酵素(CK)の測定などを行い、兆候を捉える努力が続けられます。

臓器別副作用の発現傾向

臓器系統主な疾患名特徴的な初期症状
内分泌系甲状腺機能低下症、下垂体炎説明のつかない強いだるさ、寒気
神経・筋肉系重症筋無力症、筋炎手足の力が入りにくい、まぶたが重い
循環器系心筋炎胸の痛み、動悸、息苦しさ

癌ワクチン療法で想定される軽度な副反応

癌ワクチンは一般的に重篤な副作用が少ない治療法ですが、免疫系を刺激する以上、いくつかの身体反応は避けられません。

しかしそれらは一過性であり、多くの場合、通常のワクチン接種時と同様の軽度な症状に留まります。

発熱や倦怠感などのインフルエンザ様症状

癌ワクチンを投与した後、数時間から翌日にかけて発熱することがあります。これは免疫細胞が活性化する過程で放出される物質(サイトカイン)によるもので、体が戦う準備をしている反応と言えます。

多くの場合は37度台から38度程度の熱であり、解熱鎮痛剤の使用でコントロール可能です。

また、全身の倦怠感や関節痛、筋肉痛を伴うこともあり、これらはインフルエンザにかかった時の症状に似ているため「インフルエンザ様症状」と呼ばれます。

抗癌剤の副作用のような、骨髄抑制による感染症リスクの増大や激しい嘔吐とは異なり、数日で自然に消失するのが特徴です。

患者様にとっては、免疫が動き出したサインとして前向きに捉えることもできる反応であり、過度に恐れる必要はありません。

アナフィラキシーなどの稀なアレルギー反応

極めて稀ではありますが、ワクチンの添加物や成分に対して即時型のアレルギー反応であるアナフィラキシーショックを起こす可能性はゼロではありません。

これはどの薬剤やワクチンにも共通するリスクです。接種直後に血圧低下、呼吸困難、全身の蕁麻疹などが現れます。

そのため、ワクチン接種後は通常、30分程度医療機関内で待機し、体調に変化がないかを確認します。

万が一アナフィラキシーが起きた場合でも、医療機関であればアドレナリン投与などの救急処置を即座に行うことができるため、大事に至ることはほとんどありません。

事前の問診でアレルギー歴を正確に医師に伝えておくことが、リスク回避のために重要です。

長期的な安全性に関する現在の知見

癌ワクチン療法は、標準治療に比べて歴史は浅いものの、これまでの臨床試験や治療実績において、長期的に残る重篤な後遺症の報告は多くありません。

免疫チェックポイント阻害薬のように、数年経ってから新たな自己免疫疾患が発症するといったリスクは低いと考えられています。

特定の抗原のみを標的とするため、正常な臓器への蓄積毒性も少ないとされています。ただし、免疫系への介入による長期的な影響については、現在も継続的な研究とデータの蓄積が行われている段階です。

現時点での科学的根拠に基づけば、長期投与を行っても身体への負担は限定的であり、QOLを維持しながら長く続けられる治療法としての地位を確立しつつあります。

一般的な副反応の経過目安

症状発現時期消失目安
注射部位の痛み接種当日〜翌日3〜7日程度
発熱(37〜38度)接種後数時間〜1〜2日で解熱
全身倦怠感接種翌日数日で回復

治療選択におけるリスクとベネフィットの比較

どの治療法を選ぶべきかは、効果への期待値(ベネフィット)と副作用のリスクのバランスを患者様ごとの状況に合わせて慎重に見極める必要があります。

免疫チェックポイント阻害薬と癌ワクチンはそれぞれ得意とする領域とリスクの性質が異なるため、画一的な判断はできません。

奏効率と副作用リスクのバランス

免疫チェックポイント阻害薬は、一部の患者様に対して劇的な効果を示し、末期の癌が消失・縮小したまま長期間維持される事例もあります。

この高い効果(ハイリターン)は大きな魅力ですが、同時に致死的な副作用(ハイリスク)の可能性も許容しなければなりません。

効果が得られるのは全体の2〜3割程度というデータもあり、効果が出ないのに副作用だけを受けてしまうリスクも考慮する必要があります。

一方、癌ワクチンは、劇的な腫瘍縮小効果という点では免疫チェックポイント阻害薬に劣る場合がありますが、副作用のリスク(ローリスク)は圧倒的に低く抑えられています。

病勢の進行を緩やかにし、癌と共存する期間を延ばすことを目指す場合や、副作用で体力を奪われたくないと考える場合には、ワクチンの安全性(ベネフィット)が優先されるでしょう。

リスクを取って高い効果を狙うか、安全性を重視して穏やかな効果を期待するか、価値観による選択が重要です。

患者の体力や既往歴による適応の違い

患者様の全身状態(パフォーマンスステータス)や、過去にかかった病気も治療選択の決定的な要因となります。

すでに自己免疫疾患(リウマチや膠原病など)を持っている患者様の場合、免疫チェックポイント阻害薬を使用すると持病が悪化する危険性が高いため、慎重な判断あるいは使用の回避が求められます。

また、間質性肺炎の既往がある場合も同様です。

これに対し、癌ワクチンは自己免疫疾患の既往がある方や、高齢で体力が低下している方でも適応となる可能性が高い治療法です。

全身への侵襲が少ないため、通院での治療が可能であり、仕事や日常生活を続けながら治療を受けたいというニーズにも合致します。

自分の体の状態がどちらの治療に耐えうるか、医師と綿密に相談することが大切です。

併用療法を行う場合の安全性への配慮

近年では、効果を高めるために免疫チェックポイント阻害薬と癌ワクチンを併用する臨床試験や治療も行われています。

理論上、ワクチンで攻撃目標を教え、チェックポイント阻害薬でブレーキを外すことで、相乗効果が期待できます。しかし、それは同時に副作用のリスクが複雑化することを意味します。

併用する場合、それぞれの単剤使用時よりも副作用の頻度や程度が増す可能性があります。特に免疫反応が過剰になりすぎないよう、慎重な投与量の調整や間隔の設定が必要です。

併用療法を選択する際は、より厳重なモニタリング体制が必要となり、万が一の事態に対応できる専門的な医療機関での実施が推奨されます。効果の最大化と安全性の確保の両立が、併用療法の大きな課題です。

医師へ伝えるべき重要事項

  • 過去および現在治療中の自己免疫疾患の有無(リウマチ、甲状腺疾患など)
  • 過去に薬剤やワクチンでアレルギー反応が出た経験
  • 現在の生活で重視したいこと(仕事の継続、入院の回避など)

副作用発現時の対応と早期発見の重要性

免疫療法における副作用対策の要は「早期発見・早期対処」です。

特に免疫チェックポイント阻害薬の副作用は進行が早いため、患者様自身が異変に気づき、医療者が即座に介入することで、重症化を防ぎ治療を継続することが可能になります。

患者自身が気づける身体の異変

副作用の初期症状の多くは、患者様自身の自覚症状として現れます。「なんとなく調子が悪い」という曖昧な感覚が、実は重大な副作用の予兆であることも少なくありません。

例えば、以前より息切れしやすくなった、便の回数が増えた、皮膚がかゆい、常にだるい、といった変化です。

これらのサインを見逃さないために、日々の体調を記録する「治療日誌」をつけることが推奨されます。

体温、体重、便通、食欲、気になる症状をメモしておくことで、診察時に医師へ正確な情報を伝えることができます。

我慢したり、「これくらいなら大丈夫」と自己判断したりすることは避け、些細な変化でも報告する習慣をつけることが自分の身を守ることにつながります。

医療機関との連携体制の構築

副作用が出た際に、いつ、誰に、どのように連絡を取ればよいかを事前に確認しておくことは必須です。夜間や休日に体調が急変した場合の緊急連絡先や、受診の目安を医療機関と共有しておきましょう。

特に免疫チェックポイント阻害薬を使用している場合は、癌専門医だけでなく、皮膚科、呼吸器内科、消化器内科、内分泌内科など、副作用に対応できる各診療科との連携ネットワークが整っている病院での治療が安心です。

また、他院を受診する際や救急車を呼ぶ際には、必ず「免疫チェックポイント阻害薬による治療中である」ことを伝えるカード(患者カード)を提示します。

そうすることで、一般の医師でも特殊な副作用の可能性を考慮した適切な処置を行うことができます。医療チーム全体で患者様を見守る体制を作ることが安全管理の基本です。

休薬やステロイド投与による管理

副作用が疑われる場合、まずは原因となっている薬剤の投与を一時中止(休薬)します。

軽度であれば、休薬と対症療法だけで改善することも多いですが、中等度以上の副作用、特にirAEと診断された場合には、免疫の暴走を抑えるためにステロイド剤(副腎皮質ホルモン)が使用されます。

ステロイドは強力な抗炎症作用を持ち、過剰な免疫反応を鎮静化させます。症状の重さに応じて、内服薬から開始する場合や、入院して大量のステロイドを点滴するパルス療法を行う場合があります。

ステロイドで改善が見られない難治性の場合は、さらに強力な免疫抑制剤を使用することもあります。

適切なタイミングで適切な治療介入を行えば、多くの副作用はコントロール可能です。副作用が出たからといって直ちに治療終了となるわけではなく、管理しながら治療を継続する道を探ります。

副作用レベル別の対応方針

重症度状態基本的な対応
軽度症状はあるが生活に支障なし経過観察または対症療法を行いながら治療継続
中等度生活に一部制限が出る薬剤の休薬を検討、必要に応じてステロイド開始
重度入院治療が必要、生命の危機直ちに投与中止、高用量ステロイド等の強力な治療

免疫療法における個別化医療の視点

癌治療は「誰にでも同じ薬を使う」時代から、「個々の患者様の特徴に合わせて最適な治療を選ぶ」個別化医療(プレシジョン・メディシン)の時代へと進化しています。

副作用のリスクを最小限に抑えつつ効果を最大化するために、個人の体質や癌の性質を見極める技術が重要視されています。

遺伝子検査によるリスク予測の可能性

遺伝子検査技術の進歩により、事前にどの薬が効きやすいか、あるいは副作用が出やすい体質かをある程度予測することが試みられています。

例えば、特定の遺伝子変異の数が多い(マイクロサテライト不安定性が高い)癌では、免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいことが分かっています。

一方で、自己免疫疾患に関連する特定の白血球の型(HLA型)を持つ人は、副作用が出やすい傾向があるという研究も進んでいます。

癌ワクチンにおいても、患者様のHLA型に合った抗原ペプチドを選択しなければ効果が発揮されません。

事前に血液検査や癌組織の遺伝子解析を行うことで、無駄な治療や予期せぬ副作用のリスクを減らし、科学的根拠に基づいた治療選択が可能になりつつあります。

患者ごとの免疫状態に合わせた治療計画

患者様の体内の免疫状態は一人ひとり異なります。

免疫細胞の数や活性度、癌による免疫抑制の強さなどを詳細に分析(免疫プロファイリング)することで、その人に合った治療戦略を立てることができます。

免疫のブレーキが強いタイプならチェックポイント阻害薬を、攻撃目標を見失っているタイプならワクチンを、といった使い分けが理想的です。

また、高齢者と若年者では免疫の反応性が異なるため、投与量やスケジュールの調整も必要になります。

画一的なプロトコルを当てはめるのではなく、患者様の全身状態や免疫環境を総合的に評価し、オーダーメイドに近い形で治療計画を練ることが、安全で効果的な免疫療法への近道です。

生活の質(QOL)を維持するための工夫

治療の最終的な目標は、単に癌を縮小させることだけでなく、患者様がその人らしく生活できる時間を守ることです。副作用で寝たきりになってしまっては、治療の意味が薄れてしまいます。

そのため、QOLへの影響を最小限にする工夫が常に求められます。

副作用が少ない癌ワクチンを選択することで、仕事を続けたり、趣味を楽しんだりする時間を確保することも立派な戦略です。

また、副作用対策としてのスキンケア指導や栄養指導、リハビリテーションの導入など、薬物療法以外のサポートも重要です。

患者様が何を大切にしたいかという価値観を医療者と共有し、生活の質を維持しながら長く治療と付き合っていけるような選択肢を検討し続けます。

QOL維持のために考慮すべき要素

  • 通院頻度と治療にかかる拘束時間
  • 仕事や家事への影響度合い
  • 食事や排泄など日常生活動作の自立性

よくある質問

免疫チェックポイント阻害薬の副作用はいつまで続きますか?

副作用の種類によって異なりますが、皮膚症状や消化器症状の多くは治療中や治療直後に現れ、適切な処置で数週間から数ヶ月以内に改善します。

しかし、甲状腺機能障害や1型糖尿病などの内分泌障害は、一度発症すると永続的になり、生涯にわたるホルモン補充が必要になる場合があります。

また、治療終了後数ヶ月経ってから遅発性の副作用が現れることもあるため、治療が終わっても長期的な経過観察が必要です。

癌ワクチンと免疫チェックポイント阻害薬を同時に受けることはできますか?

はい、同時に受けることは技術的に可能であり、相乗効果を狙った臨床試験も数多く行われています。

ただし、併用することで免疫反応が強力になり、副作用のリスクや程度が増す可能性があります。

併用療法を行う場合は、両方の治療に精通した医師の管理下で、慎重に実施する必要があります。

標準治療として確立されている組み合わせと、自由診療や治験の枠組みで行われるものがあるため、医師への確認が必要です。

高齢でも癌ワクチン治療を受けることは可能ですか?

可能です。癌ワクチンは全身への副作用が比較的軽微であるため、高齢の方や体力が低下している方でも受け入れやすい治療法とされています。

実際に多くの高齢の患者様が治療を受けています。

ただし、十分な免疫反応を起こすためには一定の基礎的な免疫力が必要ですので、血液検査などで体の状態を確認した上で、治療の適応が判断されます。

副作用が出た場合、すぐに治療を中止しなければなりませんか?

必ずしも中止するとは限りません。副作用の重症度(グレード)によって対応が異なります。軽度であれば、対症療法を行いながら注意深く治療を継続することが多いです。

中等度以上の副作用が出た場合は一時的に休薬し、ステロイドなどで回復を待ちます。

症状が改善すれば再開できることもありますが、生命に関わる重篤な副作用の場合は、原則としてその薬剤の投与は中止となります。

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